フィールド・オブ・ビュー

 まだ五月だと言うのに、太陽は初夏なんて通り越して気温を上げている。校庭の砂に混じって、キラキラと反射する細かなガラス石すら目に眩しい。意識が朦朧として集中力が途切れた俺は、味方にパスを出されたことも、天真(てんま)がパスを通させないように俺に迫り合いにきていたことも気がつけなかった。強い衝撃と痛みに襲われたのは、そのすぐ後だった。
 熱い砂の上に倒れ込み、痛む膝を抱える。「うっ……」と、悶絶する声しか出せずにいる俺に、天真が叫んだ。

「おい! 絵利(かいり)! 大丈夫か!? 絵利!」

 意識が遠のきそうになるけど、マネージャーがアイスパックを膝に当ててくれて、冷たさにハッとした。

「だい、じょぶ」
「立てるか? ほんっとごめんっ!」

 心配そうに俺に影を作る天真の顔が、今にも泣き出しそうだ。
 気温が高いせいか、サッカー以外のことを考えてしまっていたせいか。どっちにしろ、自己責任だ。天真のせいじゃない。
 俺は小さく頷いてみるけど、立ち上がるには少し時間がかかりそうで、情けなく笑った。そんな俺の腕を肩に回し、天真は汗だくだった顔にさらに汗を流して俺を抱えると、保健室まで連れて来てくれた。

 校舎内、保健室の日陰にようやく体がホッとする。膝の痛みもさっきに比べたら落ち着いてきた。

「絵利、ほんとごめん」

 まだひたすらに謝る天真に、俺は「大丈夫だから」と笑う。

「腫れているから、病院でちゃんと見てもらったほうがいいわね。今日の部活はもう終わりにしてね」

 養護教諭の先生が不安そうな顔をするから、天真がますます俺に申し訳なさそうな顔をしてくる。
 ぼうとしていた俺が悪かったんだ。天真のせいじゃないから、そんな顔しないでほしいし、させたくないのに。

「親に病院連れてってもらうから、大丈夫だよ。天真はもう気にすんな」

 サッカー部エースでイケメンと人気者の天真のことを、こんな風に悲しませてしまうなんて、本当に申し訳ない。
『絵利! 高校行っても一緒にサッカーやろうな!』
 天真に誘われたってだけで、中学の時になんとなくで始めたサッカー。本気で向き合う天真に少しでも追いつきたくて、必死について来た。だけど、ハッキリ言って俺は天真には敵わない。それが悔しいとも思っていない。俺は、天真のそばにいたかったからサッカーを続けて来ただけだ。

 母に連れられて来た病院で、しばらくサッカーは出来ないこと、この怪我は繰り返す恐れがあることが言い渡された。絶望的とも言える言葉だったけど、俺にとってはサッカーを辞めるいいきっかけになったし、むしろ、都合がいいとも思えた。
 中学三年間と高校一年の約二ヶ月。
 俺は天真と接触した怪我によって、サッカー部を辞めて、美術部へと移行した。