キミが呼ぶときは

ケラケラと笑う顔を睨み返すも、すぐに身を翻され、俺はまたヘタっている後頭部を見つめる羽目になった。

こいつにとって俺は、ちょっと優しくしただけで異常らしい。
元気ならまぁいいけど。

警戒心の欠片もない姿を眺めながら、もどかしさをため息で濁す。その余韻に混ざった雨音は、着実に粒が大きくなっているようだった。

用事は済んだ。

帰ろう。
ただ、帰る前に訊いておきたい。病み上がりでスマホを片手に、一人の世界に入り浸ってんのはなんで? その指をパチンと鳴らす仕草にはなんの意味があんの。

「さっきからなにしてんの?」
「んー、べんきょう?」

こいつが勉強?
四六時中サッカーボールを追いかけてるヤツなのに、んなアホな。

「臣ってさ、モテるよな」

むくりと身体を起こしたアホが、枕を抱きながら伏し目がちにこちらを見下ろす。口以上におしゃべりで、鬱陶しいほどなにかを訴えてくる顔。きらいじゃない。

「……なに?」
「ブラのホック、どうやって外すか教えて」

…………は?

コントでも冗談でもなく、シーツの上を頬杖がずるりと滑った。

やっぱり高熱で脳ミソやられたか。

「普通に背中に手ぇ回せばいいじゃん」
「ばーかばーか。片手でさり気なくやるもんだろー」

枕に乗せられたふくれっ面を見上げたまま、呆れて鼻を鳴らす。

「体験談見てたら、上手くできなくて彼女に笑われたって。しかもフロントホック? とか難関すぎ」

……うぜぇ。バカはお前だ。彼女もいないくせ、に。

「え、彼女できた?」
「いや? でもいずれできるじゃん?」
「……片っ端から断ってなきゃ、とっくにできてるだろ」

何気なく口から出た、といえば嘘だ。そう言わなきゃいけない気がした。

人受けがいい顔で、人懐っこくて、運動も平均以上にこなしてしまうのが俺の幼馴染だ。残念なところがあるとすれば、単純でバカ。それも愛すべきバカだから、そこらの同級生よりは告白イベントも多い。

なにかきっかけさえあれば、学校一の美女と付き合う未来もあるはず。

誰でもいい。一刻も早く彼女を作って欲しい。心の片隅で、何年もそう願ってる。

「それ考えてたんだけど、臣のせいでもあるよな」
「は? 意味わかんねぇ」
「告られるときに、こう……なんていうか、臣のほうがキレイな顔してるよなーってなるんだよね」