夢の続きの話をしよう(下)【期間限定再録】

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 除夜の鐘が聞こえる。
 なにが見えるでもないのに、つい視線がカーテンのほうへ向いた。そういえば、少し歩いたところに小さな神社があったような。
「初詣か」
 思えば、もう何年も行っていない。その時期に日本にいないことが多いのだから、当然と言えばそうなのだが。
「なに、行きたいの。おまえ」
 聞いているのが自分しかいないのだからしかたなく、と言わんばかりだ。つまり、嫌そう。見るともなしについていたテレビからは、ゆく年くる年が流れていた。
「なにがなんでもってわけではないですけど」
 まぁ、先輩、そういうの好きじゃないだろうな。わかっていたので、さほどのダメージもない。べつに俺もイベントごとが大好きというわけでもない。
「ただ、この近くにもあったなぁって思っただけです」
「このあたりに?」
「そう。あんまり大きいところじゃなくて、こぢんまりとしたところですけど」
「へぇ」
「だから、そんなに人出もないと思いますけど」
「……行きたいのかよ、結局」
 呆れた声に、にこりとほほえむ。
「絶対ってわけじゃないですけど」
「今から?」
「せっかくだし」
 先輩と一緒に行くのはじめてだし。続けると、面倒そうだった雰囲気がゆるんだ。あいかわらず先輩は俺に甘いし、俺のお願いにも弱い。
「目立つのいやなんだけど」
 最後の抵抗だとわかったので、ここぞと主張する。
「だから。俺も目立とうと思って目立ってるわけじゃないですってば」
 空港でも言われたが、先輩の目に目立って映る一因は、先輩が俺のことばかりを気にしているからだと思う。認めないだろうし、言わないけど。
 どこに先輩がいても俺が見つけることができるのと、同じ理由。
「それにいいじゃないですか。気づかれたら逃げれば」
「ガキかよ」
「そういえば、やりましたね。昔」
 懐かしさに声が笑う。先輩を連れて深山に行ったときだ。いつまでもおまえと同じだと思うなと怒られた。
「行きたいときに行きたい場所に行けるって、いいことですよ」
「それはそうかもな」
「普段はできないですしね」
 同じ建物で生活しているどころか、住んでいる国が違う。寂しいと言うつもりはないけれど、あのころは恵まれていたなとは思う。
 いつもすぐそばにいられた。
 ――大人になったってことなんだろうけど。
 あのころの俺が思っていたことだ。早く一人前の大人になりたい。
 社会的な責任を持てる人間になって、プロのサッカー選手になって。後輩としてではなく、この人のとなりに立ちたいと願っていた。あの当時の、先輩のとなりにいた富原さんのように。
 頼られたいと、そんなことを。
「風邪ひくなよ」
「ひきませんよ」
 年上然とした物言いは、昔から変わらない。けれど、声音は柔らかくなったようにも思う。後輩ではなく恋人。ふとしたときに感じる変化をうれしいと思う。
 いつかこれも当たり前になっていくのかもしれない。先輩が、言っていたように。