その綺麗な顔とやらを歪めたところで、見返される瞳は微動だにしない。どうやら本気で言ってるらしい。
「せめてうちのキングと比べろよ」
昇降口で見送った友人を引き合いに出し、残酷な言い分を笑って凌ぐ。
わかってないんだ。ありったけの褒め言葉が備わっている顔でも、〝ミスターコン優勝〟くらいの実績がなきゃ、あらぬ疑いを生むこともある。こんな軽口を叩ける時点で、俺たちの境界線ははっきりしてるのに。
「……え、怒った?」
「いや怒ってねぇよ」
不安げに顔色を伺ってくる子犬のような男には気づかないフリをして、今度は俺がスマホを取った。
「だってほら、臣のことは最初マジで女の子だと思ってたし。一応あれがオレの初恋なわけでさ」
知ってるよ。俺が『雅臣です』って言うまでの、流れ星レベルの初恋だろ。
昔話にテキトーな相槌を打ち、メッセージを送る。数秒で既読になったかと思えば、返ってきたのは着信だった。
「悪い、ちょっと電話」
部屋を出た俺はドアを完全に閉めると、深呼吸にも似たため息を吐いて通話ボタンを押した。
『あんたさぁ、いや、やっぱいい。これは貸しだからね。あと! 七時くらいには帰るから。いい? 十九時よ!』
「はいはい」
『私を雨のなかに締め出したら、もう二度と協力しないからね』
仕事の手を止めて折り返してくれたのだろう。なんの説明も求められないまま、その隙すら与えられず、電話は一方的に切れてしまった。
乾いた笑いを漏らしながら、向かいにあるお姉様の聖域に踏み入る。
こんな突拍子もない願いを聞き入れたうえで、二度目があると思えるのが凄い。性格は真逆でも、あの純粋さは、弟のそれと同じなのだろう。
〝綺麗な顔〟ってやつも素直な感想なら怒りは湧かない。ただ、彼女を作らない理由にされるのはごめんだ。
再び廊下に出ると、その薄暗さに思わず足を止める。
……ああ、違ったんだ。
あいつの部屋には、姉の部屋のような人感ライトはない。それでも来たときから既に明かりは点いていた。雨が存在感を増すなか、未だ開けたままのベランダも、間違いなく俺のためなんだろう。
俺はまだちゃんと、〝迎えられる側〟だったんだ。
スマホで時間を確かめ、階段のはめ込み式窓を見やる。
十七時前らしくない夜の色を切り取ったガラスは、ぼんやりと滲んでいた。いつもなら聞こえる子どもたちの声もない。大きな雨粒の音だけがあたりを満たして、ある意味、夢のような錯覚を起こしそうになる。
「せめてうちのキングと比べろよ」
昇降口で見送った友人を引き合いに出し、残酷な言い分を笑って凌ぐ。
わかってないんだ。ありったけの褒め言葉が備わっている顔でも、〝ミスターコン優勝〟くらいの実績がなきゃ、あらぬ疑いを生むこともある。こんな軽口を叩ける時点で、俺たちの境界線ははっきりしてるのに。
「……え、怒った?」
「いや怒ってねぇよ」
不安げに顔色を伺ってくる子犬のような男には気づかないフリをして、今度は俺がスマホを取った。
「だってほら、臣のことは最初マジで女の子だと思ってたし。一応あれがオレの初恋なわけでさ」
知ってるよ。俺が『雅臣です』って言うまでの、流れ星レベルの初恋だろ。
昔話にテキトーな相槌を打ち、メッセージを送る。数秒で既読になったかと思えば、返ってきたのは着信だった。
「悪い、ちょっと電話」
部屋を出た俺はドアを完全に閉めると、深呼吸にも似たため息を吐いて通話ボタンを押した。
『あんたさぁ、いや、やっぱいい。これは貸しだからね。あと! 七時くらいには帰るから。いい? 十九時よ!』
「はいはい」
『私を雨のなかに締め出したら、もう二度と協力しないからね』
仕事の手を止めて折り返してくれたのだろう。なんの説明も求められないまま、その隙すら与えられず、電話は一方的に切れてしまった。
乾いた笑いを漏らしながら、向かいにあるお姉様の聖域に踏み入る。
こんな突拍子もない願いを聞き入れたうえで、二度目があると思えるのが凄い。性格は真逆でも、あの純粋さは、弟のそれと同じなのだろう。
〝綺麗な顔〟ってやつも素直な感想なら怒りは湧かない。ただ、彼女を作らない理由にされるのはごめんだ。
再び廊下に出ると、その薄暗さに思わず足を止める。
……ああ、違ったんだ。
あいつの部屋には、姉の部屋のような人感ライトはない。それでも来たときから既に明かりは点いていた。雨が存在感を増すなか、未だ開けたままのベランダも、間違いなく俺のためなんだろう。
俺はまだちゃんと、〝迎えられる側〟だったんだ。
スマホで時間を確かめ、階段のはめ込み式窓を見やる。
十七時前らしくない夜の色を切り取ったガラスは、ぼんやりと滲んでいた。いつもなら聞こえる子どもたちの声もない。大きな雨粒の音だけがあたりを満たして、ある意味、夢のような錯覚を起こしそうになる。
