悪魔の生贄が救国の乙女になるまで

気が付くと、自分のベッドの上で眠っていた。
目覚めた時から全身に強いだるさを感じたため、試しに手を動かしてみたが動きには問題なかった。
しかし、ふと自分の手を見て違和感を感じた。

僕の手、こんなに大きかったっけ?

ガバッと起き上がり、自分の身体や足を見た。

成長している・・・?

ふらつく身体を鞭打ちベッドから降りた。
そして鏡を見て驚いた。

父上・・・?

自分の頬に触れてみると鏡の中の父も驚いたように頬を触っていた。

これは僕か?

その時ようやくアルベルトによって自分の寿命を奪われたことを理解した。
身体を動かしたり触ってみた。
成長し、もしかすると残りの寿命も短くなったのかもしれないが、姿の他は今のところ何も変わりはなかった。

そして目覚めてから会ったアルベルトは火傷の跡も無く、以前と全く変わりがなかった。
「クリスティーナとは似ても似つかなくなったな。」
成長したノアを見て残念そうな表情を浮かべたが、さらに危害を加えてくることはなかった。

「お前の姉も神聖力を使い果たし昏睡状態になっているみたいだな。全くクリスティーナといい、命をかけてこの私に歯向かってくるとはクルム家の女はどうなっているのだ。」
アルベルトが渋い表情でつぶやいた。

それから1か月ほど経った夕食時、アルベルトが久しぶりに嬉しそうに笑っていた。
「レイアが目を覚ましたぞ。私を倒した功績を認められ公爵になるみたいだな。」
レイアの陞爵を自分の事のように喜んでいた。
ノアも姉が回復したことや公爵になることを聞き嬉しかったが、不安もあった。

この悪魔は姉さまを諦めたのか?

しばらくしてノアは自分の予想が正しかったことを知ることになった。
「レイアに削がれた魔力がかなり元に戻ってきた。そろそろ、あれをこちらに迎えよう。」
「あれ?」
反射的に聞き返したノアにアルベルトが眉をひそめた。
「レイアに決まっているだろう。私が行けばまた返り討ちにしようと攻撃してくるだろうし、お前が迎えに行け。」

こうしてノアはレイアとの再会を果たすことになったのだ。

                 ※
湖を見つめながら、ノアは自分の身に起こった出来事を思い返していた。

「ノア!ノア!」
自分の名を呼ぶ声で、ハッと意識が現実に戻ってきた。
「姉さま、どうしました?」
自分を呼んだレイアに顔を向けた。
「もう!どうしたじゃないでしょう。呼んでも全く反応がないから心配したんだから。」
レイアは少しむくれながら立ち上がった。

「心配して下さったんですか?」
ノアはきょとんとしてレイアを見上げた。
「当たり前でしょう。弟なんだし。」

レイアの言葉にノアの心が温かくなった。
父からも母からも、そして姉のソフィアからも確かな愛情を受け取った記憶がノアにはない。
ノアの命を盾にアルベルトから何が入っているか分からないワインを飲むよう脅された時も、レイアはノアの命を優先してくれた。
少なくともあの時は、レイアがノアに親愛の情を抱いていたはずはないのに。
そして今、以前から少しずつ自分の中でつのっていったレイアへの想いをはっきりと自覚した。

姉さまをここから助け出して幸せにしてあげたい。

「さあ、ノア帰るわよ。」
レイアに手を差し出され、ノアは笑顔でその手を取り立ち上がった。

2人で並んで古城へ帰る道すがら他愛のない会話をしながら自分の横を歩くレイアを見て、ノアは先ほどの想いを実行しようと決意したのだった。