【短】追いついて、隣で。




 二人の少年が夕日に向かって河川敷を歩いていた。二人とも黒髪で、その身長に合わないほど大きなナップサックを背負っている。


「ねえ」


 やや背の高い少年、澄水(すい)がもう片方の少年を呼ぶ。


「くやしくないの」

「くやしいにきまってんだろ」


 即答されて、少年は言葉に詰まった。


――たしかに、そうだ。


 なぜならもう片方の少年、瑞稀(みずき)はさっきまで泣いていたのだから。

 歩くたびに夕焼けの反射で瑞稀の頬についた涙の跡が光る。瑞稀はもう泣いておらず、笑っていた。

 二人にとっては初めての大会だった水泳の区大会、その小学1年生の部門で澄水は1位を収め、瑞稀は惜しくも2位。どちらも好タイムを出し、3位に大差をつけた。


「澄水にまけて、くやしくないわけないだろ」


 大会が終わった直後の瑞稀は泣いていた。もらった銀メダルを抱えながら、悔し涙を流していた。

 澄水と瑞稀は幼稚園に入園したときからスイミングスクールでともに競い合い、高め合ってきた。だからこそ、心待ちにしていた初めての大会で澄水に負けたことが悔しかったのだろう。


「でも、つぎはぜったいかつから」

「ほんとに?」

「ああ。ぜったいかつ。かつまでやめない。かってもやめない」 


 それを聞いた瞬間、澄水の頭の中にある考えが浮かんだ。


――もしかしたら、おれのこと、追ってくれる?


 澄水にとってライバルという存在はずっと憧れだった。だから『ぜったいかつ』と言われたことがくすぐったかった。

 そのときは、この言葉が今にまで続く約束になるとは思っていなかった。

 言葉通り、あの日から何日経っても、何年経っても、瑞稀はずっと澄水の隣にいる。

 瑞稀のメダルのコレクションの中に金色があった記憶はない。だからそのうち諦めるだろうと思っていた。でも瑞稀は諦めない。勝てないのに、勝てないからこそ隣にいる。

 自分は追われる側だと思っていた。だが、澄水は何度負けても立ち上がる瑞稀を追い続けていた。なぜだか目を離せなかった。泳げてしまう澄水と泳ぐために努力し続ける瑞稀、違うからこそ惹かれた。

 気付けば瑞稀が澄水に勝って離れていく日が嫌で、さらに水泳にのめり込んでいた。