フィールド・オブ・ビュー

「ちゃんと汗拭いておいでよ」
「……ここまで来るのに、また汗かいたんだよっ」

 少し、怒っているみたいな顔と口ぶり。
 天真は、まさか俺が告白をしようとしているなんて、夢にも思っていないんだろうな。
 ドキドキする胸に手を当てて、俺は天真に近づく。

「俺さ、ずっと天真に伝えたいと思っていたことがあって……」

 一息に言ってしまいたい気持ちを抑えながら、俺は一度言葉を止める。

「彼女が出来たとか!?」

 穏やかな気持ちに切り替えて、「好きだ」と言おうとした俺に、天真が一歩踏み出して怒ったように聞いて来る。

「サッカー辞めてからさ、絵利よく先輩たちと話してるよね。うちのマネージャーともいい雰囲気だし、美術部部長とか、めっちゃ仲良くなってんじゃん! 俺知ってるからな! ここで二人がよく楽しそうに話してんの!」
「え……は?」
「サッカー辞めたのって、怪我だけじゃなくて、高校入って彼女ほしかったからとか? 俺といるのが嫌になったんだろ? 毎日毎日、絵利が知らないやつと楽しそうにしてるの見るの、俺すっげぇしんどくて。モデルにしてくれるって言われた時は嬉しかったけど、マネージャーと距離縮めるためだったのかなとか、かと思えば、美術部の部長ともなんかいい感じだし! 俺、そんな絵利見てるの辛くて、悔しくて……俺のことずっと見てろって言ったじゃんっ! 絵利なら見ていてくれるって俺、信じてたのに。なのに、毎日、絵利が遠くに行っちゃうみたいで、辛いよ……」

 爆発したみたいに、天真が美術室いっぱいに響く声で不満をぶちまける。
 我慢の限界が来ると、天真はうちに秘めていた想いを全て吐き出すことがあった。
 まさか、俺に対してそんな事を思っていたなんて、考えもしない。
 泣き出す天真に、唖然としてしまう。
 子供みたいにわんわん泣いて、小さくなっていくから、思わず近寄りそっと抱きしめた。

「……絵利?」

 ハッとした天真のことを、俺はもっと強く抱きしめる。

「俺、天真のことずっと好きだよ。これからもずっとそばにいたい」

 俺のことで必死になって、泣いてくれる天真のことが、愛おしくてたまらない。
 こんな気持ちは初めてかもしれない。今すぐ気持ちを伝えないと、天真が壊れてしまわないか不安になった。
 ひとしきり抱きしめた後で、俺は天真から離れてスケッチブックを手にした。

「俺の大好きな天真だよ。この絵が完成したら、想いを伝えようって思ってた。ほら、俺の大好きな天真の笑顔。最高だろ」

 開いて見せたページの天真は、満面の笑みで笑っている。
 俺が見て来たこれまでの天真の笑顔に、全ての想いを込めて描いた。
 涙でぐじゃぐじゃになった顔で、天真は絵をじっと見てから、眉を下げてまた泣き出す。

「めっちゃ俺イケメーン!! 盛りすぎだろー! かっこよー!」
「あはは、だって、天真かっこいーもん」

 素直に答えると、天真は泣きながら俺に抱きついてきた。

「ごめん、勝手に勘違いして。バカじゃん俺。かっこ悪いって」
「いや? カッコいいよ?」
「……照れるだろ」
「うん、それはかわいい」
「……絵利俺で遊んでない?」
「正直な気持ちでしょ。天真の全部好き」

 真っ赤になって照れるそんな顔、初めて見た。
 もちろん、そんな天真も大好きだ。
 これからは、なにがあってもそばにいる。
 まぁ、まわりに配慮はしつつ。
 これからも、天真にはフィールドを走り続けてほしい。俺は美術室から応援しているから。

「明日、岸部長にお礼言わなきゃな」

 美術室の鍵を閉めながら俺が言うと、隣で不服そうに唇を突き出す天真。

「天真と両想いになれましたって報告も」

 付け足すと、形のいい唇が弧を描く。すごく、わかりやすい。
 あ、でも、岸部長って天真のこと推してるんだよな。それって、報告しても大丈夫かな。配慮足りない? 悩む。

「絶対に報告して!! 絵利は俺のもんだかんな!!」

 ギュッとしがみついて来るから、かわいさを通り越して苦しい。

「あと山口マネージャーにも報告する!」

 はりきる天真の横で、空を見上げる。
 夕陽が半分沈んだ夜の藍色に、一番星を見つけた。気持ちも心も軽くなる。
 明日もいい天気になりそうだ。