ざわざわと木々が擦れる音がする。
そして自分の意思と関係なくゆらゆらと揺れる身体。
俺、家のベッドで寝てたんじゃなかったっけ?
そんな疑問を抱きながら目を開ければ、そこは夜の森の中だった。
「っ!?」
驚いて叫ぼうとするけど、声が出ない。
口の中に布が挟まっていて、喋ることができなかった。
ていうかこれ、なんだ……?
ゆらゆらと身体がゆれるのは、何人かの人間によって横向きで神輿みたいに担がれてるからだった。
全くもって意味が分からない。
逃げ出そうとして……絶望する。
口に嵌められた轡だけじゃない。
両手は胸の前で、両脚は揃えて縛られていた。
「っ! っ!」
それでもなんとか逃げ出そうと身体を動かすと、俺の身体を支えていた手に力が入った。
「……大人しくしろ」
低い声だった。
低い……恐らく老人の声。
だけど聞き覚えはなかった。
訳が分からないまま運ばれていると、森が途切れた。
深い夜空が視界に入る。とても静かな、輝く月と煌めく星が美しい夜空だった。
逆に言うと高いビルや、そこから放たれるイルミネーション、空を行く飛行機みたいな人工物の気配が一切ない。
全くもって訳がわからない。
ここは……どこだ?
俺はいったい……?
寝てるところを攫われたのか?
誰が?
いったいなんの目的で?
これっぽちも意味が分からなくて、反応が遅れてしまった。
「……龍神様、お約束の年になりました贄をお持ちしました。こちらをお納めします故、幾久しくわが村に平穏を……」
低い声が告げた瞬間。
俺の身体は浮遊感に包まれた。
「っ!?」
俺を担いでいた男たちに放り投げられたと気付いたのは、視界の端に空とは違う深い碧が映ったからだ。
凪いだ湖面は月の光を受けて僅かに輝いている。
時折吹く風が小さく湖面を波立たせていた。
ふわりとした浮遊感は一瞬で。
あとは落ちていくだけだ。
湖に招かれるように落ちていく。
全くもって意味が分からない。
両手両足は拘束されたままだ。
このままでは水面に落ちても泳ぐことすらできない。
状況は絶望的。
死ぬ未来しか視えない。
全くもって……わけがわからない。
そんな俺を、青い月だけが照らしていた。
◆ ◆ ◆
「うっ! わぁぁぁぁぁぁ!!」
ガクンと膝から下が跳ねる。
これはアレだ。高いところから落ちる夢を見た時の反応だ。
授業中うたた寝してる時になると、机を蹴飛ばして周囲の視線を集めてしまうくっそ恥ずかしいヤツだ。
そのままガバリを身体を起こす。
まだドキドキと嫌な鼓動を立てる胸元を押さえる。
じとりとした冷や汗なのか脂汗なのか寝汗なのかわからないものが、パジャマ代わりのTシャツを不快に湿らせていた。
ぺたりと背中に張り付くソレが気持ち悪い。
ピリリリリリリ!
「っ!」
急に鳴り響いた電子音にビクリと身体が跳ねる。
音の出所は、スマホのアラームだった。
鳴り続けるソレを止めようと手に取ると、一番最初に設定してある時間を指していた。
「……早ぇ……」
いつもだったら二度寝をキめる時間だけど……。
夢の残滓に憑りつかれ、睡魔はどこかへと消えて、戻ってるく気配はない。
「……ちっ」
この夢を見るのはもう三度目だ。
冴吹が転入してきてから早一週間。
それが切っ掛け……というのはさすがに穿ち過ぎだと思うが、謎の龍と女性がやり取りする夢と、見知らぬ男たちの手によって縛られたまま湖に落とされる夢。
そのどちらか、若しくは両方の夢を見続けていた。
おかげで寝起きは最悪だし、睡眠の質も良くない。
うっかり授業中にうたた寝して、落とされる夢を見た結果机を蹴飛ばして起きたことは二度や三度ではない。
あまりの頻度に、最初は爆笑していたクラスメイトたちだったが、最近はちょっと視線が冷たい。
気遣ってくれるのは隣に座る冴吹くらいだ……。
「……つか、んでこんな夢見るんだよ……」
ぐしゃりと前髪を乱してから、立てた膝に額を預ける。
今日は落とされる夢だったせいか、俺ではない誰かの恐怖を押し付けられた結果、全身が怠い。
繰り返し見るこの夢に何の意味があるのか……。
さっぱりわからない。
しかも最近気づいたんだが、落とされる夢に出てくるのはどうやら別々の人間らしい。
手足を縛られて連れて行かれるのも、その団体の中心人物らしい人間が俺を生贄扱いするのも同じなんだが、中心人物の声が違ったり、俺であって俺でない人物が違ったりする。
同じ内容の夢を見ているようで、違う夢。もうさっぱりわけがわからない。
胸の奥から湧き上がる苛立ちを拳に乗せてベッドを叩くと、それはシーツの感触ではなかった。
チラリとそちらに視線を向ければ、曾祖母の日記が落ちていた。
昨日も読みながら寝落ちしたせいか、不自然にページが開いている。
それがなんだかイラっとして、乱暴にページを閉じた。
ピリリリリリリ!
「っ!?」
再びの電子音に身体が跳ねる。
タイミングぇと思いながらスマホを手に取れば、夜の間に来たのか何件かの通知があった。
そして新しいメッセの到着を告げるサジェスト。
「……冴吹?」
それは何日か前に連絡先を交換した冴吹からのメッセージだった。
体調がよくないので今日は休むということと、今日の分のノートを後で見せて欲しいということだった。
「……つか、んだよ、このスタンプ……」
ヘソ天で「おねがい」と伝える愛らしいポメラニアンのスタンプ。
転入早々に学校中の話題をさらい、同学年はもとよりそれ以外からも男女問わず熱視線を受けているイケメンが使うスタンプにしては可愛すぎだ。
「……了解っと」
文字だけを返信し、ちらりとスマホから視線を外す。
「……これでいっか……」
アニメに出てくる、ボールを集めると願いを叶えてくれる龍神のスタンプを送り付けたのは……。
昨日見た夢が残っていたからかもしれない。
「あれ? 今日冴吹くんお休みなの?」
「んぁ? あぁ、そうだって」
朝のHPの直前。
担任がいつ姿を現すかってタイミングで、俺に声をかけてきたのはイインチョだった。
イインチョのメガネの奥の視線は、窓際の一番後ろの空席に注がれている。
ポツンと孤立した席。
それは転入生である冴吹の席だった。
「ふぅん。……冴吹くん、大丈夫かなぁ」
そう呟いたイインチョに首を傾げる。
いつにない心配っぷりに何かあるのかと気になったからだ。
首を傾げる俺に、イインチョも首を傾げる。
「……あぁ、僕クラス委員だから担任から聞いてるんだけど……。冴吹くん、ご家庭の事情で一人暮らしなんだって」
最後の言葉だけぐっと声を落としたイインチョ。
確かにそんな極秘情報が流れたら、お見舞いと称して人が大挙して押し寄せかねない。
つか……。
「それ、俺にも教えんなよ」
真面目なイインチョにしては珍しいミスだ。
重要な個人情報の取り扱いを間違えるタイプじゃないんだけどな?
「んー、だって高浜くん、冴吹くんと仲いいから……。ていうか、ずいぶんと冴吹くんに懐かれたよねぇ」
気持ちはわかるけど……。
そう言って微笑まし気な表情をするイインチョ。てか、ちょっと待て。
「……俺、冴吹に懐かれてんの?」
そう、それ。そこだ。
確かに校内案内をした繋がりで話はしてるが、何せその校内案内の時にアイツはやらかしてくれた。
それ以来僅かに警戒しながら接していたはずなんだが……。
俺が不思議そうな顔をしてるのに気付いたのか、イインチョまで不思議そうな顔をする。
「え? だって君たちだいたいいつも一緒にいるし……」
「……そうだっけ?」
イインチョの言葉に首を傾げながらも、冴吹がいる日常を思い出す。
席は……離れているし、休み時間には冴吹とお近づきになりたい連中が大挙してるから、かかわりはない。
移動教室は……確かに一緒に行動してるかもな。でもこれは例の件で途中になってしまった校内案内を兼ねてるからだ。
あとは……。
「お昼も一緒に食べてるし、なんなら食べ終わった冴吹くん、高浜くんの膝枕で昼寝してるじゃん」
仲いいなぁってみんな言ってるよ?
イインチョの言葉にハテナマークが脳内に溢れ出した。
「え? 俺、冴吹と昼飯食べてたっけ……?」
「……何言ってるの? 冴吹くんが転入してからずっとそうじゃん。裏庭で二人で食べてるって有名だよ。なかには交ぜてもらおうと向かっていった猛者もいたらしいんだけど、なんとなく邪魔しちゃいけない雰囲気に負けてすごすご帰ってきてたよ?」
「え? いや待って? マジで待って? なんの話だ……?」
「だから……」
イインチョが言いかけた瞬間、教室のドアが開いた。
慌てて前を向くイインチョ。
「みんないるなー。あぁ、冴吹が休みだっけ」
タブレットと教室にいる面子を見比べながら担任がひとりごとのように呟く。
それから今日の連絡事項を喋り始めた担任を後目に、俺はイインチョの言葉が頭を離れないでいた。
(俺が昼飯を冴吹と二人で食べてる……?)
青天の霹靂のような話に、慌てて昨日を思い出す。
昨日は確か、いつも通り売店でパンを買って、お気に入りの裏庭へと向かった……はずだ。
そしたら……いつも通り冴吹が待っていて……。
二人並んで昼飯を食った。
そんでいつも通り冴吹が仮眠をとるっていうから膝を貸して……。
「って、なんでだよっ!」
ガタンと椅子を蹴立てて立ち上がる。
はっと我に返ってみれば、クラス中の視線が俺に向けられていた。
「あ……いや……その……」
「なんだぁ? 高浜ぁ? また寝ぼけてんのか?」
俺が最近、授業中にちょくちょく居眠りして机を蹴飛ばしながら起きることを知ってる担任が、意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見ている。
「いや……その……」
何も言えない俺に、担任はさらに面白そうに笑った。
「んじゃ、高浜。先生の話を聞いてなかったお前にはミッションを与えよう」
担任の言葉に、嫌な予感しかない。
「な……なんですか?」
「今日休んでる冴吹ん家に書類を届けてくれ」
途端、クラス中の女子からブーイングが飛ぶ。
冴吹の家に行けるなんてご褒美でしかないだろう。
「うるせーぞ女子ー。高浜は冴吹と仲いいからなー。高浜に冴吹の校内案内を任せた俺って先見の明があるよなぁ」
勝手なことをほざく担任。
アンタに押し付けられた結果、男にファーストキスを奪われたんだが?
キズモノになった責任取ってくれねぇかなぁ? と思いつつ隣のイインチョに目をやれば、うんうんと納得していた。
いや、なんでだよ! 高浜くんが適任だね! じゃねぇんだわっ!
だけど、なんだかんだと担任の頼みを引き受けてしまう俺は……我ながらお人好しだと思うわホント……。
そして自分の意思と関係なくゆらゆらと揺れる身体。
俺、家のベッドで寝てたんじゃなかったっけ?
そんな疑問を抱きながら目を開ければ、そこは夜の森の中だった。
「っ!?」
驚いて叫ぼうとするけど、声が出ない。
口の中に布が挟まっていて、喋ることができなかった。
ていうかこれ、なんだ……?
ゆらゆらと身体がゆれるのは、何人かの人間によって横向きで神輿みたいに担がれてるからだった。
全くもって意味が分からない。
逃げ出そうとして……絶望する。
口に嵌められた轡だけじゃない。
両手は胸の前で、両脚は揃えて縛られていた。
「っ! っ!」
それでもなんとか逃げ出そうと身体を動かすと、俺の身体を支えていた手に力が入った。
「……大人しくしろ」
低い声だった。
低い……恐らく老人の声。
だけど聞き覚えはなかった。
訳が分からないまま運ばれていると、森が途切れた。
深い夜空が視界に入る。とても静かな、輝く月と煌めく星が美しい夜空だった。
逆に言うと高いビルや、そこから放たれるイルミネーション、空を行く飛行機みたいな人工物の気配が一切ない。
全くもって訳がわからない。
ここは……どこだ?
俺はいったい……?
寝てるところを攫われたのか?
誰が?
いったいなんの目的で?
これっぽちも意味が分からなくて、反応が遅れてしまった。
「……龍神様、お約束の年になりました贄をお持ちしました。こちらをお納めします故、幾久しくわが村に平穏を……」
低い声が告げた瞬間。
俺の身体は浮遊感に包まれた。
「っ!?」
俺を担いでいた男たちに放り投げられたと気付いたのは、視界の端に空とは違う深い碧が映ったからだ。
凪いだ湖面は月の光を受けて僅かに輝いている。
時折吹く風が小さく湖面を波立たせていた。
ふわりとした浮遊感は一瞬で。
あとは落ちていくだけだ。
湖に招かれるように落ちていく。
全くもって意味が分からない。
両手両足は拘束されたままだ。
このままでは水面に落ちても泳ぐことすらできない。
状況は絶望的。
死ぬ未来しか視えない。
全くもって……わけがわからない。
そんな俺を、青い月だけが照らしていた。
◆ ◆ ◆
「うっ! わぁぁぁぁぁぁ!!」
ガクンと膝から下が跳ねる。
これはアレだ。高いところから落ちる夢を見た時の反応だ。
授業中うたた寝してる時になると、机を蹴飛ばして周囲の視線を集めてしまうくっそ恥ずかしいヤツだ。
そのままガバリを身体を起こす。
まだドキドキと嫌な鼓動を立てる胸元を押さえる。
じとりとした冷や汗なのか脂汗なのか寝汗なのかわからないものが、パジャマ代わりのTシャツを不快に湿らせていた。
ぺたりと背中に張り付くソレが気持ち悪い。
ピリリリリリリ!
「っ!」
急に鳴り響いた電子音にビクリと身体が跳ねる。
音の出所は、スマホのアラームだった。
鳴り続けるソレを止めようと手に取ると、一番最初に設定してある時間を指していた。
「……早ぇ……」
いつもだったら二度寝をキめる時間だけど……。
夢の残滓に憑りつかれ、睡魔はどこかへと消えて、戻ってるく気配はない。
「……ちっ」
この夢を見るのはもう三度目だ。
冴吹が転入してきてから早一週間。
それが切っ掛け……というのはさすがに穿ち過ぎだと思うが、謎の龍と女性がやり取りする夢と、見知らぬ男たちの手によって縛られたまま湖に落とされる夢。
そのどちらか、若しくは両方の夢を見続けていた。
おかげで寝起きは最悪だし、睡眠の質も良くない。
うっかり授業中にうたた寝して、落とされる夢を見た結果机を蹴飛ばして起きたことは二度や三度ではない。
あまりの頻度に、最初は爆笑していたクラスメイトたちだったが、最近はちょっと視線が冷たい。
気遣ってくれるのは隣に座る冴吹くらいだ……。
「……つか、んでこんな夢見るんだよ……」
ぐしゃりと前髪を乱してから、立てた膝に額を預ける。
今日は落とされる夢だったせいか、俺ではない誰かの恐怖を押し付けられた結果、全身が怠い。
繰り返し見るこの夢に何の意味があるのか……。
さっぱりわからない。
しかも最近気づいたんだが、落とされる夢に出てくるのはどうやら別々の人間らしい。
手足を縛られて連れて行かれるのも、その団体の中心人物らしい人間が俺を生贄扱いするのも同じなんだが、中心人物の声が違ったり、俺であって俺でない人物が違ったりする。
同じ内容の夢を見ているようで、違う夢。もうさっぱりわけがわからない。
胸の奥から湧き上がる苛立ちを拳に乗せてベッドを叩くと、それはシーツの感触ではなかった。
チラリとそちらに視線を向ければ、曾祖母の日記が落ちていた。
昨日も読みながら寝落ちしたせいか、不自然にページが開いている。
それがなんだかイラっとして、乱暴にページを閉じた。
ピリリリリリリ!
「っ!?」
再びの電子音に身体が跳ねる。
タイミングぇと思いながらスマホを手に取れば、夜の間に来たのか何件かの通知があった。
そして新しいメッセの到着を告げるサジェスト。
「……冴吹?」
それは何日か前に連絡先を交換した冴吹からのメッセージだった。
体調がよくないので今日は休むということと、今日の分のノートを後で見せて欲しいということだった。
「……つか、んだよ、このスタンプ……」
ヘソ天で「おねがい」と伝える愛らしいポメラニアンのスタンプ。
転入早々に学校中の話題をさらい、同学年はもとよりそれ以外からも男女問わず熱視線を受けているイケメンが使うスタンプにしては可愛すぎだ。
「……了解っと」
文字だけを返信し、ちらりとスマホから視線を外す。
「……これでいっか……」
アニメに出てくる、ボールを集めると願いを叶えてくれる龍神のスタンプを送り付けたのは……。
昨日見た夢が残っていたからかもしれない。
「あれ? 今日冴吹くんお休みなの?」
「んぁ? あぁ、そうだって」
朝のHPの直前。
担任がいつ姿を現すかってタイミングで、俺に声をかけてきたのはイインチョだった。
イインチョのメガネの奥の視線は、窓際の一番後ろの空席に注がれている。
ポツンと孤立した席。
それは転入生である冴吹の席だった。
「ふぅん。……冴吹くん、大丈夫かなぁ」
そう呟いたイインチョに首を傾げる。
いつにない心配っぷりに何かあるのかと気になったからだ。
首を傾げる俺に、イインチョも首を傾げる。
「……あぁ、僕クラス委員だから担任から聞いてるんだけど……。冴吹くん、ご家庭の事情で一人暮らしなんだって」
最後の言葉だけぐっと声を落としたイインチョ。
確かにそんな極秘情報が流れたら、お見舞いと称して人が大挙して押し寄せかねない。
つか……。
「それ、俺にも教えんなよ」
真面目なイインチョにしては珍しいミスだ。
重要な個人情報の取り扱いを間違えるタイプじゃないんだけどな?
「んー、だって高浜くん、冴吹くんと仲いいから……。ていうか、ずいぶんと冴吹くんに懐かれたよねぇ」
気持ちはわかるけど……。
そう言って微笑まし気な表情をするイインチョ。てか、ちょっと待て。
「……俺、冴吹に懐かれてんの?」
そう、それ。そこだ。
確かに校内案内をした繋がりで話はしてるが、何せその校内案内の時にアイツはやらかしてくれた。
それ以来僅かに警戒しながら接していたはずなんだが……。
俺が不思議そうな顔をしてるのに気付いたのか、イインチョまで不思議そうな顔をする。
「え? だって君たちだいたいいつも一緒にいるし……」
「……そうだっけ?」
イインチョの言葉に首を傾げながらも、冴吹がいる日常を思い出す。
席は……離れているし、休み時間には冴吹とお近づきになりたい連中が大挙してるから、かかわりはない。
移動教室は……確かに一緒に行動してるかもな。でもこれは例の件で途中になってしまった校内案内を兼ねてるからだ。
あとは……。
「お昼も一緒に食べてるし、なんなら食べ終わった冴吹くん、高浜くんの膝枕で昼寝してるじゃん」
仲いいなぁってみんな言ってるよ?
イインチョの言葉にハテナマークが脳内に溢れ出した。
「え? 俺、冴吹と昼飯食べてたっけ……?」
「……何言ってるの? 冴吹くんが転入してからずっとそうじゃん。裏庭で二人で食べてるって有名だよ。なかには交ぜてもらおうと向かっていった猛者もいたらしいんだけど、なんとなく邪魔しちゃいけない雰囲気に負けてすごすご帰ってきてたよ?」
「え? いや待って? マジで待って? なんの話だ……?」
「だから……」
イインチョが言いかけた瞬間、教室のドアが開いた。
慌てて前を向くイインチョ。
「みんないるなー。あぁ、冴吹が休みだっけ」
タブレットと教室にいる面子を見比べながら担任がひとりごとのように呟く。
それから今日の連絡事項を喋り始めた担任を後目に、俺はイインチョの言葉が頭を離れないでいた。
(俺が昼飯を冴吹と二人で食べてる……?)
青天の霹靂のような話に、慌てて昨日を思い出す。
昨日は確か、いつも通り売店でパンを買って、お気に入りの裏庭へと向かった……はずだ。
そしたら……いつも通り冴吹が待っていて……。
二人並んで昼飯を食った。
そんでいつも通り冴吹が仮眠をとるっていうから膝を貸して……。
「って、なんでだよっ!」
ガタンと椅子を蹴立てて立ち上がる。
はっと我に返ってみれば、クラス中の視線が俺に向けられていた。
「あ……いや……その……」
「なんだぁ? 高浜ぁ? また寝ぼけてんのか?」
俺が最近、授業中にちょくちょく居眠りして机を蹴飛ばしながら起きることを知ってる担任が、意地の悪い笑みを浮かべながら俺を見ている。
「いや……その……」
何も言えない俺に、担任はさらに面白そうに笑った。
「んじゃ、高浜。先生の話を聞いてなかったお前にはミッションを与えよう」
担任の言葉に、嫌な予感しかない。
「な……なんですか?」
「今日休んでる冴吹ん家に書類を届けてくれ」
途端、クラス中の女子からブーイングが飛ぶ。
冴吹の家に行けるなんてご褒美でしかないだろう。
「うるせーぞ女子ー。高浜は冴吹と仲いいからなー。高浜に冴吹の校内案内を任せた俺って先見の明があるよなぁ」
勝手なことをほざく担任。
アンタに押し付けられた結果、男にファーストキスを奪われたんだが?
キズモノになった責任取ってくれねぇかなぁ? と思いつつ隣のイインチョに目をやれば、うんうんと納得していた。
いや、なんでだよ! 高浜くんが適任だね! じゃねぇんだわっ!
だけど、なんだかんだと担任の頼みを引き受けてしまう俺は……我ながらお人好しだと思うわホント……。


