ずいぶん丁寧な男だな、というのが第一印象だった。
上野 翔(うえの しょう)は高校二年。十七歳。身長百八十センチ。
長身に端正な顔立ちを持つ男だ。成績は普通、運動神経抜群。
素行は、あまり良くない。
授業はサボって当たり前。悪友とサボってゲーセンに行くのは毎回のことだった。
女関係もだらしなく、彼女ができてはすぐ別れて、その日に会っただけの相手と付き合ったりする。
そんな不真面目さを体現したような男を、よく思わない者も少なくない。
しかし翔はそんな批判に興味がなく、うるさい奴らが何か言っているな、程度にしか思っていなかった。
そんな自由な男だった。
*
七月のある日、翔は落胆していた。
数日前のHR(ホームルーム)をサボったところ、その日は文化祭実行委員を決める会だったらしく、不在の翔は見事にその役を押し付けられてしまっていたのである。
もちろん、そんなの真面目にやるわけない。
文化祭実行委員の全体会議の日も、さっさと帰ってバックれようとしたのだが、担任に見つかり会議に出ないと成績を落とすと言われ、渋々参加することにしたのだった
「てか、委員会ごときで成績下げるって。普通に脅しだろ…」
文化祭実行委員の全体会議は、三学年合同・隔週一回だ。
文化祭は十月。約三ヶ月間の任期は、翔には途方も無い長さに感じられた。
なんとか適当にやり過ごして、できるだけ楽に進められますように。
そんな、なかなか最低なことを考えながら廊下を歩く。
「会議室は……っと、ここか」
扉を開けると、まだ人数はまばらで、揃いきっていないようだった。
周囲の生徒に軽く見ながら、自分の席へ向かう。
――二年B組 上野 翔
そう書かれた札が置かれているのが自分の席だ。
実行委員は各クラス二名ずつ選出されるのだが、翔のペアとなる相手はすでに席についていた。
札には、
――二年B組 品川 真一
と書かれている。
整えられた黒髪に、メタルフレームの丸眼鏡。いかにも優等生らしい見た目。
翔はクラスメイトに興味がないため、名前を見てもいまいちピンとこなかった。
翔はその隣に腰を下ろした。
横の生徒は、翔に気づくと翔の方を向くように座り直して
「上野 翔くんだよな。俺は品川 真一(しながわ しんいち)。三ヶ月間よろしくな」
「……よろしく。」
丁寧に自己紹介をして、真一は翔に委員の資料を手渡した。
他の席を見ると、資料は十枚ほどの紙が無造作に置かれているだけだった。しかし真一から渡された資料は綺麗に揃えられ、左上をホチキスで留められている。
配られた資料を自分でまとめ、そのうえ翔の分まで整えておいたのだろう。
翔はそれに気づいたが、特に感謝はしなかった。
ペア相手が真面目そうだし、これは楽ができるかもしれない。ラッキーだ。
その程度にしか思わない。
同時に、丁寧な男だな。周りにいないタイプだ。と思った。
「それでは、文化祭実行委員の全体会議を始めます」
委員長らしき人物が会議の開始を告げる。
退屈な会議に、翔はあくびを噛み殺すことすらしない。
ふと隣を見ると、真一はひとつひとつ丁寧に会議内容を書き留めていた。
会議が終わり、解散となった。
翔の資料はぺらぺらとめくっただけでほとんど傷んでいない。一方、真一の資料はすでにしわだらけで、何度も確認しながら書き込んだ様子がうかがえた。
次回までに、各クラスで文化祭の出し物を第三希望まで集計し、全体会議へ提出しなければならない。
翔は、これなら真一にうまく任せられるかもしれない、と思った。最悪な男である。
「なあ、この集計さ。どうやって集める?」
「そうだな。まずはLHR(ロングホームルーム)の時間を確保できるか先生に確認する。それからクラス会議で候補を集めて、アンケートを実施。集計して提出するのが一番シンプルだろうな」
「シンプルかあ? 集計とか……めんどくさ」
思ったことをそのまま言ってしまうのは翔の悪い癖だ。
「めんどくさいな。けど、やらないほうがめんどくさいから」
真一はふふっと笑った。
なんだ、冗談も通じるのか。
翔の失礼な発言にも動じない。ちょっと面白いやつかもしれない。
そう思ったが、それだけだった。
「LHR(ロングホームルーム)の交渉は俺にまかせてくれ。先生とのやりとりは得意なんだ」
そう言う真一に、まあそうだろうな、と思う。いかにも得意そうだ。
そして、楽ができそうという予想も当たりそうで、翔は内心ほくそ笑んだ。
「じゃあ、よろしく。クラス会議まで俺はなにもしなくていい感じ?」
「うん。クラス会議ではよろしくな。」
クラス会議は、もちろんサボるつもりだ。
押し付けられそうな奴がいるし、自分が出る必要もないだろう。
翔は「わかったわかった。それじゃ」と答え、席を立った。
今日は悪友たちとの会合だ。さっさと向かうことにする。
途中、ちらりと振り返る。
真一はまだ資料を見返し、念入りにスケジュールを確認していた。
やっぱり丁寧な男だな。と思った。それだけ。
まさか数か月後、自分がその男に振り回されることになるとは知らずに。
上野 翔(うえの しょう)は高校二年。十七歳。身長百八十センチ。
長身に端正な顔立ちを持つ男だ。成績は普通、運動神経抜群。
素行は、あまり良くない。
授業はサボって当たり前。悪友とサボってゲーセンに行くのは毎回のことだった。
女関係もだらしなく、彼女ができてはすぐ別れて、その日に会っただけの相手と付き合ったりする。
そんな不真面目さを体現したような男を、よく思わない者も少なくない。
しかし翔はそんな批判に興味がなく、うるさい奴らが何か言っているな、程度にしか思っていなかった。
そんな自由な男だった。
*
七月のある日、翔は落胆していた。
数日前のHR(ホームルーム)をサボったところ、その日は文化祭実行委員を決める会だったらしく、不在の翔は見事にその役を押し付けられてしまっていたのである。
もちろん、そんなの真面目にやるわけない。
文化祭実行委員の全体会議の日も、さっさと帰ってバックれようとしたのだが、担任に見つかり会議に出ないと成績を落とすと言われ、渋々参加することにしたのだった
「てか、委員会ごときで成績下げるって。普通に脅しだろ…」
文化祭実行委員の全体会議は、三学年合同・隔週一回だ。
文化祭は十月。約三ヶ月間の任期は、翔には途方も無い長さに感じられた。
なんとか適当にやり過ごして、できるだけ楽に進められますように。
そんな、なかなか最低なことを考えながら廊下を歩く。
「会議室は……っと、ここか」
扉を開けると、まだ人数はまばらで、揃いきっていないようだった。
周囲の生徒に軽く見ながら、自分の席へ向かう。
――二年B組 上野 翔
そう書かれた札が置かれているのが自分の席だ。
実行委員は各クラス二名ずつ選出されるのだが、翔のペアとなる相手はすでに席についていた。
札には、
――二年B組 品川 真一
と書かれている。
整えられた黒髪に、メタルフレームの丸眼鏡。いかにも優等生らしい見た目。
翔はクラスメイトに興味がないため、名前を見てもいまいちピンとこなかった。
翔はその隣に腰を下ろした。
横の生徒は、翔に気づくと翔の方を向くように座り直して
「上野 翔くんだよな。俺は品川 真一(しながわ しんいち)。三ヶ月間よろしくな」
「……よろしく。」
丁寧に自己紹介をして、真一は翔に委員の資料を手渡した。
他の席を見ると、資料は十枚ほどの紙が無造作に置かれているだけだった。しかし真一から渡された資料は綺麗に揃えられ、左上をホチキスで留められている。
配られた資料を自分でまとめ、そのうえ翔の分まで整えておいたのだろう。
翔はそれに気づいたが、特に感謝はしなかった。
ペア相手が真面目そうだし、これは楽ができるかもしれない。ラッキーだ。
その程度にしか思わない。
同時に、丁寧な男だな。周りにいないタイプだ。と思った。
「それでは、文化祭実行委員の全体会議を始めます」
委員長らしき人物が会議の開始を告げる。
退屈な会議に、翔はあくびを噛み殺すことすらしない。
ふと隣を見ると、真一はひとつひとつ丁寧に会議内容を書き留めていた。
会議が終わり、解散となった。
翔の資料はぺらぺらとめくっただけでほとんど傷んでいない。一方、真一の資料はすでにしわだらけで、何度も確認しながら書き込んだ様子がうかがえた。
次回までに、各クラスで文化祭の出し物を第三希望まで集計し、全体会議へ提出しなければならない。
翔は、これなら真一にうまく任せられるかもしれない、と思った。最悪な男である。
「なあ、この集計さ。どうやって集める?」
「そうだな。まずはLHR(ロングホームルーム)の時間を確保できるか先生に確認する。それからクラス会議で候補を集めて、アンケートを実施。集計して提出するのが一番シンプルだろうな」
「シンプルかあ? 集計とか……めんどくさ」
思ったことをそのまま言ってしまうのは翔の悪い癖だ。
「めんどくさいな。けど、やらないほうがめんどくさいから」
真一はふふっと笑った。
なんだ、冗談も通じるのか。
翔の失礼な発言にも動じない。ちょっと面白いやつかもしれない。
そう思ったが、それだけだった。
「LHR(ロングホームルーム)の交渉は俺にまかせてくれ。先生とのやりとりは得意なんだ」
そう言う真一に、まあそうだろうな、と思う。いかにも得意そうだ。
そして、楽ができそうという予想も当たりそうで、翔は内心ほくそ笑んだ。
「じゃあ、よろしく。クラス会議まで俺はなにもしなくていい感じ?」
「うん。クラス会議ではよろしくな。」
クラス会議は、もちろんサボるつもりだ。
押し付けられそうな奴がいるし、自分が出る必要もないだろう。
翔は「わかったわかった。それじゃ」と答え、席を立った。
今日は悪友たちとの会合だ。さっさと向かうことにする。
途中、ちらりと振り返る。
真一はまだ資料を見返し、念入りにスケジュールを確認していた。
やっぱり丁寧な男だな。と思った。それだけ。
まさか数か月後、自分がその男に振り回されることになるとは知らずに。
