受験から入学式まで、怒涛の日々が過ぎていった。
俺は自分の偏差値より少し高い高校を受験していたせいか、周りの大人――特に母親が妙にソワソワしていた。
合格発表の日。
俺以上に母親が喜んでいた気がする。
……が、喜びも束の間。
その瞬間から入学準備が始まり、気づけば暇な時間なんてほとんど消えていた。
そして入学式当日。
入学式は、驚くほどあっという間に終わった。
慣れない制服のまま座って、校長先生の長い話を聞いて。
気づいた時には終わっていた。
新しい教室は少しざわざわしていて、みんな落ち着かない様子だった。
やっと高校生になれた、とひと安心したのも束の間。
気づけば毎日が忙しくなっていた。
陸上部に入ることにしたのは、中学でもやっていたからだ。
そこに迷いはほとんどなかった。
放課後になればすぐグラウンドへ向かう。
新しい環境に慣れる余裕なんてなかった。
そんな日々を過ごして、少しずつ高校生活にも慣れてきた頃。
俺は教科書を忘れた。
古典の音読練習のために家へ持ち帰ったままだったことを思い出した。
仕方ない。
別クラスの部活の友達に借りようと廊下を歩いていた。
その時だった。
なんとなく他のクラスを眺めながら歩いていると、ふと見覚えのある顔が視界に入った。
「あ!!!!!」
反射だった。
気づいた時には、別クラスなのにズカズカ教室へ入っていた。
その人の前まで行く。
「あの時の人だよね!?」
声に気づいたのか、その人はゆっくり顔を上げた。
「……誰?」
(誰!? え!? 覚えてないの!?)
内心かなりショックを受けながらも、俺は慌てて言った。
「ほら! 受験の時、隣だった!」
「あぁ……」
それだけ言って、またノートへ視線を戻す。
(またこれだ……どうしよう)
(……あっ、そうだ!)
「ねぇねぇ、古典の教科書貸してくれない? 家に忘れちゃってさ〜」
するとその人は少し眉をひそめた。
「なんで? 友達に借りればいいじゃん。俺じゃなくてもいいでしょ」
それでも諦めない。
「お願いお願いお願い〜! どうしても貸してほしいの! あっ、ほらもう休み時間終わる! 次始まっちゃう!」
しつこく頼み続けた結果。
「……ちょっと待ってて」
そう言って席を立ち、ロッカーから教科書を持って戻ってきた。
「はい」
「え!? いいの!? ありがとう! 授業終わったらすぐ返しに来るね! じゃあまた!」
そう言って俺は教室を飛び出した。
教室へ戻ったあと、借りた教科書をぼんやり眺める。
(あ……名前)
黒瀬 稜。
(くろせ……りょう、でいいんだよな?)
そんなことを考えていたら、教員が教室へ入ってきた。
授業が終わり、昼休み。
俺は教科書を返しに、黒瀬稜の教室へ向かった。
「教科書ありがとうね」
「あぁ……」
そう言って、教科書を受け取ろうと手を出してきた。
だから俺は、その手の上にチョコを乗せた。
「……これは?」
「お礼!」
そう言いながら教科書を渡す。
「くろせ りょう、で合ってるよね?」
「……そうだけど」
「俺はたちばな みお。よろしくね」
「はぁ……よろしく」
「じゃあ、りょーくん。またね〜!」
俺はルンルン気分で教室へ戻った。
俺は自分の偏差値より少し高い高校を受験していたせいか、周りの大人――特に母親が妙にソワソワしていた。
合格発表の日。
俺以上に母親が喜んでいた気がする。
……が、喜びも束の間。
その瞬間から入学準備が始まり、気づけば暇な時間なんてほとんど消えていた。
そして入学式当日。
入学式は、驚くほどあっという間に終わった。
慣れない制服のまま座って、校長先生の長い話を聞いて。
気づいた時には終わっていた。
新しい教室は少しざわざわしていて、みんな落ち着かない様子だった。
やっと高校生になれた、とひと安心したのも束の間。
気づけば毎日が忙しくなっていた。
陸上部に入ることにしたのは、中学でもやっていたからだ。
そこに迷いはほとんどなかった。
放課後になればすぐグラウンドへ向かう。
新しい環境に慣れる余裕なんてなかった。
そんな日々を過ごして、少しずつ高校生活にも慣れてきた頃。
俺は教科書を忘れた。
古典の音読練習のために家へ持ち帰ったままだったことを思い出した。
仕方ない。
別クラスの部活の友達に借りようと廊下を歩いていた。
その時だった。
なんとなく他のクラスを眺めながら歩いていると、ふと見覚えのある顔が視界に入った。
「あ!!!!!」
反射だった。
気づいた時には、別クラスなのにズカズカ教室へ入っていた。
その人の前まで行く。
「あの時の人だよね!?」
声に気づいたのか、その人はゆっくり顔を上げた。
「……誰?」
(誰!? え!? 覚えてないの!?)
内心かなりショックを受けながらも、俺は慌てて言った。
「ほら! 受験の時、隣だった!」
「あぁ……」
それだけ言って、またノートへ視線を戻す。
(またこれだ……どうしよう)
(……あっ、そうだ!)
「ねぇねぇ、古典の教科書貸してくれない? 家に忘れちゃってさ〜」
するとその人は少し眉をひそめた。
「なんで? 友達に借りればいいじゃん。俺じゃなくてもいいでしょ」
それでも諦めない。
「お願いお願いお願い〜! どうしても貸してほしいの! あっ、ほらもう休み時間終わる! 次始まっちゃう!」
しつこく頼み続けた結果。
「……ちょっと待ってて」
そう言って席を立ち、ロッカーから教科書を持って戻ってきた。
「はい」
「え!? いいの!? ありがとう! 授業終わったらすぐ返しに来るね! じゃあまた!」
そう言って俺は教室を飛び出した。
教室へ戻ったあと、借りた教科書をぼんやり眺める。
(あ……名前)
黒瀬 稜。
(くろせ……りょう、でいいんだよな?)
そんなことを考えていたら、教員が教室へ入ってきた。
授業が終わり、昼休み。
俺は教科書を返しに、黒瀬稜の教室へ向かった。
「教科書ありがとうね」
「あぁ……」
そう言って、教科書を受け取ろうと手を出してきた。
だから俺は、その手の上にチョコを乗せた。
「……これは?」
「お礼!」
そう言いながら教科書を渡す。
「くろせ りょう、で合ってるよね?」
「……そうだけど」
「俺はたちばな みお。よろしくね」
「はぁ……よろしく」
「じゃあ、りょーくん。またね〜!」
俺はルンルン気分で教室へ戻った。
