フィールド・オブ・ビュー

 今日は天真のことを描くというよりは、全身の構図をとらえることに集中しよう。
夢中になって描いていると、見返した時にまだ手足の長さとか関節とか、バランスが狂っている。一枚のページに、何度も全体像を描いていく。
 デッサンって、本来なら動かないものを描くのかもしれない。
 だけど、部活中の天真にジッとしていろとは言えないし、写真に写してそれを見ながら描くのも何か違う。俺は俺の目で見たままの天真を描きたいから。
 必死になってグラウンドの天真を目で追いかけ、スケッチブックと交互に見ながら書き殴っていると、いつからそこにいたのか、山口先輩が走りだす途中の不自然な格好で止まっていた。

「……山口、先輩? 何してんすか?」

 つい、呆れるような口ぶりで言ってしまうと、山口先輩はすぐに姿勢を真っ直ぐに戻し、「やっぱダメか」と俺の隣に戻ってくる。

「ほら、なんか構図がどうとか岸ちゃんが言ってたから、そこんとこはあたしでカバー出来ないかなって思ったりしてさぁ」
「……え、山口先輩、岸部長と仲良いんですか!?」
「え、うん。同じ推しがいるからね」

……推しって、天真?

「お二人のその推しって言うのは、恋とはまた違うんですか?」
「え!? うーん。まぁ、恋っちゃ恋とも言えるけど、推しは推しだよねぇ」

 悩むように顎に手を当て、困り顔をしてから笑う山口先輩。その境界線は、俺にはよく分からないけれど、もしかしたら、俺の天真のそばにいたいってのは、先輩たちみたいな、推しなのか?

「天真推しってことですよね?」
「え? あ、いや、あたしたちはテンカイ推しで……」
「……テンカイ?」

 山口先輩が明らかに焦り出す。
 どう言う意味なのか答えを言うまでジッと追い詰めるように見つめていると、目を泳がせた山口先輩がグラウンドを見てから顔を青くして、俺から離れていった。

「あ!!ヤバい。ちょっとあたし離れまーす」

 直後、足元にあった日差しが遮られて日陰になった。

「俺もベンチにいたい!」
「……は?」

 キラキラした汗を滴らせた天真が、俺の目の前で意味のわからないことを言っている。

「いや、天真はモデルなんだからサッカーしててよ」
「今、マネージャーのことも描いてなかった? 俺のこと見てなかったじゃん!」
「え、あ、それは一瞬だけだろ」
「そんなことない。絵利って呼んでもこっち見なかったし」
「え、呼んだ?」

 さっき色々考えちゃってたから、気がつかなかったのかもしれない。

「今までは同じフィールドで一緒にいれたから、こんなこと思うことなかったけど、絵利が美術部行ってから違うフィールドに立ってるみたいに思えて、見たくないところまで全部見えて、俺、ヤダ」

 悔しそうに表情を歪ませ、泣いてしまっているんじゃないかと思うくらいの汗が額や頬を流れていく。
 ヤダって……それって。

「なにそれ、俺、いない方がいいの?」
「いや。そうじゃなくて……」

 サッカー一筋で頑張ってる天真にとって、自分のわがままで好き勝手やっている俺は、目障りだったのかもしれない。無配慮過ぎた。

「ごめん」

 もう、天真の顔が見れない。
 俺はスケッチブックを閉じて、立ち上がった。