キミが呼ぶときは

照れ隠しじゃない。これ以上振り回されたくないと言わんばかりに着替え始め、あからさまにこちらを見ようとしない。

「寝てる聡にキスした。中三の、夏休み」

飾らず、偽らず、ありのままを伝える。

あのときの聡は、名前を呼んでも起きなかった(●●●●●●●●●●●●●)。なんで気づいた? そんな些細な質問もいまは躊躇ってしまう。沈黙を埋める雨音も、慣れ親しんだ景色も、すべてが聡の味方みたいだ。

一向に視線を合わせようとしない聡が、ローテーブルとベッドの間に腰を下ろす。

「ごめん……わかんねぇよ」

俺と並んでベッドには座らない。それでも手が届く位置に留まっている聡は、まんまその心情を表してるようだった。

「好きだって一言で伝わるなら、寝込み襲ったり、弱ってるときにつけ込んだりしてない。片想いは慣れてるし、ゆっくり待つよ」
「待てるならこんな事態になってないだろ」

思わず情けない笑いが零れる。聡の言うとおりだ。

「……それにオレ、じいちゃんになるまで答え出ない、かも。だって! 臣と疎遠になったら、オレ……泣いちゃうんだもん」

その口ぶりは、十年、二十年、五十年後を辿っているようだった。

意外な発言に面食らっていると、聡がこちらを振り返る。口元を隠すように手を添えていた俺を見て、整えられた眉の間にシワが寄った。

「なにその反応」
「いや、俺よりずっと先のことまで考えてんのが」

嬉しくて。そう舌の上まできていたのに、ふと虚しさに遮られた。

「想像くらいするよ。だからイヤなんだろ。いつか終わるかもしんない関係とか、意味わかんねぇ」
「……じゃあ一生腐れ縁やってれば? 俺は付き合いたいなんて言ってねぇよ」

不毛だ。

「帰るわ」

友情が恋愛になれば、別れも身近になる。それは男親がいない聡にとって、なによりもリアルで、当たり前にある恐怖なのかもしれない。

雨に打たれながら歩いていると、どこか悟ったように自己完結させてしまいたくなる。ただ、二年近くも聡を悩ませ続けたのを思えば、今日のことを悔やむ気にはなれなかった。



翌朝も変わらず雨が続いていた。いつもなら登校ついでに三軒先の、幼馴染の家に寄る。だが今日は、ビニール傘をさした聡が門扉の脇でしゃがみ込んでいた。

「体調は?」
「最悪だよ。でもこうでもしなきゃ、オレのこと避けそうだし。そんなの意味ないだろ」

俺は顔だけじゃなく性格まで女々しく映っているらしい。