君の隣にいけるまで

教室は、思ったよりも静かだった。

静かすぎるわけじゃない。
少しだけざわざわしていて、みんながどこか落ち着かないまま座っている。
高校受験特有の、張りつめた空気が薄く広がっていた。


椅子を引く音が、やけに大きく響いたように感じた。
澪は自分の席に座って、机の上に受験票を置いた。

手のひらが、少しだけ汗ばんで震えていた。
別に暑いわけじゃない。
ただ、落ち着かない。

(やばい、ちょっと緊張してるかも)

そう思っても、体の方は言うことを聞かない。

そのとき、隣の席に誰かが来る気配がした。

ちらっと横を見る。

眼鏡をかけた真面目そうなその人は、すでに前を向いていた。

(この人は緊張してないんだな)

そう思って、少しだけ息を吐く。


緊張を少しでも解したくて、澪は口を開いた。

「こんにちは〜!」

軽く、いつもの感じで。

隣の人は、少しだけこちらを見た。

「緊張しちゃうよね〜君は?」

澪がそう続けると、

相手はほんの一瞬だけ表情を変えた。

(なんで?って顔だ)

何を聞かれているのか分からないような顔のまま、

「緊張?」

小さく聞き返されたあと

「してない」

それだけ言って、視線を前に戻した。

(え!?それだけ!?)

澪は思わず心の中で突っ込む。

(同じ高校に通うかもしれないのに会話繋げないの!?)

もう少し会話が続くと思っていた。

でも、相手はそれ以上何も言わない。

澪は、もう一度話しかけようと口を開きかける。

その瞬間。

「はい、試験の説明をします」

試験官の声が教室に響く。

空気が一気に切り替わる。

試験官が話をしている間も隣の席が気になって仕方がない。

ちらっと横を見る。

(すげー真面目に聞いてんじゃん)

ただそれだけのことなのに、なぜか目が離せなかった。

ふと、眼鏡の隙間から顔が見えた。

(……あれ…思っていたより、整っている。

意外と、綺麗な顔してるじゃん)

そんなことを考えていたら問題用紙が配られ、紙の擦れる音が一斉に広がった。

(ちゃんとやらなきゃ)

試験が始まった。

鉛筆の小さな音が少しずつ増えていく。

いつもより、少しだけ集中する。

時間が過ぎていく。

鉛筆の音が、少しずつ弱くなる。

やがて、

「やめてください」

試験終了の声が響いた。


一気に空気が緩む。

椅子が動く音、ため息、背伸びの音。

澪も大きく伸びをした。

「あーーーーーー疲れたーーー」

(隣の人も流石に疲れた顔してるんじゃないの?)

そんな事を思いながら隣を見ると
そこに、もうその人はいなかった。

「いや、流石に帰るのはやすぎるだろ。ははっ」

思わず声に出ていた。

(そういえば気がついたら緊張がほぐれていたな。隣の綺麗な真面目くんありがとう。)

そんな事を思いながら澪も帰る支度をし始めた。