区大会当日。
自分が出せる全力で泳いで、腕にも脚にも肺にも疲労がたまっていた。何回やっても慣れない痛みと苦しさと体の重さを抱えながら電光掲示板へ目をやる。
瑞稀は54''83。いろいろなことがあった記録会から大会までの間で縮めたタイムを、改めて正式に出すことができた。そして澄水は、
54''70
また負けた。でも――また一歩、追いついた。
少し待てば総合順位が発表されるが、瑞稀はそれを待たずにプールからあがった。一直線に澄水のもとへ向かうと、澄水は悔しそうだったが、それでも笑っていた。
「瑞稀、速くなってるじゃん」
澄水の言葉を聞いて瑞稀はくしゃっと笑う。褒められたのもあるが、それ以上に澄水がこれからも隣にいること、追いついても、勝ったとしても終わらないことが嬉しかった。
「澄水、今日の大会で俺が勝ってたらどうしてたわけ?」
「次に絶対勝ち返す」
「それだけ?」
「……やっぱり、大差つけて勝つ」
「うわ、負けず嫌い。でもそうこなくっちゃ勝負する甲斐がないよな。俺、ずっと澄水と競ってたいし」
帰り道、ひとしきり大会について話したあと、宣戦布告をするとなぜか澄水は黙り込んだ。
「それが返事?」
かと思えば想像もしていなかったことを言われたので、聞き返してしまう。
「返事って?」
「告白の」
――いやそれ、昨日はっきり言ったと思うんだけど。
瑞稀は苦笑いを浮かべる。
「俺は澄水と一緒にいる。絶対!」
「そうじゃなくて」
もっと直接的に。
ここまで澄水がなにかしてほしいと瑞稀に頼んできたことがあっただろうか。そう考えると自然に口元が緩む。
「俺、澄水のことが好き。勝ちたいし、隣にいたいし、これからもずっと追いかける」
今まで曖昧だったが、口にしてようやく自分の気持ちを再認識する。
「俺も」
澄水は笑顔を浮かべながら答えた。

