夢の続きの話をしよう(下)【期間限定再録】

 賭けと言うからには、うまくいくこともあれば悪い方向に転がることもある。
 開始早々から三回戦は荒れていた。おそらくは監督たちの想定以上に。苦い顔の監督が交代のカードを切ったのが、前半の二十分だ。本来であればもっと遅くに代えたかったのだろうが、状況が許さなかった。
 どちらも無得点だが、すでに向こうにイエローカードが一枚、うちにも一枚。荒れた原因となった場面のほとんどに絡んでいたとあっては下げざるを得ない。
 わかっているだろうに、交代を告げられた佐倉は不満を隠さない顔だ。代わりに入った部員の脇を素通りして、どかりとベンチに腰を下ろす。
「負けますよ、俺がいないと」
 傲慢な言いように、コーチが唾を飛ばさん勢いで叱りつけている。
「だって、点、取れないでしょ。実際。知ってます? サッカーって守ってるだけじゃ勝てないんですよ」
 説教の響いていない調子に、コーチの声がさらに跳ね上がる。気の毒にと思っていると監督が口をはさんだ。埒の明かないやりとりを見かねたらしい。
「今のおまえがなかにいても勝てん。よしんば勝っても、ろくな勝ち方じゃない」
「なんすか、それ。勝ちは勝ちで、それ以外にないでしょ」
「本当にそう思うなら、今後のためにも頭を冷やせ」
 滅多とない突き放した言い方に、監督を窺う。その横顔はフィールドを向いたままだった。
「今のほうがよほどチームとして機能している。それもわからんか」
「その、仲良しこよしみたいなの、マジで嫌いなんすけど、俺」
「仲良しこよしとチームプレーを区別できないなら、試合に出せなくなるな」
 それ以上の反論はなかった。ベンチを蹴りつけたのを最後に立ち去っていく。
「ガキか」
 多少は真面目に練習に参加するようになったかと思えば、本番でこれか。小さくなる背から監督に視線を戻す。この場を離れても問題のない大人は自分しかいない。
「連れ戻しましょうか」
「放っておいていい。頭が冷えたら戻ってくるさ。抜け出したまま消えるほど馬鹿じゃない」
 ――そりゃ、そうだろうけども。
 もう一度、消えていった方向に目を向けた。角を曲がったところで見えなくなる。まぁ大丈夫だろう。言い聞かせて、フィールドに向き直る。その先で、自陣のゴールネットがあっけなく揺れた。