The Park Talk

 2030年5月2日。21時56分を示す時計を見て、春川一樹は玄関に向かう。
「散歩行ってくる」
「気をつけるのよ」
「わかった」
ガチャ、キィー

あちぃ。

 夜だというのに、気温は25℃。夏というわけでもない。暑さにうんざりしながら、春川は歩き出す。散歩コースにある、家から15分ほどのラブホ横の公園。いつもそこのベンチに座って、ちょっとぼーっとしてからまた歩き出す。

あいつ、いるのかな。

 公園に着くと、誰もいない。1組の男女がラブホ前のコンビニから出てきた。

ラブホ、入んのかな。

 春川の予想通り、男女はラブホに吸い込まれて行った。ベンチに座っていると、疲れきったような男が駅方向から公園に入ってくる。春川の隣に座る。
「よぉ。非行少年。」

相変わらずタバコ臭いな。

「よ。毎回言うけど…。はぁ。」
 春川はため息をつく。
「なんだよ?ご機嫌斜め?なんかあった感じね。」
「なんかって言っても、ちょっとイラついただけ。」
「へー。面白そうじゃん」
「面白くないから」
 春川は少しだるそうにする。
「ごめんって。で?」
「今日学校で、一方的にキレられたんだよ。」
「ふーん」
「友達の物、間違えて使っちゃって。パッと見ただけじゃ誰のかわかんねぇし、仕方ねぇのに。めっちゃキレられた。」
「確かに。自分のだ!って目印つけとかねぇと、わかんねぇよなぁ。そいつは何か目印つけてたの?」
「いや、なんも。」
「そ。なら、そいつがわりぃな。」
「俺もよくあるよ。間違えて友達のモノ(女)貰っちゃうの。ちゃんと目印(キスマ)付けておかないと、わかんねぇ。だから、俺はちゃんと付けとくんだ〜」
 男は頷きながら春川に共感する。春川はいつも完璧に見える男が、ドジをすることに驚いた。
「あんたでも、そういうドジすんだな。」
「そう。大人でもやっちまうことはある。でも、そのお友達より、女がわりぃな。二股じゃん。」
「…女?」
「…女だろ?」
「「…」」
 2人の間に沈黙が生まれた。
「え、お前がキレられたのは、友達の女取ったからだろ?」
「はぁ。"友達の物"って、上履きのことな。」
 春川はため息混じりに説明した。
「あー…。でも、まぁうん。自分のモノに目印付けんのは、大事だからな。うん。」
「やっぱり、あんたはちょっとおかしいな。」
 春川が呆れる。
「いや、これは俺が全部悪いわけじゃねぇよ。てか、高校では、文の初めに主語をつけなさいって習わねぇのか?」
 春川は目を逸らす。
「てか、暑くない?アイス、食べよ。」
「あちぃよ。」
「「…」」
 2人は顔を見合わせる。
「「ジャンッケンッポンッ!」」
 春川はチョキ、男はグー。
「フッ。日頃の行いか?ハハッ!」
「クソ…。あんたよりは、確実に優等生だってのに…」
「ほら、行け!」
「はいはい」
「はい。は1回ね〜」

あ〜。相変わらずうぜぇ。

 春川が、ラブホ前のコンビニでアイスを2つ買って公園に戻る。
「はい。これ。」
 春川は、期間限定の梅干しアイスを手渡した。
「え、俺が梅干し嫌いなの言ったよね?」
「はい。だから買ってきたんだよ。」
「嫌がらせ、やめな〜?」
「はぁ。ほら、これ食えよ。」
 春川は、自分用に買ったクッキーアンドクリームのアイスを男にあげた。
「どうも。俺はクッキーアンドクリームが1番好きなの!」
「へいへい。そーですか。お子ちゃまでちゅね〜」
「あ、今の1番ムカつく」
 男は、子供っぽいムスッとした顔で春川を見た。
「ハハハッ!」

その顔が1番面白いな

 アイスを食べ終わった2人は、立ち上がる。
「またな。非行少年。」
「じゃあな。」
 2人はそれぞれ帰路につく。時刻は22時43分。
「母さん、ただいま。」
「あら、汗びっしょりね。お風呂入りなさいね。」
「うん。」
 春川は風呂に入った。2度目の風呂に。

自分のモノには目印を。か。あいつ、人のモノにも自分の目印つけそ。

「ハハッ」
 春川は風呂場で笑う。

明日もあちぃだろうな。