キミが呼ぶときは

「窓閉めるぞ」
「えっ?」
「雨、降りだした」

起き上がってベランダを確認した丸い瞳が、こちらに向く。

「オレ、風邪ひいてるけど」

つまり、気遣って換気してたのか?

「臣が寒いなら閉めていーよ」
「いや、へーき」

つい顔が緩みそうになり、タオルで髪を拭いて誤魔化した。

たいして濡れてないし、と念押ししてローテーブルとベッドの間に腰を下ろす。

窓を開けて布団もかけず、本当はまだ熱っぽいのかもしれない。なんて心配をよそに、自称病人はまた俺の後ろでスマホに戻った。

この定位置から見る景色は、突発的に来てもいつも変わらない。

テレビに繋がれたままのゲーム機。漫画しか並んでいない本棚。開けっ放しのクローゼット。使う気配すら感じない、整頓されすぎた勉強デスク。すべてが無防備で、安心する。

そんな俺を、窓の外で微かにはねる雨音が陰湿に咎める。

あの夏の日のことを、なかったことにはできない。

「なぁ、おばさんから伝言。晩飯は姉ちゃんが帰ったらなんか頼めって」
「おー」

生返事の傍らで、一体なにに夢中になっているのか。それとなく振り返ってみるが、栗色の猫っ毛が邪魔でスマホ画面が見えない。

「……それから、病人ぶって雅臣(マサオミ)くんをこき使うなって」
「それは臣のウソだな」

たしかに気を引くための嘘だ。だからこそ、目もくれず断言されるのは面白くない。

「あと、熱がぶり返したら座薬もあるって」

重心を少しだけずらし、ベッドに頬杖をついて待つ。

「お前が大人しく寝てなかったら、ブチ込めって言われた」
「座薬……ってアレだよな?」

お、やっとこっち見た。

しかめ面から滲む懐っこさにイタズラ心をくすぐられ、わざと首を傾げる。イヤだ、ムリ、と拒絶しながらもキャッキャと転がって、まるで子どもだ。

こんなの、もう病人じゃねぇだろ。
朝の電話では夢にうなされてる声をしてたくせに。本気で心配した俺の身にもなれっつーの。

「んで熱は? 下がったの?」
「爆睡したら下がってた。これはまじ!」

キリッと顎を引いて訴えてくるあたり、二つ目の嘘は効果てきめんだったのだろう。

「アイスとスポドリ、冷蔵庫に入れてきたけど取ってくる?」
「……ははっ! 臣こそ熱あるんじゃない?」