中間考査の終わった校内は、解放感に満ちていた。テストの採点と返却を終えると、教師も忙しなかった日々から解放される。
時間に余裕の生まれた放課後に、顧問としての義理を果たすべく練習に顔を出す。真面目だねぇと同僚には笑われたが、時間があるのに顔を出さずに帰っても落ち着かない。
――最近は真面目に出てるって言ってたな。
フェンス越しに見ていると、一軍の練習メニューを淡々とこなす長身が目に留まった。
インターハイの地区予選は始まっている。心を入れ替えたのか、そういう気分なのかは知らないが、少なくとも参加しているのだ。一時期を思えば、状況は好転しているのだろう。
「佐野」
外から見ているだけのつもりだったのに、呼ばれてしまった。近寄ると、監督が渋い顔をする。
「そんなところで見ていないで、ここで見ればいいと言ってるだろう」
「いや、まぁ、俺が教えるわけでもないですし」
顧問という立場上、少しは関わるべきだと思うから顔を出しているけれど。自分は監督でもコーチでもない。
「佐野、そのことだが、――あぁ、いや、その前に」
「なんですか?」
「今回も赤点はいなかった」
「よかったですね、それは」
佐倉が全教科赤点を回避したことは担任に聞かされて知っていたが、ほかの部員も問題がなかったのならなによりだ。
「おまえには迷惑をかけたな」
「あぁ、いえ。ぜんぜんです。あいつの担任からも似たようなことは言われましたけど。最終的には佐倉がやる気になっただけですし」
監督のような労りではなく、マジ助かった、今度、酒でも奢るね、という軽いあれだったが。
「登録メンバーに使えるなら、よかったじゃないですか」
「最近は見てのとおり、参加してはいるからな」
その言いように苦笑いになる。監督の望むレベルには達していないらしい。とはいえ、ほかにめぼしいフォワードがいないのも事実だ。経験を積ませるだけなら、成長途中の下級生を出してもいいのだろうが、勝ち星を狙うには厳しい。
「次の三回戦で成美と当たる」
「成美って、……佐倉がいたところでしたっけ」
深山と違って中高一貫校ではないが、同系列の中学からほとんどの生徒が持ち上がりで進んでいる。
「ひさしぶりですね、当たるのは」
「この調子のままなら、スタメンでいけそうだとコーチとは話していたんだが」
「はぁ」
「一種の賭けになりそうだと思ってな」
晴れない横顔に、打つ相槌も曖昧なものになる。
――そのまま上に進まないでうちに編入したくらいだ。問題はあったんだろうけど。
指導者と反りが合わなかったのか、チームメイトと揉めたのか。あるいは深山になにかしらの魅力を感じたのか。
あの問題児を鑑みるに、対人関係に端を発した問題のような気はするが。サッカーは、個人競技ではない。いくらうまかろうと孤立すれば力は発揮できない。コミュニケーション能力も実力のうちだ。
そのあたりも抜群にうまかった実例を知っているだけに、惜しい人材だなと思うことはある。殻を破れるかは本人次第だとわかってはいるけれど。
――成美って、庄司のところか。
浮かんだのは、大学時代の友人だった。たまには飲もうという連絡を受けたばかりだからだろうか。庄司が勤務先に選んだのも、自分と同じ出身校の私学だった。
話半分に聞いてみてもいいかもしれない。らしくもないお節介なことを考えながら、部員たちのほうへ視線を動かす。
楽しい顔で練習をしろとまでは思わないけれど。ほかの部員が必死に動いているなか、淡々とした態度を崩さない佐倉は一片の疑いもなく浮いていた。
時間に余裕の生まれた放課後に、顧問としての義理を果たすべく練習に顔を出す。真面目だねぇと同僚には笑われたが、時間があるのに顔を出さずに帰っても落ち着かない。
――最近は真面目に出てるって言ってたな。
フェンス越しに見ていると、一軍の練習メニューを淡々とこなす長身が目に留まった。
インターハイの地区予選は始まっている。心を入れ替えたのか、そういう気分なのかは知らないが、少なくとも参加しているのだ。一時期を思えば、状況は好転しているのだろう。
「佐野」
外から見ているだけのつもりだったのに、呼ばれてしまった。近寄ると、監督が渋い顔をする。
「そんなところで見ていないで、ここで見ればいいと言ってるだろう」
「いや、まぁ、俺が教えるわけでもないですし」
顧問という立場上、少しは関わるべきだと思うから顔を出しているけれど。自分は監督でもコーチでもない。
「佐野、そのことだが、――あぁ、いや、その前に」
「なんですか?」
「今回も赤点はいなかった」
「よかったですね、それは」
佐倉が全教科赤点を回避したことは担任に聞かされて知っていたが、ほかの部員も問題がなかったのならなによりだ。
「おまえには迷惑をかけたな」
「あぁ、いえ。ぜんぜんです。あいつの担任からも似たようなことは言われましたけど。最終的には佐倉がやる気になっただけですし」
監督のような労りではなく、マジ助かった、今度、酒でも奢るね、という軽いあれだったが。
「登録メンバーに使えるなら、よかったじゃないですか」
「最近は見てのとおり、参加してはいるからな」
その言いように苦笑いになる。監督の望むレベルには達していないらしい。とはいえ、ほかにめぼしいフォワードがいないのも事実だ。経験を積ませるだけなら、成長途中の下級生を出してもいいのだろうが、勝ち星を狙うには厳しい。
「次の三回戦で成美と当たる」
「成美って、……佐倉がいたところでしたっけ」
深山と違って中高一貫校ではないが、同系列の中学からほとんどの生徒が持ち上がりで進んでいる。
「ひさしぶりですね、当たるのは」
「この調子のままなら、スタメンでいけそうだとコーチとは話していたんだが」
「はぁ」
「一種の賭けになりそうだと思ってな」
晴れない横顔に、打つ相槌も曖昧なものになる。
――そのまま上に進まないでうちに編入したくらいだ。問題はあったんだろうけど。
指導者と反りが合わなかったのか、チームメイトと揉めたのか。あるいは深山になにかしらの魅力を感じたのか。
あの問題児を鑑みるに、対人関係に端を発した問題のような気はするが。サッカーは、個人競技ではない。いくらうまかろうと孤立すれば力は発揮できない。コミュニケーション能力も実力のうちだ。
そのあたりも抜群にうまかった実例を知っているだけに、惜しい人材だなと思うことはある。殻を破れるかは本人次第だとわかってはいるけれど。
――成美って、庄司のところか。
浮かんだのは、大学時代の友人だった。たまには飲もうという連絡を受けたばかりだからだろうか。庄司が勤務先に選んだのも、自分と同じ出身校の私学だった。
話半分に聞いてみてもいいかもしれない。らしくもないお節介なことを考えながら、部員たちのほうへ視線を動かす。
楽しい顔で練習をしろとまでは思わないけれど。ほかの部員が必死に動いているなか、淡々とした態度を崩さない佐倉は一片の疑いもなく浮いていた。



