異世界に勇者として転生したけれど、どうやら魔王討伐ではなく、おつかいのためだけに召喚されたらしい。パシリ勇者から脱却するため女王討伐、その成功のヒントは情熱の丘?

 吹き替え映画を見ているようだった。
 けれど完璧なリップシンクで。
 流暢な日本語で。
 「おお、勇者よ、よくぞ目覚めた」
 威厳のある声が聞こえると同時に、
 目の前にゲームのウィンドウの様なものが見える。


 王「おお、勇者よ、よくぞ目覚めた」
                   』

 と表示されている。
 俺は、表示されている「」の中身を意識した。
 すると、
 |《おお、勇者よ、よくぞ目覚めた》
 と王の声が再生された。

 『
  衛兵1「無礼者、王の声を騙るなど!」
                   』

 声が聞こえ、ウィンドウが見えた瞬間。
 衛兵が俺を組み伏せた。

「いっつ、ちがっ、こっ、ウィンドウがっ……」
「うぃんど? 何を言って?」
「こっ、これっ、見えないんですか?」
「良い良い。衛兵、離してやれ」
「はっ」
「それは、勇者しか使えぬチートじゃ。其奴には会話を見ることができる。また会話を記録することができる。また、これは我々にも聞こえるが、会話を再生することができるらしい。伝承によるとな」

 どうやら、『』の中は俺にしか見えないらしい。
 そして、今、王が言ったように、過去の会話について、意識をすると、


 勇者「ちがっ、こっ、
    ウィンドウがっ……」
                   』

 衛兵4「うぃんど? 何を言って?」
                   』
 ・
 ・
 ・

 王「それは、勇者しか使えぬチー……
                    』

 と過去の会話を遡ることができた。

 ノベルゲームのログ機能。ボイス付。
 ウィンドウのオンオフ切り替え自由。
 は?
 そんな能力どうしろって?

「王様っ、そんなことよりっ、もう、良いではないですか。この下賤をいつまで城に……」
 女王が初めて口を開いた。いや待て。下賤? 俺のこと?
「そう言うでない。主が召喚したものに……。全く仕方のない。衛兵、送ってやりなさい」
「はっ」
「えっ、ちょっ、ちょっと……」

 俺は衛兵に城からつまみ出された。
「ほらっ、さっさと行け、東に町がある」
「いやっ、ちょっと、待ってくださいよ。俺は勇者なんでしょ? 召喚? されたんでしょ? その、魔王とか、そういうの倒すために呼んだんじゃないですか?」
「はぁー、今の世に魔王は居ない。お前の仕事はそれじゃない」
「じゃあ、」
「うるさい、町に行けば分かる」

 鬱陶しく追い払われた俺は、町に向かった。

 町に着いた俺。
 横目で俺を見てヒソヒソと話をする二人の老婆。
 一人が、
「上薬草二つ」
 と言った。
 なにを、と聞き返すと、その老婆はちっと舌打ち。
 もう一人がにやけ顔で、
「情熱の丘」
 とだけ言って、しっしっと俺を手で追い払った。



 魔王のいない世界に俺が召喚された意味。
 勇者の仕事。それはパシリだった。

 クソゲーのおつかいクエスト。
 上薬草を情熱の丘に採取して。
 武器屋に壊れた鍋の修理を依頼して。
 合挽肉を肉屋で買ってきて。
 亡霊の森で子犬とはぐれたの。
 
 そんな依頼が次から次へと。
 町の人は最低限のことしか俺と話さない。

 このチートの意味も分かった。
 御用聞きしたことを忘れないようにだ。
 仕事を忘れないための奴隷のためのメモ。

 来る日も来る日もパシリパシリパシリ。
 汚物を見る様な目。
 こんな世界に、どうして俺が転生させられた?
 人の名前がこの世界には存在しない。
 ただ役割があり。職業名で呼ばれる。 
 勇者として召喚された俺は、一生このまま?
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。成り上がる。でもどうしたら?
 何も思いつかず、会話ログを繰り返し繰り返し眺める。
 
 ・
 ・
 ・

 仕立て屋2「上薬草二つ」
                   』

 仕立て屋1「情熱の丘」
                   』
 ・
 ・
 ・

 あっ、いけるかもしれない。



 それから、淡々と仕事をこなした。
 金を貯め、衛兵に金を握らせた。
 ついに、また、王に謁見できる機会を得た。

 「王様にぜひ、お聞かせしたいことがありまして。いえ、御用聞きとして、色々と町の方々の声を聞いておりますと、いろいろな噂が耳に入ってきまして。その中で、心苦しいのですが、王にお聞きいただきたいものがありまして」
「うむ、申せ」
 俺は念じる。会話ログのウィンドウを出す


 仕立て屋1「情熱の丘」
                   』
 音声データとしては、じょおねつのうか。
 というのが近しい。
 俺はそこから、「」の中に意識を向ける。
 チートでの「」の中の音声の再生、停止。
 
 じょおねつのうか
 ↑ ↑   ↑
 1 2   3

 じょおねつのうか
    ↑↑   
    45

 じょおねつのうか
      ↑↑↑
      678

 《女王(じょおう)(ねつ)農家(のうか)



 しばし静寂の後、王は一笑に付す。
「ふっ、他愛無い民の噂であろう?」
 王の顔に、少しの陰りができたことを、俺は見逃さなかった。

 ウィンドウオープン。ログ。
 選択。再生。選択。再生。選択。再生。選択。再生。選択。再生。選択。再生。
 ・
 ・
 ・

 俺は、今までの町の奴らから聞いた会話の内容から、恣意的に音を引き出し再生する。
 女王の不貞。衛兵の金の要求。暗殺計画。
 王の顔はますます曇る。

 疑惑が深まったところで、トドメだ。

 女王の音声データから、
 《王より、良い良い、おっおっおっ》
 衛兵1の音声データから、
 《ああ、ああ、女王っ、》
 という二つの音声を、同時に、交わっているかのように再生を、



 女王と衛兵は打首に、そして俺はおつかいから王の使いに。
 くだらない言葉遊びの、ヒントは情熱の丘だった。