悪魔の生贄が救国の乙女になるまで

フェリクスに返事をしてから3週間が経った。
あれ以来様々な人がレイアの元を訪れたが、フェリクスには一度も会っていない。

そして待ちに待った月に一度の休日は、精神的なものからか体調がすぐれず一日中ベッドで寝て過ごした。
夜になりレイアはベッドから抜け出し、自分の部屋の窓を開け夜空を見上げた。
レーゲンスブルクで見ていた空と繋がっているはずなのに、王都の空は町の明かりのせいか星が見えにくい。

今思えば、あの頃は平和で楽しかったな・・・。

クララやヨハンと過ごす穏やかな日常、時おり訪れるエルフリードとの楽しい時間。
しばらく切ない気持ちでボーっと星を眺めていると、敷地の見回りをしている騎士の一人がレイアの部屋の方に近づいてきた。
一番新参者のレイアの部屋は1階だった。

レイアが慌てて窓を閉めようとすると、その騎士が小さな声でレイアの名を呼んだ。
「エル?」
聞き覚えのある声にレイアが声をあげると、騎士は静かにという風に人差し指を口に当てた。
「知り合いの聖騎士に制服を借りたんだ。入ってもいい?」
小さな声でエルフリードがささやいた。
レイアが口を押さえながら無言で頷くと、エルフリードは周囲を見回した後に窓から部屋に入って来た。

「レイア・・・、大丈夫か?」
フェリクスや王宮の動向はエルフリードも知っているのだろう。
気づかわしげにレイアを見つめてきた。

エルフリードはレイアが落ち込んでいる時や困っている時、まるでそれが分かっているかのようなタイミングでいつも手を差し伸べてくれるのだ。
レイアは涙を浮かべながら、首を横に振った。
「偉い人たちやマルクス王子まで、フェリクス様の妃になれって毎日言ってくるの。エルやクララが日陰者になってもいいのかって・・・。私、どうしたら・・・。」
静かに涙を流すレイアをエルフリードは抱きしめ、彼女の耳元でささやいた。
「僕とこの国を出る?」

レイアは驚いてエルフリードを見上げた。
「どういう意味?」
「隣国のノースブロン王国に母の実家があるんだ。母はノースブロンの公爵家の出身で、僕も何度か訪れたこともある。フェルゼンシュタイン家とは関係ない僕の個人資産も少しあるから、贅沢は出来ないけど母方のつてを頼ってそこで二人でひっそり暮らすことは出来ると思う。」
エルフリードの目は真剣だった。