連弾Re:スタート

 人生には三つの『さか』がある。
上り坂、下り坂、そして『まさか』。初めて聞いたときは「しょうもないダジャレだな」と呆れたものだ。しかし今、三沢遥斗(みさわはると)の頭に思い浮かんだ言葉がそれだった。
「じょ、冗談だろ」
 衝撃を緩和させるべく、遥斗は敢えて軽い口調で答えた。
「冗談じゃねえよ。ってかこんなこと冗談で言えるかよ」
 最後の望みを打ち砕く、ドラムでリーダーのカズポンの真摯な返答。
「・・・な、何で?」
 黙り込むとじわじわと何かに飲み込まれそうで、遥斗はすぐさま問い質す。
「俺、京都の大学へ行くことしたんだ。んで、ケースケも就職先で福岡支社に配属になったって言うし、モリゾーも東京の専門学校に決めたって言うからさ」
 カズポンが確認するように各々の顔を見ながら説明する。
「俺らも遥斗に『いつ言おう、いつ言おう』ってそれなりに頭悩ませてさ。ライブ終わってからにしようかとも思ったりもしたんだけど、ほら、何ちゅうか、『これがラストライブ』って認識してステージ立った方が気持ちの整理がつくかなって思ってさ。だから、まあ、そのライブ前日の今日、スタジオで伝えようって三人で話しあったんだ」
 ギターのケースケが手にしたピックをもてあそびながらぼそぼそと説明する。その声は遥斗の耳に聞こえてはいたが、到底理解はできなかった。
「ほら、遥斗も四月から高校生だろ。勉強出来るんだし、これからは勉学に集中するっていう人生もアリだろ」
 モリゾーが子供を宥めるような口振りで語りかけてくる。確かに遥斗の成績は優秀であった。四月から進学する高校も県内屈指の進学校。でも、それは「バンドなんかしてないで勉強しなさい」と親に言われたくなかったから必死に頑張ってきただけであった。
 中学一年のとき、兄の聖斗が「友達のバンドのライブを観に行く」と言うので付いて行き、ロックと出会った遥斗。一瞬で心を奪われた。スポットライトを浴びて、ステージで音をかき鳴らすバンドサウンドの格好良さ。あのとき自分の目はまさにハートマークになっていたと遥斗は思う。そしてライブ終了後、聖斗と談笑するメンバーに遥斗は直談判したのだ。「オレもバンドやりたい」と。そのときは苦笑いで受け流された遥斗の申し出。しかし、その後、ボーカルが他のバンドに引き抜かれたのがきっかけで遥斗にお鉢が回ってきた。それから二年、バンド一色だった遥斗の生活。
「・・・『メジャーに行こう!!』って言ってたじゃん!!」
 遥斗はすがるような思いで叫ぶ。
「えっ、そんなのマジ、信じてたのかよ。そんなのそんときのノリで出た言葉に決まってんじゃん。もしかして、ずっとそんなこと信じてたのかよ」
 カズポンが驚きも、さらには呆れも通り越して、憐れむような目で遥斗を見てくる。そんなカズポンの眼差しを受けて、遥斗の中で何かが音を立てて崩れていった。