その日が、たまたま雨だったから。
急に、雨が降ってきたから。
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6月下旬。その年は、梅雨入りしてもあまり雨が降っていなかった。そのせいでみんな傘なんて持ち歩いていなくて、地面を太陽が照らしていた。今思えば、嵐の前の静けさだったのかもしれない。
放課後、優太と帰り道を呑気に歩いていた。くだらないことで笑っていたら、ぽつり、と水が肌に落ちた感覚がした。お互いに顔を見合わせ、瞳で、会話した。ああ、久しぶりに優太の目をしっかり見たと思った。その時だけ、「ただの幼馴染」に戻れた気がした。しかしそんな物思いに耽っていれたのはほんの一瞬で、雨脚はすぐに強くなり、豪雨へと様変わりした。
駆け出したのは二人同時で、一直線に俺の家を目指して一心不乱に走った。全力で走ったせいで息は切れ、玄関までたどり着いたときには両膝に手をつき、肩で息をした。それでも、雨は上がっていた。
なんだかすごく、喉が渇いていた。家につくとマグカップに氷を溢れんばかりに入れ、ルイボスティーを注ぐ。氷で満たされたカップにはほんの少しのお茶しか入らなかった。
喉が潤うと、我先にとシャワーを浴びようとする高校生の戦いが始まった。じゃんけんで勝って、俺が先にシャワーを浴びた。それなのに途中で、優太が鼻歌を歌いながら入ってきた。俺は頬の火照りを冷ますために、背を向けてシャワーを浴びた。俺たちの間に会話は無かった。
小さい頃は2人入っても広かったシャワールームも、高校生にもなると少し窮屈に思えた。優太の長い腕が、顔の横を通って無遠慮にシャワーヘッドを掴んでとっていく。
こんな至近距離にいても、優太はなんとも思わない。俺だけ、別の感情を抱いている。その事実を、無邪気に、幼い頃のように接する優太が苦しいほどに教えてくれる。もう十分だと、これ以上は要らないと、そう心が叫んでも、吐くほどに君が俺の中に入ってくる。
こんなにも気持ち悪いのは罪悪感なのか、はたまた別の感情なのか。唐突に思い出したルイボスティーの氷が溶けていないか、そんなを考えて、必死に気を紛らわしていた。
体を洗い終えたら逃げるように風呂を後にした。ルイボスティーに浮かぶ氷は、まだキンキンに冷え、形を保っていた。口を付けたカップは結露をおこしていて、滑った。
優太はとても長い時間、シャワールームに居座っていた。同じ屋根の下にいるのは、学校でも同じだというのに、家という別の場所であるせいで胸の高鳴りが止まらなかった。スマホを触る気にもなれず、テレビをつける気も起きなかった。また、喉が渇いてルイボスティーを口に含む。やけに薄く感じてカップの中を眺めてみると、氷がほとんど溶けて、色が薄くなっていた。溶けた氷が、過ぎ去ってしまった過去を象徴し、カップについた水滴が「幼馴染」という関係に縋りついている俺を嘲笑っているようだった。
苦しい感情を腹の奥底に流し込むために飲み干したルイボスティーは、色がついただけの水となっていた。溢れんばかりに入れた氷の力はまだ残っていて、冷たすぎて少し頭がキーンとして、目を瞑った。パタンとシャワールームの扉が開閉する音がして、優太が出てきたのだと思った。それはそれでとても苦しかった。
結局、君が居ても居なくても苦しいのは変わらなくて。自分が気持ち悪いのも変わらなくて。過去に縋っているだけの自分が情けなくて。もう一人の自分が嘲笑ってくるのが悔しくて。一人の夜が苦しくて。一緒にいると心臓が痛くて。
切り替えないと。平然と、何事もなかったように、ただの幼馴染としてふるまえるように。
急に、雨が降ってきたから。
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6月下旬。その年は、梅雨入りしてもあまり雨が降っていなかった。そのせいでみんな傘なんて持ち歩いていなくて、地面を太陽が照らしていた。今思えば、嵐の前の静けさだったのかもしれない。
放課後、優太と帰り道を呑気に歩いていた。くだらないことで笑っていたら、ぽつり、と水が肌に落ちた感覚がした。お互いに顔を見合わせ、瞳で、会話した。ああ、久しぶりに優太の目をしっかり見たと思った。その時だけ、「ただの幼馴染」に戻れた気がした。しかしそんな物思いに耽っていれたのはほんの一瞬で、雨脚はすぐに強くなり、豪雨へと様変わりした。
駆け出したのは二人同時で、一直線に俺の家を目指して一心不乱に走った。全力で走ったせいで息は切れ、玄関までたどり着いたときには両膝に手をつき、肩で息をした。それでも、雨は上がっていた。
なんだかすごく、喉が渇いていた。家につくとマグカップに氷を溢れんばかりに入れ、ルイボスティーを注ぐ。氷で満たされたカップにはほんの少しのお茶しか入らなかった。
喉が潤うと、我先にとシャワーを浴びようとする高校生の戦いが始まった。じゃんけんで勝って、俺が先にシャワーを浴びた。それなのに途中で、優太が鼻歌を歌いながら入ってきた。俺は頬の火照りを冷ますために、背を向けてシャワーを浴びた。俺たちの間に会話は無かった。
小さい頃は2人入っても広かったシャワールームも、高校生にもなると少し窮屈に思えた。優太の長い腕が、顔の横を通って無遠慮にシャワーヘッドを掴んでとっていく。
こんな至近距離にいても、優太はなんとも思わない。俺だけ、別の感情を抱いている。その事実を、無邪気に、幼い頃のように接する優太が苦しいほどに教えてくれる。もう十分だと、これ以上は要らないと、そう心が叫んでも、吐くほどに君が俺の中に入ってくる。
こんなにも気持ち悪いのは罪悪感なのか、はたまた別の感情なのか。唐突に思い出したルイボスティーの氷が溶けていないか、そんなを考えて、必死に気を紛らわしていた。
体を洗い終えたら逃げるように風呂を後にした。ルイボスティーに浮かぶ氷は、まだキンキンに冷え、形を保っていた。口を付けたカップは結露をおこしていて、滑った。
優太はとても長い時間、シャワールームに居座っていた。同じ屋根の下にいるのは、学校でも同じだというのに、家という別の場所であるせいで胸の高鳴りが止まらなかった。スマホを触る気にもなれず、テレビをつける気も起きなかった。また、喉が渇いてルイボスティーを口に含む。やけに薄く感じてカップの中を眺めてみると、氷がほとんど溶けて、色が薄くなっていた。溶けた氷が、過ぎ去ってしまった過去を象徴し、カップについた水滴が「幼馴染」という関係に縋りついている俺を嘲笑っているようだった。
苦しい感情を腹の奥底に流し込むために飲み干したルイボスティーは、色がついただけの水となっていた。溢れんばかりに入れた氷の力はまだ残っていて、冷たすぎて少し頭がキーンとして、目を瞑った。パタンとシャワールームの扉が開閉する音がして、優太が出てきたのだと思った。それはそれでとても苦しかった。
結局、君が居ても居なくても苦しいのは変わらなくて。自分が気持ち悪いのも変わらなくて。過去に縋っているだけの自分が情けなくて。もう一人の自分が嘲笑ってくるのが悔しくて。一人の夜が苦しくて。一緒にいると心臓が痛くて。
切り替えないと。平然と、何事もなかったように、ただの幼馴染としてふるまえるように。
