「瑞稀、最近速いな」
「え、そうっすか?」
「だってお前、記録会から三週間で0.1秒縮めてるんだぞ? 逆に心配なくらい」
「心配ご無用ですよ、練習すっげえ頑張ってるんでそのおかげかも」
「やたら張り切ってるもんな、俺からしたら羨ましい話だ。ついでにもう一ついいか?」
「もちろん、なんでもどうぞ!」
「じゃあ聞くが……澄水、あいつどうしたんだ? 瑞稀が速くなり始めたのと同じくらいの時期から無口極めてるんだが」
「あー……澄水がああなった理由は、俺も分かんないんですけど」
瑞稀と部長は、雑談をやめて澄水のほうを振り返った。淡々と休憩している姿を見て、二人ともため息をつく。
「俺も本当に分かんないんですよ。なんも話してくれないし、妙に避けられてるし。速くなったこと、褒めてほしかったのに」
「澄水は基本瑞稀としか話さないからな……瑞稀でも分からないんだったら俺にも分からないな」
瑞稀は澄水を見て、もう一度ため息をついた。
「もう、澄水どうしちゃったんだよ……」
澄水に先に帰られて一人で帰路につくのを余儀なくされたところで独り言が飛び出す。
端的に言えば、最近の澄水は、変だ。
正直アタックされるかなと思っていたし、それを期待していた自分がいたのも事実だ。が、なぜか黙って考えごとをしているような時間が多くなったように感じるし、それどころか少し距離を置かれているように思うのは自分だけなのか?
――じゃあ今までのはなんだったんだよ。
速くなったことでたくさんの人が褒めてくれるようになったが、それが原因だったら澄水の不機嫌は嫉妬になるはずだ。となると、瑞稀が追いついていることが理由になるが。
今まではタイムがよくなったら嬉しかった。早く澄水に勝ちたかったからだ。
でも、今はいいタイムを出すと澄水が静かになる。だから嬉しくない。
それに、このまま速くなると澄水が離れていきそうな気がする。
「うわあ……」
これまで『不機嫌の理由』を考えてきたのに、また『不機嫌の理由』……はっきり言って、もう考えることを放棄したい。
瑞稀は堂々巡りになって頭を抱える。しばらく結論が出そうな気配はなかった。

