キミが呼ぶときは


雨の日は世界が小さくなる。


昇降口から見た空は普段よりも近くて、淀んだおもい色をしていた。

降りそうだな。
そう思ったのは俺だけじゃなかったらしく、寄ってきた友人たちも同じように顔をあげる。

口では青空を惜しんでいても、いざ空の下へ踏み出す彼らの足は軽かった。廊下でのひとときよりも浮かれてる。もちろん、誰も傘なんて持ってない。

他人事じゃないな、と歩き出した瞬間、ブレザーのポケットでスマホが鳴った。

【欲しいもんある?】
【冷たい系】

メッセージを見て目を細める。

冷たい、アイスとか?
まだ熱が下がってないのか?

スマホをポケットに戻すと、週末の雨で散らばった桜を足早に踏んでいく。

小中高と続いてる腐れ縁は、あるべき形を保ったままもう十一年目に入った。

あいつはこれまでに一度も、風邪で学校を休んだことがない。小さいころは年中Tシャツ短パンで走り回っていたヤツだ。だから今朝の連絡は、まさに天変地異だった。

学校帰りに見舞いに行く――こんな献身的な理由で友人たちの誘いを断る日が来るなんて、我ながら少し大胆な気もする。いまさらだけど。



コンビニへ寄った束の間に、外はさらさらと小さな雨が降りはじめていた。

ゲームをする。宿題をする。そんな約束がなくても部屋を行き来するようになったのは、いつからだろうか。

これだけ長い付き合いになると、他人の家という感覚は薄まっていく。冷凍室は冷蔵庫の一番下。洗面所の棚は上から二段目が姉専用タオルで使用禁止。そして階段を上って左のドアが、あいつの部屋だ。

「入るぞー」

首に掛けたタオルで軽く髪を拭きながら、ノック代わりに声をかける。

ドアを開けると、ふわりと風が前髪に触れて通り抜けた。

「おー(オミ)、おつかれー」
「……普通に元気じゃん」

薄いカーテンが中途半端に開いているベランダと、ベッドに寝転ぶ白いスウェット姿を交互に見る。風邪でくたばってるはずの当人は、布団を足元に追いやりスマホをいじっていた。

「あれ? 鍵開いてた?」
「玄関でおばさんに会った。いまから仕事だって」
「そうそう、急に夜勤になったって」

その夜勤の話を聞いたときもこの体勢だったんだろうと容易に想像がつく。おばさんもおばさんで、タオルはいつものとこね、と忙しなく家を出た。二人揃って、俺はもう客ではないのだ。