フィールド・オブ・ビュー


 今朝も、天真は駅前で待っていてくれる。気まずそうにチラリとこちらを見てから、ため息をついているように見えた。
 中学の時もたまに喧嘩はした。仲がいいとは言え、やっぱり意見が食い違うところはあって、お互いの想いが通じ合わない時には口を聞かなくなったりもしていた。
 だけど、部活の時間になってサッカーをしていると、パスを出したり戦略を考えたり、お互いが必要だったから、自然と仲直りできた。近づいて来てくれるのも、毎回天真からだった。
 俺はサッカーから離れたんだから、もうサッカーで仲直りなんて出来ない。
 いつも天真に守られて、優しくされて、甘えてばかりで。天真からしたら俺って、どう思われていたんだろう。
 俺ばかりが逃げていたんじゃ、前に進めない気がして、一歩踏み出すために天真の前まで歩いていく。

「……おはよう、天真」
「お、おう!」
「俺さ、天真のこと上手く描けたら、伝えたいことあるんだけど」
「……え、な、なに?」
「まだ、今は言えない。今日からは美術室から天真のこと見て描くから」
「は? 美術室から? え、なに。あそこからサッカー部見えんの?」
「うん、見えるんだよね、実は」

 歩き出しながら、俺は天真に説明する。

「ふぅん、美術部部長とも仲良いもんね、絵利」
「え? あー、まぁ。やっぱ二つしか違わないのに、あの人すごいなって毎回いいアシストもらってる」
「……アシスト? え、美術で?」
「うん。めっちゃナイスパスを送ってくれるんだよね。おかげでゴールまでほんとあと少しなんだよ」
「……ゴール?」
「ってことだから、楽しみにしといて!」
「は? 楽しみ? なにが? おい、絵利!」

 天真と話していると、くるくる変わる表情をして聞いてくれるのが、めちゃくちゃ楽しい。やっぱり俺は、天真のことが好きだ。
 この気持ちを、精一杯想いを込めて描いて、気持ちを伝えたい。

 美術室の窓から見る天真の姿も、なかなか良いものだ。遠すぎず、近すぎず。ベンチで描かせてもらっていた時よりは、断然広い範囲は見えないけれど、全体的な構図を見るには最高の場所だ。
 気持ちも目的に向かって走り出しているからか、筆もノッている。時間を忘れて夢中になって何ページも描いた。
 そして、俺の一番好きなゴールをした後の天真の笑顔を描いてプレゼントすることを決める。
 真っ直ぐに真剣に向き合うことが、すごく楽しい。
 俺の想いは、全部天真の絵(ここ)に注いだ。
 あとは、ゴールに向かって、ボールを蹴り込むだけ。
 サッカー部の練習が終わったのを見計らって、俺は天真にメッセージを送る。

『美術室で待ってる』

 今日は岸部長に必ずしっかり戸締りする事を約束して、美術室の鍵を預かった。
 まだ明るい水色の空と、夕陽がグランドを照らしている。
 美術室内にも日差しが入り込み、眩しさに目を細めた。
 俺の想いは、ずっと変わらない。
 天真のそばにいたい。それだけだ。
 この気持ちを伝えることによって、もしかしたらまた俺たちの間に今までとは違うなにかが芽生えるかもしれない。だけど、そんななにかに怯えていたんじゃ、いつまで経っても伝わらない。
 カタンッと物音がして振り返ると、急いできたのがバレバレの天真が入り口に立っていた。