キミが呼ぶときは

限界が近いのか、風邪だし、うつしたらヤバイし、とさらに予防線が張られていく。

「じゃあ口、手で抑えてて」

…………はぁ。

目を丸くしながらも従順な姿勢に、内心ため息を吐く。このあとなにが起ころうと、すべては両手で口元を覆ったアホのせいだ。全力で阻止したところで、そこは二年前の夏にもう侵されてるのに。

でも、あのときとは違う。

俺は、確かめたい。

雨粒で遮断された、人目のないこの空間で。
雨音だけが支配する、窒息しそうなこの空気のなかで。

この小さくて非日常的な世界なら、俺の気持ちはどこまで許される?

にじり寄ると、まつ毛を巻き込むほどきつく目が閉じられる。唇で触れた手は微かに震えていて、本当に熱かった。

「……(サトル)

いつも言ってたじゃん、『聡いと書いてサトルです』って。
いい加減気づけよ。ちゃんと嫌がれよ。早く、

「早く。次はどうすんのか、教えてよ」

未だ口を閉ざしている聡の守備を解き、数分前までは許されなかった距離で見つめ合う。もしかしたら、気持ちを伝える以前に心臓の音でもうバレてるかもしれない。

「……は」
「は?」
「はず……」

言い淀んだ聡が、顔を伏せるように俺の肩へ柔らかい猫っ毛を乗せる。

懐かしい。こいつがここに収まるのは、あの夏の過ちから数日後、ブロック大会の準決勝で負けたとき以来だ。こいつを受け止めた瞬間、高校ではサッカーをやらないと決めた。


「この二年、オレがどんだけ悩んだか臣はわかってないよ」


…………え。

聡は肩に顔を埋めたまま、ずーっとやべぇ夢見たと思ってたんだからな、と不貞腐れた。

「何回も! 今日も(●●●)おっ、臣とキスする夢見て……いい加減彼女作らないとヤバイって思うじゃん!」

人の首元でぐちぐち、グリグリ。うるさくて、くすぐったくて、きらいじゃない。

正解なんてどうでもいい。ただ、後には引けないんだとわかる。だったらもう、なにを話すより、素直に聡へ腕を回した。

「一応聞くけど、あれ……オレの夢、じゃない……よな?」
「二人して同じ夢見るってあんの?」
「テキトー言ってはぐらかすなよ」

離せ、と絞り出すような声で聡が肩口を押しのける。