美術室に戻ると、いつもよりも早く戻ったからか、部長の他にも数人部員が残っていた。
「古谷くん、滝沢くんに何言ったの?」
「え、あー……」
「うわー、まって! ドキドキするからちょっとまって!」
「え?」
何故か頬を高揚させて、二年の先輩二人が焦っている。
「こっちからはさ、滝沢くんの姿しか見えなくて、古谷くんの表情は何にも見えなかったんだよね」
そう言われて、美術室の窓からサッカー部のベンチが丸見えだということを思い出す。まさか、さっきのを見られていたのかと情けなさと恥ずかしさでいっぱいになる。こちらからは俺の顔は見えていなかったことだけは救いだ。
「けどさぁ、滝沢くんが真っ赤な顔してすごく照れてるような感じでいたんだよね。あれってもしかして……」
「こらー! 他人が人の恋路の邪魔をしない! 推しは静かにだまって推せ! 心の中で密かに悶えろ!」
盛り上がっていく先輩二人に、岸部長が突撃して来る。二人とも圧に吹き飛ばされるように、俺の前から姿を消した。と、言うのは大袈裟で、教室の端っこに退散してしまった。
「ごめんね、配慮の足りない先輩で」
なぜか岸部長が謝るから、俺は首を横に振った。
「いや、俺の方が配慮が足りなかったので」
「……なにかあった?」
ズキリと胸が痛む。
天真に必要ないと思われたことが、ものすごく悲しい。心の奥に深く棘が刺さって、抜けずにどんどん減り込んでいくような感覚で、痛い。
「……俺、天真に嫌われたかも……しれない、です」
言葉にすると、本当にそうなのではないかと心がはち切れそうになる。考えもしなかった。天真が俺のことを嫌いとか。
毎日毎日、「絵利」って俺の名前を呼ぶのも、待っていてくれるのも、そばに来て話をしてくれるのも、全部、当たり前だって思っていたから。
俺が天真のことを好きでも、天真の気持ちなんて分からないから。だから、天真を困らせてしまったことが、本当に悲しくて、悔しくて、情けなくて。
「古谷くん」
今にもこぼれ落ちてしまいそうな涙を懸命に堪えて、俺は岸部長に視線を向けた。
「想いは、伝えたの?」
質問に、俺は首を振る。その反動で、いくつか涙の粒がこぼれ落ちていく。
人の前で泣くとか、弱すぎる。
「なら、まだ勝負は決まってないんじゃない?」
「……え」
「ちゃんと、古谷くんの目指すゴールに辿り着かないと。サッカーはさ、目の前にゴールが現れたら、シュートするでしょう? 自分一人の力だけじゃどうにもならないかもだけど、サッカーって一人でやるものじゃないから。アシストする仲間がいてこそ、点が取れるわけで、だから、そのアシストはあたしたちが見守ってるから、古谷くんは思う存分ゴールを目指してシュートを放つのみよ!」
俺が今やろうとしていることを、岸部長がサッカーに見立ててくれる。
確かに、ゴールを決めるのは俺でも、結局一人ではそこまで辿り着かない。周りのサポートやアシストがあるから、ゴールへ近づくんだ。
俺はまだ、走り続けている途中なのに、逃げ出して来てしまった。
「もう一度、描きます。描いて、想いを伝えます」
「素敵な絵が完成することを祈っているわ」
目の前でにっこり微笑む岸部長に、俺も笑顔でこたえた。
「古谷くん、滝沢くんに何言ったの?」
「え、あー……」
「うわー、まって! ドキドキするからちょっとまって!」
「え?」
何故か頬を高揚させて、二年の先輩二人が焦っている。
「こっちからはさ、滝沢くんの姿しか見えなくて、古谷くんの表情は何にも見えなかったんだよね」
そう言われて、美術室の窓からサッカー部のベンチが丸見えだということを思い出す。まさか、さっきのを見られていたのかと情けなさと恥ずかしさでいっぱいになる。こちらからは俺の顔は見えていなかったことだけは救いだ。
「けどさぁ、滝沢くんが真っ赤な顔してすごく照れてるような感じでいたんだよね。あれってもしかして……」
「こらー! 他人が人の恋路の邪魔をしない! 推しは静かにだまって推せ! 心の中で密かに悶えろ!」
盛り上がっていく先輩二人に、岸部長が突撃して来る。二人とも圧に吹き飛ばされるように、俺の前から姿を消した。と、言うのは大袈裟で、教室の端っこに退散してしまった。
「ごめんね、配慮の足りない先輩で」
なぜか岸部長が謝るから、俺は首を横に振った。
「いや、俺の方が配慮が足りなかったので」
「……なにかあった?」
ズキリと胸が痛む。
天真に必要ないと思われたことが、ものすごく悲しい。心の奥に深く棘が刺さって、抜けずにどんどん減り込んでいくような感覚で、痛い。
「……俺、天真に嫌われたかも……しれない、です」
言葉にすると、本当にそうなのではないかと心がはち切れそうになる。考えもしなかった。天真が俺のことを嫌いとか。
毎日毎日、「絵利」って俺の名前を呼ぶのも、待っていてくれるのも、そばに来て話をしてくれるのも、全部、当たり前だって思っていたから。
俺が天真のことを好きでも、天真の気持ちなんて分からないから。だから、天真を困らせてしまったことが、本当に悲しくて、悔しくて、情けなくて。
「古谷くん」
今にもこぼれ落ちてしまいそうな涙を懸命に堪えて、俺は岸部長に視線を向けた。
「想いは、伝えたの?」
質問に、俺は首を振る。その反動で、いくつか涙の粒がこぼれ落ちていく。
人の前で泣くとか、弱すぎる。
「なら、まだ勝負は決まってないんじゃない?」
「……え」
「ちゃんと、古谷くんの目指すゴールに辿り着かないと。サッカーはさ、目の前にゴールが現れたら、シュートするでしょう? 自分一人の力だけじゃどうにもならないかもだけど、サッカーって一人でやるものじゃないから。アシストする仲間がいてこそ、点が取れるわけで、だから、そのアシストはあたしたちが見守ってるから、古谷くんは思う存分ゴールを目指してシュートを放つのみよ!」
俺が今やろうとしていることを、岸部長がサッカーに見立ててくれる。
確かに、ゴールを決めるのは俺でも、結局一人ではそこまで辿り着かない。周りのサポートやアシストがあるから、ゴールへ近づくんだ。
俺はまだ、走り続けている途中なのに、逃げ出して来てしまった。
「もう一度、描きます。描いて、想いを伝えます」
「素敵な絵が完成することを祈っているわ」
目の前でにっこり微笑む岸部長に、俺も笑顔でこたえた。



