スターツ県立ノベマ高校(仮名)にはBL部という部活が存在する。有志が「BLに専念したい」という理由で文芸部から独立したのだ。言い換えると、BL以外は書きたくなかった、となるだろうか。書かずにはいられなかった、とも言えるだろう。
それくらい、彼らがBLに懸ける思いは強い。そんな彼らの作品をご紹介しよう。
こんな作品である。
・吹奏楽部の〇〇くんの筋肉がすごい!
・授業中いつも寝てる〇〇くんが水泳部のエースで!?
・めちゃくちゃチャラい陽キャ男子が弓道部の大会優勝者で!?
・陸上部のエース×陸上部よりも足が速い帰宅部
・オリンピック出場の化学部部長×化学赤点組常連のバスケ部エース
・いつも空腹なサッカー部×食べさせるのが大好きな製菓部部員
現実にありえるのかどうかはさておき、魅力的な組み合わせであるのは間違いない。読んでいてキュンとなる。この二人をずっと見守っていたいと思えてくる。
これも何かの縁だ。BL部の有志が書いた作品を幾つか提示する。上記に一部を表示したものだ。ただし、順不同である。
☆作品番号一番、題名『颯と蓮』
<弓道部の大会優勝者(普段はチャラい) × 図書委員の真面目な子(受:図書委員)>
◎登場人物の紹介
受:蓮(れん) 図書委員。静かで本が好き。
攻:颯(はやて) 表向きはチャラい陽キャだが、弓道では冷静沈着。
図書室で本を整理している蓮に、颯がふらりと現れる。
「お前、弓道の大会見に来てくれたよな?」颯が言うと、蓮は少し驚いて頷く。
「うん。颯くんの集中してる顔、忘れられなくて」蓮の声は小さいが真剣だ。颯はその言葉に目を細める。
「俺、普段はふざけてるけど、蓮が見てるときは本気でやれるんだ」颯が真面目な顔で言うと、蓮の胸が温かくなる。颯はそっと蓮の手に本を差し出した。
「これ、読んでみて。お前が好きそうな話だ」
蓮は本を受け取り、顔を赤らめながらも嬉しそうに笑った。
作品タイトルは『衆道一本筋~男芸者、涙の故郷入り』だった。
颯の不意の優しさが、蓮の心をふわりと満たす。
「ありがとう、ずっと読みたかった本だ」
二人は見つめ合った。その姿を図書室にいた人たちは、心からの優しい目で見守っていたのだった。
☆作品番号二番、題名『月は見えている、何もかも』
<水泳部のエース(授業中は居眠り) × 吹奏楽部の静かな子(受:吹奏楽部)←かな子という女子ではありません>
◎登場人物のご紹介
受:悠斗(ゆうと) 吹奏楽部。静かで真面目。
攻:航(わたる) 水泳部エース。授業中はよく居眠りしているが、泳ぐときは真剣。
放課後のプールサイドで、航が悠斗に声をかける。
「今日の練習、見に来てくれてありがとう」
悠斗は譜面を抱えて、少し照れながら答える。
「航くんの泳ぎ、すごく力強くて…見てて安心します」悠斗の言葉に、航はにっこり笑った。
「悠斗が来てくれると、俺も頑張れるんだ。授業中に寝てるのは内緒ね」航が小声で言うと、悠斗は思わず笑ってしまう。
「悠斗」
「なに?」
「今夜、プールに来いよ」
航からの突然の誘いの言葉に悠斗は、運命を感じた。頷く。
「絶対に行く」
小さな溜め息を吐いて、航は言った。
「待っているよ。絶対に来てくれよな」
夜、プールの水面に月が映る中、航が悠斗の手を取る。
「悠斗、いつもありがとう。お前の音があるから、俺は落ち着ける」
悠斗は胸がきゅんとし、そっと航の手を握り返した。静かな時間が二人を優しく包んだ。水面の月が二人を祝福しているかの如く風に揺れ、やがて割れた。
☆作品番号三番、題名『喰らうべき愛』
<いつも空腹なサッカー部 × 食べさせるのが大好きな製菓部部員(注:受はサッカー部)
◎登場人物の説明
受:陽(はる) サッカー部。練習後はいつもお腹を空かせている。
攻:紗良(さら) 製菓部。お菓子作りが得意で、人に食べさせるのが好き。
放課後、部室の机に並ぶ手作りのクッキー。紗良がにこにこと差し出すと、陽の目が輝いた。
「今日のは新作だよ。食べてみて」紗良が言うと、陽は嬉しそうにかぶりつく。
「うまっ…! 紗良、天才だな」陽の頬が緩む。
紗良は満足そうに笑い、陽の食べっぷりを見ているだけで幸せそうだ。陽はふと真剣な顔になって訊く。
「なんで俺にこんなに作ってくれるの?」
紗良は少し照れて、でもはっきりと答えた。
「陽が美味しそうに食べる顔を見るのが好きだから。もっと食べさせたいんだ」
その言葉に陽の胸がじんわり温かくなる。紗良は手を伸ばして、陽の口元にもう一口差し出した。
「ほら、次はこれ」
陽は笑いながら受け取り、二人の距離は自然と近づいていく。食べることを通して伝わる優しさが、ふたりの関係を柔らかく包んでいった。
☆作品番号四番、タイトル『chemistry』
<オリンピック出場の化学部部長 × 化学赤点組常連のバスケ部エース(受:バスケ部エース)>
◎登場人物は、こちら!
受:航(こう) バスケ部エース。体育会系で明るいが、化学は苦手。
攻:博士(はかせ) 化学部部長。オリンピック出場経験があり、研究熱心で冷静。
放課後の理科室。航は実験ノートを前に眉を寄せている。博士が白衣の袖をまくり、優しく近づいた。
「ここ、こうやって混ぜると反応が穏やかになるよ」博士が示すと、航は目を丸くする。
「そんな細かいことまで…すごいな」航の声には尊敬が混じる。
実験の合間、博士がふと顔を上げて言った。
「航、バスケの試合、見に行ったよ。君のプレーはいつも真っ直ぐで、見ていて気持ちがいい」
航は照れて笑い、胸が熱くなる。
「俺、化学はダメだけど、博士の研究の話を聞くのは好きだよ」
「じゃあ、今度は君が得意なことを教えてくれ」博士の瞳は真剣で、航は心臓が跳ねた。
二人で夜遅くまで残って、実験とシュートの話を交互にする。互いの不得手を補い合う時間が、いつの間にか特別なものになっていった。尊い化学反応が起きたのだ。
☆作品番号五番、タイトル『大地を走る二人』
<陸上部のエース × 帰宅部で陸上部より速い子(受:帰宅部の速い子)>
◎主な登場人物(二人だけですが)
受:和也(かずや) 帰宅部。普段はのんびりしているが、走るときだけは別人のように速い。
攻:大地(だいち) 陸上部エース。真面目で負けず嫌い。
放課後、校庭のトラックでふたりきり。大地が真剣な顔でスタートラインに立つと、和也は肩をすくめて笑った。
「本気で来る?」大地が訊く。
「うん、でも手加減はしないよ」和也は軽くウインクして、スタートの合図を待つ。
走り出した瞬間、風が二人を包む。和也の足は軽く、いつの間にか大地の前に出ていた。ゴールで息を切らしながら振り返ると、大地が悔しそうに笑っている。
「くそ、やられた」
大地が息を整えながら言うと、和也は胸がきゅんとするのを感じた。大地は真剣な顔のまま、そっと和也の手を取る。
「次は負けないから、また勝負しよう」
「うん。大地くんとなら、何回でも走りたい」
和也の声は自然と柔らかくなる。競い合うことで育つ信頼と、勝っても負けても笑い合える関係が、ふたりの間に静かに育っていく。
☆作品番号六番、題名『吹奏楽部の筋肉くんと受けの高校生活」
<吹奏楽部の先輩で筋肉くん × モブっぽい後輩>
◎登場人物
受:悠斗。吹奏楽部。クラリネット担当。目立つタイプではない。
攻:結颯太。吹奏楽部。トランペット担当。悠斗の先輩で筋肉くん。
●第一楽章:君は譜面に恋してる
悠斗はいつも譜面台の端に座っていた。クラリネットを抱え、指先だけでリズムを確かめるように小さく指を動かす。目立つタイプではない。授業中も大人しく、放課後は吹奏楽部の練習に没頭する。そんな悠斗が、ある日ふと気づいた――同じ部室の向こう側にいる、筋肉がすごい先輩のことを。
先輩の名前は結(ゆい)颯太(そうた)。見た目はがっしりしていて、肩幅が広く、腕の筋が楽器ケースの革を押し返すように見える。颯太はトランペット担当で、音は明るく、どこか無邪気な笑顔が似合う。だがその笑顔の裏には、誰よりも真面目に音楽と向き合う姿勢があった。
「颯太先輩、今日のソロ、すごくよかったです」
悠斗の声は小さかったが、颯太はぱっとこちらを向いて、にこりと笑った。
「ありがとう、悠斗。お前、いつも真剣だな。譜面に恋してるんじゃないか?」
その冗談めいた言葉に、悠斗の胸がふわりと熱くなる。颯太の視線が自分に向くと、世界が少しだけ明るくなるのだ。悠斗は自分でも驚くほど、颯太のことを見ている時間が増えていた。
●第二楽章:好きになる瞬間
ある夜、吹奏楽部の合宿でのこと。夜遅くまで練習した後、部屋に戻ると、颯太が窓の外を見ていた。月明かりが颯太の横顔を淡く照らす。
「疲れた?」と悠斗が訊くと、颯太は首を振った。
「ううん。悠斗が頑張ってるの、見てたから。お前、譜面に向かうときの顔が好きだよ」
その言葉に、悠斗の心臓が跳ねた。好き、という言葉はまだ直接的な告白ではないけれど、颯太の声には確かな温度があった。悠斗は自分の胸の奥で、何かがふっとほどけるのを感じた。
「俺も、先輩の音が好きです。先輩が吹くと、なんだか安心するんです」
悠斗の声は震えていたが、颯太は真剣に耳を傾け、そして笑った。
「そっか。じゃあ、これからも一緒に音を作っていこうな」
その一言が、悠斗の世界を変えた。好きになる瞬間は、必ずしも劇的なものではない。日常の中の小さなやり取り、相手が自分を見てくれるという確信が、じわじわと心を満たしていくのだ。
●第三楽章:日常のキュンとする会話
練習帰り、二人で自転車を並べて走る。颯太がふと、悠斗の肩に手を置いた。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
「本当に? じゃあ、ちょっとだけ手、貸していい?」
悠斗は驚きながらも、颯太の手を握る。手の温もりが伝わって、胸がきゅんとする。
放課後の図書室で、悠斗が譜面を探していると、颯太が後ろから囁く。
「その曲、好きなんだろ? 一緒に練習しよう」
「はい、先輩となら安心して吹けます」
「お前、そう言ってくれると、俺も頑張れるよ」
颯太の言葉に、悠斗は顔を赤らめる。二人の会話はいつも自然で、でもどこか特別だ。言葉の端々に含まれる優しさが、悠斗の心を満たしていく。
●第四楽章:小さな誤解とすれ違い
ある日、颯太が急に練習を休んだ。悠斗は心配でたまらず、颯太の家まで行ってしまう。玄関先で待っていると、颯太が息を切らして出てきた。
「ごめん、急にトレーニングが入って…」
「先輩、無理しないでください」
「悠斗が心配するから、つい頑張りすぎちゃうんだよ」
颯太は照れくさそうに笑うが、悠斗は胸がざわついた。自分の存在が、颯太に負担をかけているのではないかと不安になる。しかし颯太はすぐに手を伸ばし、悠斗の手をぎゅっと握った。
「悠斗がいるから、俺は頑張れるんだ。お前がいるだけで、俺は強くなれる」
その言葉に、悠斗は涙が出そうになる。誤解はすぐに解け、二人はまた穏やかな日常に戻っていった。
●第五楽章:文化祭の夜と告白
文化祭の夜、吹奏楽部は校庭で演奏をすることになった。星空の下、悠斗は颯太と並んで立ち、最後の曲を吹き終えた。拍手が鳴り止まない中、颯太が悠斗の肩に手を置いた。
「悠斗、俺さ、ずっと言いたかったことがある」
悠斗は鼓動を抑えきれず、颯太の顔を見上げる。
「俺は、お前のことが好きだ。音楽だけじゃなくて、お前自身が好きだ」
颯太の声は真剣で、震えていた。悠斗の胸は一気に温かくなり、目に涙が浮かんだ。
「私も、先輩のことが好きです」
悠斗の返事は自然に出た。二人は照れくさそうに笑い合い、そっと手を繋いだ。周りの喧騒が遠くなるほど、二人だけの時間がゆっくりと流れた。
●第六楽章:ハッピーな世界の日常
その後の二人は、特別なことをするわけではない。放課後に一緒に練習し、帰り道にコンビニでアイスを分け合い、休日には学校の屋上でお弁当を食べる。だがその日常が、二人にとっては何よりも幸せだった。
颯太は悠斗の前でだけ、少しだけ不器用になる。悠斗は颯太の前でだけ、素直になれる。互いに見守り合い、支え合う関係は、周囲の友人たちにも温かく受け入れられた。
●最終楽章:終わりに
悠斗と颯太の関係は、派手なドラマではなく、日常の積み重ねで育っていった。互いの小さな変化に気づき、言葉にして伝え合うことで、二人の絆は深まっていく。読んでいるあなたが、もしこの二人をずっと見守りたいと思ったなら、それはきっと正しい感覚だ。
彼らの世界は、優しさと温度で満ちている。キュンとする会話、ふとした仕草、そして何よりも互いを大切に思う気持ちが、ページの向こうで静かに輝いている。これからも二人は、同じ音を奏でながら、穏やかに歩んでいくだろう。
↑
最後の作品だけ長いので、驚いた。実は、他の作品は書きかけなのだという。それも納得である。まあ、それを言うなら最後の小説も書きかけのような完成度だが、それは言うまい。
他のBLは無いのだろうか? BL部員たちに聞いてみたところ、あるにはあるが、第三回ずっと見守りたい♡BL短編コンテストに出品できる代物ではそうだ。現代設定ではなく異世界、ファンタジー、獣人、オメガバースもの等だったり過度な性描写が「これでもか!」と盛り込まれていたりするそうで、公表は難しいようである。
だが、第四回があれば是非とも投稿したいとのことなので、彼らの作品を待とうではないか。乱筆乱文失礼。
それくらい、彼らがBLに懸ける思いは強い。そんな彼らの作品をご紹介しよう。
こんな作品である。
・吹奏楽部の〇〇くんの筋肉がすごい!
・授業中いつも寝てる〇〇くんが水泳部のエースで!?
・めちゃくちゃチャラい陽キャ男子が弓道部の大会優勝者で!?
・陸上部のエース×陸上部よりも足が速い帰宅部
・オリンピック出場の化学部部長×化学赤点組常連のバスケ部エース
・いつも空腹なサッカー部×食べさせるのが大好きな製菓部部員
現実にありえるのかどうかはさておき、魅力的な組み合わせであるのは間違いない。読んでいてキュンとなる。この二人をずっと見守っていたいと思えてくる。
これも何かの縁だ。BL部の有志が書いた作品を幾つか提示する。上記に一部を表示したものだ。ただし、順不同である。
☆作品番号一番、題名『颯と蓮』
<弓道部の大会優勝者(普段はチャラい) × 図書委員の真面目な子(受:図書委員)>
◎登場人物の紹介
受:蓮(れん) 図書委員。静かで本が好き。
攻:颯(はやて) 表向きはチャラい陽キャだが、弓道では冷静沈着。
図書室で本を整理している蓮に、颯がふらりと現れる。
「お前、弓道の大会見に来てくれたよな?」颯が言うと、蓮は少し驚いて頷く。
「うん。颯くんの集中してる顔、忘れられなくて」蓮の声は小さいが真剣だ。颯はその言葉に目を細める。
「俺、普段はふざけてるけど、蓮が見てるときは本気でやれるんだ」颯が真面目な顔で言うと、蓮の胸が温かくなる。颯はそっと蓮の手に本を差し出した。
「これ、読んでみて。お前が好きそうな話だ」
蓮は本を受け取り、顔を赤らめながらも嬉しそうに笑った。
作品タイトルは『衆道一本筋~男芸者、涙の故郷入り』だった。
颯の不意の優しさが、蓮の心をふわりと満たす。
「ありがとう、ずっと読みたかった本だ」
二人は見つめ合った。その姿を図書室にいた人たちは、心からの優しい目で見守っていたのだった。
☆作品番号二番、題名『月は見えている、何もかも』
<水泳部のエース(授業中は居眠り) × 吹奏楽部の静かな子(受:吹奏楽部)←かな子という女子ではありません>
◎登場人物のご紹介
受:悠斗(ゆうと) 吹奏楽部。静かで真面目。
攻:航(わたる) 水泳部エース。授業中はよく居眠りしているが、泳ぐときは真剣。
放課後のプールサイドで、航が悠斗に声をかける。
「今日の練習、見に来てくれてありがとう」
悠斗は譜面を抱えて、少し照れながら答える。
「航くんの泳ぎ、すごく力強くて…見てて安心します」悠斗の言葉に、航はにっこり笑った。
「悠斗が来てくれると、俺も頑張れるんだ。授業中に寝てるのは内緒ね」航が小声で言うと、悠斗は思わず笑ってしまう。
「悠斗」
「なに?」
「今夜、プールに来いよ」
航からの突然の誘いの言葉に悠斗は、運命を感じた。頷く。
「絶対に行く」
小さな溜め息を吐いて、航は言った。
「待っているよ。絶対に来てくれよな」
夜、プールの水面に月が映る中、航が悠斗の手を取る。
「悠斗、いつもありがとう。お前の音があるから、俺は落ち着ける」
悠斗は胸がきゅんとし、そっと航の手を握り返した。静かな時間が二人を優しく包んだ。水面の月が二人を祝福しているかの如く風に揺れ、やがて割れた。
☆作品番号三番、題名『喰らうべき愛』
<いつも空腹なサッカー部 × 食べさせるのが大好きな製菓部部員(注:受はサッカー部)
◎登場人物の説明
受:陽(はる) サッカー部。練習後はいつもお腹を空かせている。
攻:紗良(さら) 製菓部。お菓子作りが得意で、人に食べさせるのが好き。
放課後、部室の机に並ぶ手作りのクッキー。紗良がにこにこと差し出すと、陽の目が輝いた。
「今日のは新作だよ。食べてみて」紗良が言うと、陽は嬉しそうにかぶりつく。
「うまっ…! 紗良、天才だな」陽の頬が緩む。
紗良は満足そうに笑い、陽の食べっぷりを見ているだけで幸せそうだ。陽はふと真剣な顔になって訊く。
「なんで俺にこんなに作ってくれるの?」
紗良は少し照れて、でもはっきりと答えた。
「陽が美味しそうに食べる顔を見るのが好きだから。もっと食べさせたいんだ」
その言葉に陽の胸がじんわり温かくなる。紗良は手を伸ばして、陽の口元にもう一口差し出した。
「ほら、次はこれ」
陽は笑いながら受け取り、二人の距離は自然と近づいていく。食べることを通して伝わる優しさが、ふたりの関係を柔らかく包んでいった。
☆作品番号四番、タイトル『chemistry』
<オリンピック出場の化学部部長 × 化学赤点組常連のバスケ部エース(受:バスケ部エース)>
◎登場人物は、こちら!
受:航(こう) バスケ部エース。体育会系で明るいが、化学は苦手。
攻:博士(はかせ) 化学部部長。オリンピック出場経験があり、研究熱心で冷静。
放課後の理科室。航は実験ノートを前に眉を寄せている。博士が白衣の袖をまくり、優しく近づいた。
「ここ、こうやって混ぜると反応が穏やかになるよ」博士が示すと、航は目を丸くする。
「そんな細かいことまで…すごいな」航の声には尊敬が混じる。
実験の合間、博士がふと顔を上げて言った。
「航、バスケの試合、見に行ったよ。君のプレーはいつも真っ直ぐで、見ていて気持ちがいい」
航は照れて笑い、胸が熱くなる。
「俺、化学はダメだけど、博士の研究の話を聞くのは好きだよ」
「じゃあ、今度は君が得意なことを教えてくれ」博士の瞳は真剣で、航は心臓が跳ねた。
二人で夜遅くまで残って、実験とシュートの話を交互にする。互いの不得手を補い合う時間が、いつの間にか特別なものになっていった。尊い化学反応が起きたのだ。
☆作品番号五番、タイトル『大地を走る二人』
<陸上部のエース × 帰宅部で陸上部より速い子(受:帰宅部の速い子)>
◎主な登場人物(二人だけですが)
受:和也(かずや) 帰宅部。普段はのんびりしているが、走るときだけは別人のように速い。
攻:大地(だいち) 陸上部エース。真面目で負けず嫌い。
放課後、校庭のトラックでふたりきり。大地が真剣な顔でスタートラインに立つと、和也は肩をすくめて笑った。
「本気で来る?」大地が訊く。
「うん、でも手加減はしないよ」和也は軽くウインクして、スタートの合図を待つ。
走り出した瞬間、風が二人を包む。和也の足は軽く、いつの間にか大地の前に出ていた。ゴールで息を切らしながら振り返ると、大地が悔しそうに笑っている。
「くそ、やられた」
大地が息を整えながら言うと、和也は胸がきゅんとするのを感じた。大地は真剣な顔のまま、そっと和也の手を取る。
「次は負けないから、また勝負しよう」
「うん。大地くんとなら、何回でも走りたい」
和也の声は自然と柔らかくなる。競い合うことで育つ信頼と、勝っても負けても笑い合える関係が、ふたりの間に静かに育っていく。
☆作品番号六番、題名『吹奏楽部の筋肉くんと受けの高校生活」
<吹奏楽部の先輩で筋肉くん × モブっぽい後輩>
◎登場人物
受:悠斗。吹奏楽部。クラリネット担当。目立つタイプではない。
攻:結颯太。吹奏楽部。トランペット担当。悠斗の先輩で筋肉くん。
●第一楽章:君は譜面に恋してる
悠斗はいつも譜面台の端に座っていた。クラリネットを抱え、指先だけでリズムを確かめるように小さく指を動かす。目立つタイプではない。授業中も大人しく、放課後は吹奏楽部の練習に没頭する。そんな悠斗が、ある日ふと気づいた――同じ部室の向こう側にいる、筋肉がすごい先輩のことを。
先輩の名前は結(ゆい)颯太(そうた)。見た目はがっしりしていて、肩幅が広く、腕の筋が楽器ケースの革を押し返すように見える。颯太はトランペット担当で、音は明るく、どこか無邪気な笑顔が似合う。だがその笑顔の裏には、誰よりも真面目に音楽と向き合う姿勢があった。
「颯太先輩、今日のソロ、すごくよかったです」
悠斗の声は小さかったが、颯太はぱっとこちらを向いて、にこりと笑った。
「ありがとう、悠斗。お前、いつも真剣だな。譜面に恋してるんじゃないか?」
その冗談めいた言葉に、悠斗の胸がふわりと熱くなる。颯太の視線が自分に向くと、世界が少しだけ明るくなるのだ。悠斗は自分でも驚くほど、颯太のことを見ている時間が増えていた。
●第二楽章:好きになる瞬間
ある夜、吹奏楽部の合宿でのこと。夜遅くまで練習した後、部屋に戻ると、颯太が窓の外を見ていた。月明かりが颯太の横顔を淡く照らす。
「疲れた?」と悠斗が訊くと、颯太は首を振った。
「ううん。悠斗が頑張ってるの、見てたから。お前、譜面に向かうときの顔が好きだよ」
その言葉に、悠斗の心臓が跳ねた。好き、という言葉はまだ直接的な告白ではないけれど、颯太の声には確かな温度があった。悠斗は自分の胸の奥で、何かがふっとほどけるのを感じた。
「俺も、先輩の音が好きです。先輩が吹くと、なんだか安心するんです」
悠斗の声は震えていたが、颯太は真剣に耳を傾け、そして笑った。
「そっか。じゃあ、これからも一緒に音を作っていこうな」
その一言が、悠斗の世界を変えた。好きになる瞬間は、必ずしも劇的なものではない。日常の中の小さなやり取り、相手が自分を見てくれるという確信が、じわじわと心を満たしていくのだ。
●第三楽章:日常のキュンとする会話
練習帰り、二人で自転車を並べて走る。颯太がふと、悠斗の肩に手を置いた。
「寒くないか?」
「大丈夫です」
「本当に? じゃあ、ちょっとだけ手、貸していい?」
悠斗は驚きながらも、颯太の手を握る。手の温もりが伝わって、胸がきゅんとする。
放課後の図書室で、悠斗が譜面を探していると、颯太が後ろから囁く。
「その曲、好きなんだろ? 一緒に練習しよう」
「はい、先輩となら安心して吹けます」
「お前、そう言ってくれると、俺も頑張れるよ」
颯太の言葉に、悠斗は顔を赤らめる。二人の会話はいつも自然で、でもどこか特別だ。言葉の端々に含まれる優しさが、悠斗の心を満たしていく。
●第四楽章:小さな誤解とすれ違い
ある日、颯太が急に練習を休んだ。悠斗は心配でたまらず、颯太の家まで行ってしまう。玄関先で待っていると、颯太が息を切らして出てきた。
「ごめん、急にトレーニングが入って…」
「先輩、無理しないでください」
「悠斗が心配するから、つい頑張りすぎちゃうんだよ」
颯太は照れくさそうに笑うが、悠斗は胸がざわついた。自分の存在が、颯太に負担をかけているのではないかと不安になる。しかし颯太はすぐに手を伸ばし、悠斗の手をぎゅっと握った。
「悠斗がいるから、俺は頑張れるんだ。お前がいるだけで、俺は強くなれる」
その言葉に、悠斗は涙が出そうになる。誤解はすぐに解け、二人はまた穏やかな日常に戻っていった。
●第五楽章:文化祭の夜と告白
文化祭の夜、吹奏楽部は校庭で演奏をすることになった。星空の下、悠斗は颯太と並んで立ち、最後の曲を吹き終えた。拍手が鳴り止まない中、颯太が悠斗の肩に手を置いた。
「悠斗、俺さ、ずっと言いたかったことがある」
悠斗は鼓動を抑えきれず、颯太の顔を見上げる。
「俺は、お前のことが好きだ。音楽だけじゃなくて、お前自身が好きだ」
颯太の声は真剣で、震えていた。悠斗の胸は一気に温かくなり、目に涙が浮かんだ。
「私も、先輩のことが好きです」
悠斗の返事は自然に出た。二人は照れくさそうに笑い合い、そっと手を繋いだ。周りの喧騒が遠くなるほど、二人だけの時間がゆっくりと流れた。
●第六楽章:ハッピーな世界の日常
その後の二人は、特別なことをするわけではない。放課後に一緒に練習し、帰り道にコンビニでアイスを分け合い、休日には学校の屋上でお弁当を食べる。だがその日常が、二人にとっては何よりも幸せだった。
颯太は悠斗の前でだけ、少しだけ不器用になる。悠斗は颯太の前でだけ、素直になれる。互いに見守り合い、支え合う関係は、周囲の友人たちにも温かく受け入れられた。
●最終楽章:終わりに
悠斗と颯太の関係は、派手なドラマではなく、日常の積み重ねで育っていった。互いの小さな変化に気づき、言葉にして伝え合うことで、二人の絆は深まっていく。読んでいるあなたが、もしこの二人をずっと見守りたいと思ったなら、それはきっと正しい感覚だ。
彼らの世界は、優しさと温度で満ちている。キュンとする会話、ふとした仕草、そして何よりも互いを大切に思う気持ちが、ページの向こうで静かに輝いている。これからも二人は、同じ音を奏でながら、穏やかに歩んでいくだろう。
↑
最後の作品だけ長いので、驚いた。実は、他の作品は書きかけなのだという。それも納得である。まあ、それを言うなら最後の小説も書きかけのような完成度だが、それは言うまい。
他のBLは無いのだろうか? BL部員たちに聞いてみたところ、あるにはあるが、第三回ずっと見守りたい♡BL短編コンテストに出品できる代物ではそうだ。現代設定ではなく異世界、ファンタジー、獣人、オメガバースもの等だったり過度な性描写が「これでもか!」と盛り込まれていたりするそうで、公表は難しいようである。
だが、第四回があれば是非とも投稿したいとのことなので、彼らの作品を待とうではないか。乱筆乱文失礼。



