もやもやしたままで一晩を明かした次の日。
「……あ」
四時間目が終わって購買に向かっていた僕は、予期せず木崎くんの姿を見つけて足を止めた。
木崎くんは自販機の前で数人の友達といっしょにジュースを買っていた。友達が何か冗談を言ったようで、珍しく笑顔を見せて笑っている。
(――やっぱり華やかだよな……)
ゆるく気崩した制服も端正な顔立ちもスタイルの良い長身の体つきも、まるで見えないスポットライトが当たっているように目立っている。廊下を歩く人たちが何気なく目をやり、そのまま何秒か視線を剥がせなくなっているのが、離れて見ているとよくわかった。
そうだよね、木崎くんかっこいいもんね……と納得して、でも昨日感じたモヤモヤがふと顔をのぞかせる。
木崎くんの側にいると、自分と彼は違う生き物なんだなと感じることがよくある。同時に自分がどこか劣っているような気がしてしまう。
(今までそんなこと感じたことがないのに)
本という自分の世界があるからそれでいい――僕はずっとそう思っていた。明るくて華やかで楽しそうな世界は、自分を覆う透明なガラスの向こう側にあって、そういうものだと諦めていた。
だけど木崎くんと出会ってから、それが揺らいでしまっている。
(……なんか僕って、ちっちゃいよな)
情けない思いで見ていると、木崎くんがふいに振り向いた。
(やばっ)
目が合いそうになり慌てて踵を返し立ち去ろうとしたとき、後ろを歩いていた人とまともにぶつかってしまった。肩にどんと衝撃が走り、相手の女子が大声を上げる。
「あ~っ! うっそ! 最悪なんだけど! こぼれた!」
「……あ」
ふわふわくるくるの長い髪の子と黒髪のボブの子。
見覚えのある顔だなと思ったら、この前ミス研に来て吉沢先輩に追い払われた一年生たちだった。だけど彼女たちの方は僕を全く覚えていないようで、キッときつく睨みつけてくる。
「ちょっと! ジュースこぼれたんだけど!」
「えっ……」
黒髪ボブの子の手には紙パックのジュースがあって、制服の胸元にはピンク色の染みが出来ていた。
「聞いてます? あたし、あなたのせいでびしょびしょなんだけどー!」
もう一人の子のほうが「カホ、やめなよ」と窘めようとしたが、ボブの子の怒りは収まらないようで、さらに言い募ってきた。
「無言ってひどくない? 謝るとかなんかないわけ?」
その言葉に、我に返った僕は慌てて口を開く。
「あ、――す、」
『すみません』と言いかけて言葉がつっかえた。瞬間ひゅ、と背中が冷える。
――ああ、だめだ、あれが出る。
わかっていても身体は止まらない。頬が痙攣し、顎が開いたままでがちっと固まる。息苦しくなり身体全部が強張る。
「――す、――――ッすすすすすすすす、っす」
一年の女子たちは呆気にとられたようにぽかんと口を開けた。
黒髪ボブの方の子が耐えきれなかったようにぷっと噴き出し、けらけら笑い始める。
「えっ? なになに、急にどした? ウケるんだけど」
もう一人の子が、慌てたようにボブの子の肩を叩く。
「 ねえカホ、笑うのは失礼だって」
同情するような可哀そうなものを眺めるような目で見られ、羞恥でかっと頬が火照った。
そして同時に気付いた。めちゃめちゃ目立ってる。立ち止まって揉める僕たちを、廊下を行き交う人たちがちらちらと見てくる。
ひゅっと喉がさらに窄まった。頭の芯がぐらぐらと揺れ、僕は俯いてぐっと目を閉じた。
恥ずかしい、逃げたい、悲しい、つらい。
一気にいろんな負の感情が胸を満たす。そして同時に、自分の身体が透明なガラスの箱にすっぽりと覆われていくような感覚が襲ってくる。
それはまるで、自分だけが狭く冷たい箱の中に閉じ込められたようで。
――息が苦しい。
「朝比奈先輩」
そのときふいにぐっと腕を引かれた。
目を開いて驚いた。木崎くんがいる。
怒った顔をした木崎くんは、二人組の女子に目を向けた。
「何してんの」
低い声を向けられ、女子たちがびくっと怯えたのがわかった。
「ねえ、この人に何言ったの?」
「えっ……あ……何も」
「そんなわけねえじゃん。どうして先輩泣きそうなんだよ」
「ほんとにあたしたち何も……」
今度は彼女たちの方が泣きそうになっている。慌てて木崎くんの制服の袖を引いた。
声が出ないからパクパクと口だけを動かし、首を振る。
(大丈夫、僕は大丈夫だから、怒らないで)
木崎くんは僕が言いたいことをすぐに理解したようで、吊り上げていた眉を少し下げた。
「でも先輩」
(大丈夫、ほんとに大丈夫だから、お願い)
僕は木崎くんの目を必死に見上げた。お願いだから、僕のためなんかに喧嘩しないで欲しい。
泣きそうになりながらの必死の懇願が効いたのか、木崎くんは仕方なさそうに小さく息を吐いた。
「わかった……。わかったけど、むかつく。俺の先輩いじめやがって。あーくそ」
小さな声で毒づくと、木崎くんは僕の頭を自分の胸に押しつけた。視界が塞がれ、木崎くんの腕が僕の肩に回る。
「ごめん、俺今帽子持ってねえから」
(え、帽子……?)
不思議な言葉だと思ったが、それを聞く余裕は今の僕にはない。
包み込んでくれる大きな身体にほっとして涙が出そうになる。すん、と鼻を鳴らすと、木崎くんはさらに強く僕の身体を引き寄せてくれた。
「このまま行こ」
「……ん」
木崎くんに半分抱きしめられるような恰好のままで歩き出す。周囲からの視線が集まっていたことは気が付いてたけど、泣きそうに歪んだ顔を見られたくなかった。
渡り廊下を抜け、部室棟の方まで来ると、あたりが急に静かになった。青空の下にぽつんと一つだけ置かれていたベンチに座らされる。
「先輩、これ。口付けてないから」
木崎くんはそう言うと、片手に持っていた炭酸のペットボトルをプシュっと開けて渡してくれる。ありがたく受け取り口をつけた。
しゅわっと湧き上がるレモンの香りと一緒に、冷たい液体を流し込む。胸にわだかまっていた息苦しさが、炭酸の微粒な泡といっしょに弾けて溶けていく。は、と息が漏れた。
「おいしい」
「良かった。落ち着いた?」
「うん」
「そ」
重くない、いつも通りの軽い相槌にほっとした。それ以上木崎くんは何も言わず、優しく労わるような沈黙が僕を包む。
(木崎くんは本当に優しいな)
僕の気持ちを汲んでくれて、ひと気のないところに連れてきてくれて、ジュースもくれて、そしてこうして何も聞かないでいてくれて――。
言葉にできない思いが胸の中で膨らむ。それは喉を伝い、言葉の形を取り、体の外へと自然に流れ出した。
「……僕ね、き、き吃音、なんだ」
隣の木崎くんが軽く息をのんで、でも静かに「うん」と言った。
(ああ、どうしてだろ……)
自分から進んで吃音のことを話したことはない。特に高校に入ってからは、周囲にばれないように気を付けていた。中学の頃みたいに、可哀そうだと同情されたり、しゃべり方が変だと笑われないようにずっと隠してきた。
それなのになぜだか今、話を聞いてもらいたくて仕方なかった。木崎くんに僕のことを知ってもらいたい。
「……ぼ、僕、小さいころから、しゃべるの、苦手で。調べたら、吃音だって言われて」
「うん」
「こ、ここ言葉が、詰まって……出なく……なったり、顎が、か、固まって、開かなく、なったり……。全部、き、吃音、の、しょ、症状なんだ」
「……うん」
僕の途切れ途切れの話を、木崎くんはただ静かに聞いてくれていた。
その落ち着いた様子を見ていると、木崎くんは吃音症のことを前から知っていたのじゃないかな、とふと思った。もしかしたら家族とか友達とか身近な人が吃音を持っているのかもしれない。
勇気づけられたような気持ちになって、僕はたどたどしい言葉を続けた。
「さ、ささ、さっきは、久しぶりに、き、き、吃音が出て、ここ、困ってて。だから、助かった。ご、ごめんね。いまも、付き合せ、たり、ぼ、僕の話、き……き、聞いてくれたりとか、全部、ごめん」
「……先輩」
黙って話を聞いていた木崎くんが手を伸ばし、僕の頭に手のひらを置いた。ぽん、ぽん、と軽く叩きながら、木崎くんは小さな声で言う。
「謝んなよ。全然悪くなんてないし。俺も口上手いほうじゃないけど……先輩がどんなこと感じてんのとか、何考えてどうしたいのかとか、全部知りたい。しゃべってよ。いくらでも待つし、時間ならいくらでもあるから」
「……っ」
胸がぎゅっと詰まって、僕は胸元のシャツを掴んだ。
どうして木崎くんは、僕が望んでいた言葉を言ってくれるのだろう。
すぐに言葉につっかえしまう僕の話を、みんなは気まずそうな顔で聞いているだけだった。途中で言葉が止まってしまうと、「こういうことを言いたいんだろ?」と得意げに先取りして当ててみたり、めんどくさそうに苛々と待っているだけだったり。
でも木崎くんは違う。
話し終わるのをフラットに待っていてくれる。言葉の先取りをすることもなく、そのうえ僕の話を聞きたいとまで言ってくれた。
身体の中に、『温かい』よりは少し温度が高いものが溢れていく。心臓がとくとくと速いリズムで走り出す。
「……ありがと」
小さな僕の言葉には、「ん」という優しい相槌が返ってきた。
「……あ」
四時間目が終わって購買に向かっていた僕は、予期せず木崎くんの姿を見つけて足を止めた。
木崎くんは自販機の前で数人の友達といっしょにジュースを買っていた。友達が何か冗談を言ったようで、珍しく笑顔を見せて笑っている。
(――やっぱり華やかだよな……)
ゆるく気崩した制服も端正な顔立ちもスタイルの良い長身の体つきも、まるで見えないスポットライトが当たっているように目立っている。廊下を歩く人たちが何気なく目をやり、そのまま何秒か視線を剥がせなくなっているのが、離れて見ているとよくわかった。
そうだよね、木崎くんかっこいいもんね……と納得して、でも昨日感じたモヤモヤがふと顔をのぞかせる。
木崎くんの側にいると、自分と彼は違う生き物なんだなと感じることがよくある。同時に自分がどこか劣っているような気がしてしまう。
(今までそんなこと感じたことがないのに)
本という自分の世界があるからそれでいい――僕はずっとそう思っていた。明るくて華やかで楽しそうな世界は、自分を覆う透明なガラスの向こう側にあって、そういうものだと諦めていた。
だけど木崎くんと出会ってから、それが揺らいでしまっている。
(……なんか僕って、ちっちゃいよな)
情けない思いで見ていると、木崎くんがふいに振り向いた。
(やばっ)
目が合いそうになり慌てて踵を返し立ち去ろうとしたとき、後ろを歩いていた人とまともにぶつかってしまった。肩にどんと衝撃が走り、相手の女子が大声を上げる。
「あ~っ! うっそ! 最悪なんだけど! こぼれた!」
「……あ」
ふわふわくるくるの長い髪の子と黒髪のボブの子。
見覚えのある顔だなと思ったら、この前ミス研に来て吉沢先輩に追い払われた一年生たちだった。だけど彼女たちの方は僕を全く覚えていないようで、キッときつく睨みつけてくる。
「ちょっと! ジュースこぼれたんだけど!」
「えっ……」
黒髪ボブの子の手には紙パックのジュースがあって、制服の胸元にはピンク色の染みが出来ていた。
「聞いてます? あたし、あなたのせいでびしょびしょなんだけどー!」
もう一人の子のほうが「カホ、やめなよ」と窘めようとしたが、ボブの子の怒りは収まらないようで、さらに言い募ってきた。
「無言ってひどくない? 謝るとかなんかないわけ?」
その言葉に、我に返った僕は慌てて口を開く。
「あ、――す、」
『すみません』と言いかけて言葉がつっかえた。瞬間ひゅ、と背中が冷える。
――ああ、だめだ、あれが出る。
わかっていても身体は止まらない。頬が痙攣し、顎が開いたままでがちっと固まる。息苦しくなり身体全部が強張る。
「――す、――――ッすすすすすすすす、っす」
一年の女子たちは呆気にとられたようにぽかんと口を開けた。
黒髪ボブの方の子が耐えきれなかったようにぷっと噴き出し、けらけら笑い始める。
「えっ? なになに、急にどした? ウケるんだけど」
もう一人の子が、慌てたようにボブの子の肩を叩く。
「 ねえカホ、笑うのは失礼だって」
同情するような可哀そうなものを眺めるような目で見られ、羞恥でかっと頬が火照った。
そして同時に気付いた。めちゃめちゃ目立ってる。立ち止まって揉める僕たちを、廊下を行き交う人たちがちらちらと見てくる。
ひゅっと喉がさらに窄まった。頭の芯がぐらぐらと揺れ、僕は俯いてぐっと目を閉じた。
恥ずかしい、逃げたい、悲しい、つらい。
一気にいろんな負の感情が胸を満たす。そして同時に、自分の身体が透明なガラスの箱にすっぽりと覆われていくような感覚が襲ってくる。
それはまるで、自分だけが狭く冷たい箱の中に閉じ込められたようで。
――息が苦しい。
「朝比奈先輩」
そのときふいにぐっと腕を引かれた。
目を開いて驚いた。木崎くんがいる。
怒った顔をした木崎くんは、二人組の女子に目を向けた。
「何してんの」
低い声を向けられ、女子たちがびくっと怯えたのがわかった。
「ねえ、この人に何言ったの?」
「えっ……あ……何も」
「そんなわけねえじゃん。どうして先輩泣きそうなんだよ」
「ほんとにあたしたち何も……」
今度は彼女たちの方が泣きそうになっている。慌てて木崎くんの制服の袖を引いた。
声が出ないからパクパクと口だけを動かし、首を振る。
(大丈夫、僕は大丈夫だから、怒らないで)
木崎くんは僕が言いたいことをすぐに理解したようで、吊り上げていた眉を少し下げた。
「でも先輩」
(大丈夫、ほんとに大丈夫だから、お願い)
僕は木崎くんの目を必死に見上げた。お願いだから、僕のためなんかに喧嘩しないで欲しい。
泣きそうになりながらの必死の懇願が効いたのか、木崎くんは仕方なさそうに小さく息を吐いた。
「わかった……。わかったけど、むかつく。俺の先輩いじめやがって。あーくそ」
小さな声で毒づくと、木崎くんは僕の頭を自分の胸に押しつけた。視界が塞がれ、木崎くんの腕が僕の肩に回る。
「ごめん、俺今帽子持ってねえから」
(え、帽子……?)
不思議な言葉だと思ったが、それを聞く余裕は今の僕にはない。
包み込んでくれる大きな身体にほっとして涙が出そうになる。すん、と鼻を鳴らすと、木崎くんはさらに強く僕の身体を引き寄せてくれた。
「このまま行こ」
「……ん」
木崎くんに半分抱きしめられるような恰好のままで歩き出す。周囲からの視線が集まっていたことは気が付いてたけど、泣きそうに歪んだ顔を見られたくなかった。
渡り廊下を抜け、部室棟の方まで来ると、あたりが急に静かになった。青空の下にぽつんと一つだけ置かれていたベンチに座らされる。
「先輩、これ。口付けてないから」
木崎くんはそう言うと、片手に持っていた炭酸のペットボトルをプシュっと開けて渡してくれる。ありがたく受け取り口をつけた。
しゅわっと湧き上がるレモンの香りと一緒に、冷たい液体を流し込む。胸にわだかまっていた息苦しさが、炭酸の微粒な泡といっしょに弾けて溶けていく。は、と息が漏れた。
「おいしい」
「良かった。落ち着いた?」
「うん」
「そ」
重くない、いつも通りの軽い相槌にほっとした。それ以上木崎くんは何も言わず、優しく労わるような沈黙が僕を包む。
(木崎くんは本当に優しいな)
僕の気持ちを汲んでくれて、ひと気のないところに連れてきてくれて、ジュースもくれて、そしてこうして何も聞かないでいてくれて――。
言葉にできない思いが胸の中で膨らむ。それは喉を伝い、言葉の形を取り、体の外へと自然に流れ出した。
「……僕ね、き、き吃音、なんだ」
隣の木崎くんが軽く息をのんで、でも静かに「うん」と言った。
(ああ、どうしてだろ……)
自分から進んで吃音のことを話したことはない。特に高校に入ってからは、周囲にばれないように気を付けていた。中学の頃みたいに、可哀そうだと同情されたり、しゃべり方が変だと笑われないようにずっと隠してきた。
それなのになぜだか今、話を聞いてもらいたくて仕方なかった。木崎くんに僕のことを知ってもらいたい。
「……ぼ、僕、小さいころから、しゃべるの、苦手で。調べたら、吃音だって言われて」
「うん」
「こ、ここ言葉が、詰まって……出なく……なったり、顎が、か、固まって、開かなく、なったり……。全部、き、吃音、の、しょ、症状なんだ」
「……うん」
僕の途切れ途切れの話を、木崎くんはただ静かに聞いてくれていた。
その落ち着いた様子を見ていると、木崎くんは吃音症のことを前から知っていたのじゃないかな、とふと思った。もしかしたら家族とか友達とか身近な人が吃音を持っているのかもしれない。
勇気づけられたような気持ちになって、僕はたどたどしい言葉を続けた。
「さ、ささ、さっきは、久しぶりに、き、き、吃音が出て、ここ、困ってて。だから、助かった。ご、ごめんね。いまも、付き合せ、たり、ぼ、僕の話、き……き、聞いてくれたりとか、全部、ごめん」
「……先輩」
黙って話を聞いていた木崎くんが手を伸ばし、僕の頭に手のひらを置いた。ぽん、ぽん、と軽く叩きながら、木崎くんは小さな声で言う。
「謝んなよ。全然悪くなんてないし。俺も口上手いほうじゃないけど……先輩がどんなこと感じてんのとか、何考えてどうしたいのかとか、全部知りたい。しゃべってよ。いくらでも待つし、時間ならいくらでもあるから」
「……っ」
胸がぎゅっと詰まって、僕は胸元のシャツを掴んだ。
どうして木崎くんは、僕が望んでいた言葉を言ってくれるのだろう。
すぐに言葉につっかえしまう僕の話を、みんなは気まずそうな顔で聞いているだけだった。途中で言葉が止まってしまうと、「こういうことを言いたいんだろ?」と得意げに先取りして当ててみたり、めんどくさそうに苛々と待っているだけだったり。
でも木崎くんは違う。
話し終わるのをフラットに待っていてくれる。言葉の先取りをすることもなく、そのうえ僕の話を聞きたいとまで言ってくれた。
身体の中に、『温かい』よりは少し温度が高いものが溢れていく。心臓がとくとくと速いリズムで走り出す。
「……ありがと」
小さな僕の言葉には、「ん」という優しい相槌が返ってきた。


