オレの突然の告白を受けて、那須くんの目が大きく見開かれた。
その顔を見て初めて、オレは自分が何を口走っていたのかようやく理解した。
でも、もう遅い。
「お前……それ、どういう意味だよ」
那須くんの声がわずかに掠れていた。オレの言葉の意味を図りかねている様子で、壁に押しつけていた腕の圧がゆるむ。
誤魔化すことも考えた。でも──遅かれ早かれ、不器用なオレは自分の気持ちを隠し続けるなんてできないだろう。
だったら、もうこの場で全部伝えてしまったほうがいい。
オレは息を吸って、那須くんの目を見た。
「そのままの意味だよ。オレ、那須くんのことが好き」
「好きって──友達として、か?」
「違うよ。確かに友達みたいに仲良くなりたいのも本当だけど、オレ、友達以上に那須くんのことが好きだ」
全部言い切ってから、ドッと恥ずかしさが押し寄せてきた。
那須くんは、何も言わなかった。驚いた様子で顔を手で押さえて、オレからあからさまに視線を外している。
その様子に、オレは早くも、告白したことを後悔し始めた。
「あ、あの、那須くん、ごめん。オレ、思ったことすぐ口に出しちゃうところがあって。その、迷惑なら忘れて──」
言い終わる前だった。那須くんが再び、オレを壁に押しつけてきた。
さっきとは比べものにならないくらい距離が近い。那須くんの腕がオレの両脇を塞いでいて、逃げ場がない。今にも顔が触れそうだ。頭がクラクラしてくる。
「お前さ、ほんと、なんでも直球で伝えてくるよな。無自覚なの、それ」
「え、無自覚って何が……?」
「いや、……はぁ。まあいいか」
那須くんが息を吐いた。
「で、お前は俺にどうしてほしい?」
至近距離で、そんなことを聞かれる。
混乱する頭をフル回転させて、なんとか言葉を絞り出した。
「オレ、できたら那須くんにも──オレを好きになってほしい」
なんて大胆で、贅沢な願いだろう。自分で言っておいて恥ずかしさが限界を突破した。顔を逸らそうとしたけど、那須くんの手がオレの顎をそっと掴んで、それを阻止される。
あ、と思ったときには、もう遅かった。
那須くんの唇が、オレの唇に触れていた。軽く、触れるだけのキスだ。
でも、オレにはそれでも刺激が強すぎて──心臓が口から飛び出してくるんじゃないかってくらい、ドクドクと鳴り響き始める。
「なんだよ、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して。お前、こういう意味で俺のこと好きって言ったんじゃないの」
その通りだ。その通りだけど。
まさか那須くんにこうやって行動で返されるなんて考えてもみなくて、頭がまともに回らなくなっていく。
那須くんはそんなオレを尻目に、するりと拘束を解いて廊下へと歩き出した。
「ほら、早く部活に行くぞ」
その態度があまりにいつも通りの那須くんで、さっきの出来事はオレの見た都合のいい夢だったんじゃないかと一瞬本気で思った。でも唇にはまだかすかに温度が残っていて、夢じゃないことは確かだ。
慌てて那須くんの背中を追いかける。
「たぶんその様子じゃ知らないと思うから言っとくけど」
前を歩きながら、那須くんが言った。
「お前、九月の地方大会に出すからな。E級だ」
「えっ、オレ、大会に出るの?」
「だろうと思った」
那須くんは振り返らずに続ける。
「いいか。E級ってのは、競技かるたの一番下の級だ。そこで規定の成績を収めれば、D級に昇格できる」
「う、うん」
「で、お前がD級になればな──来年のかるた甲子園、個人戦に出られるんだよ」
「かるた甲子園……って、近江神宮でやるやつ?」
「そうだ。ちなみに、団体戦の全国大会もそこでやる。来年は団体戦で全国に出ることが目標だが、同時に個人戦も目標のひとつだ。だから、まずは九月にE級で結果を出して、D級に上がる。当面のお前の目標はそこだ」
唐突に降ってわいた話に混乱するオレをよそに、那須くんが不意に「ああ、いいこと思いついた」と楽しそうな声を出した。
「どうしたの?」
「お前が九月の大会でD級に昇格できたら、ご褒美をやるよ」
そこで那須くんが、くるりと振り返る。いたずらっ子みたいな笑みを浮かべて。
「ご褒美は、そうだな。──さっきの告白の、返事だ」
「え、ええっ!?」
なんてことだ。つまりオレは、D級に昇格できない限り那須くんから告白の返事がもらえないということか。ひどい。むごすぎる。
那須くんはオレの顔を見て堪えきれないように笑うと、また前を向いて歩き始めた。
窓の外を見ると、いつの間にか雨が上がっていた。分厚い雲の切れ間から、薄い光が差し込んでいる。
廊下の先を歩く那須くんの背中は、相変わらずオレより十センチぶん高い場所にある。あの隣に並ぶには、まだまだ遠い。
でも、オレは彼の隣に並ぶんだ。
だって、そう彼と約束したんだから。
その顔を見て初めて、オレは自分が何を口走っていたのかようやく理解した。
でも、もう遅い。
「お前……それ、どういう意味だよ」
那須くんの声がわずかに掠れていた。オレの言葉の意味を図りかねている様子で、壁に押しつけていた腕の圧がゆるむ。
誤魔化すことも考えた。でも──遅かれ早かれ、不器用なオレは自分の気持ちを隠し続けるなんてできないだろう。
だったら、もうこの場で全部伝えてしまったほうがいい。
オレは息を吸って、那須くんの目を見た。
「そのままの意味だよ。オレ、那須くんのことが好き」
「好きって──友達として、か?」
「違うよ。確かに友達みたいに仲良くなりたいのも本当だけど、オレ、友達以上に那須くんのことが好きだ」
全部言い切ってから、ドッと恥ずかしさが押し寄せてきた。
那須くんは、何も言わなかった。驚いた様子で顔を手で押さえて、オレからあからさまに視線を外している。
その様子に、オレは早くも、告白したことを後悔し始めた。
「あ、あの、那須くん、ごめん。オレ、思ったことすぐ口に出しちゃうところがあって。その、迷惑なら忘れて──」
言い終わる前だった。那須くんが再び、オレを壁に押しつけてきた。
さっきとは比べものにならないくらい距離が近い。那須くんの腕がオレの両脇を塞いでいて、逃げ場がない。今にも顔が触れそうだ。頭がクラクラしてくる。
「お前さ、ほんと、なんでも直球で伝えてくるよな。無自覚なの、それ」
「え、無自覚って何が……?」
「いや、……はぁ。まあいいか」
那須くんが息を吐いた。
「で、お前は俺にどうしてほしい?」
至近距離で、そんなことを聞かれる。
混乱する頭をフル回転させて、なんとか言葉を絞り出した。
「オレ、できたら那須くんにも──オレを好きになってほしい」
なんて大胆で、贅沢な願いだろう。自分で言っておいて恥ずかしさが限界を突破した。顔を逸らそうとしたけど、那須くんの手がオレの顎をそっと掴んで、それを阻止される。
あ、と思ったときには、もう遅かった。
那須くんの唇が、オレの唇に触れていた。軽く、触れるだけのキスだ。
でも、オレにはそれでも刺激が強すぎて──心臓が口から飛び出してくるんじゃないかってくらい、ドクドクと鳴り響き始める。
「なんだよ、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して。お前、こういう意味で俺のこと好きって言ったんじゃないの」
その通りだ。その通りだけど。
まさか那須くんにこうやって行動で返されるなんて考えてもみなくて、頭がまともに回らなくなっていく。
那須くんはそんなオレを尻目に、するりと拘束を解いて廊下へと歩き出した。
「ほら、早く部活に行くぞ」
その態度があまりにいつも通りの那須くんで、さっきの出来事はオレの見た都合のいい夢だったんじゃないかと一瞬本気で思った。でも唇にはまだかすかに温度が残っていて、夢じゃないことは確かだ。
慌てて那須くんの背中を追いかける。
「たぶんその様子じゃ知らないと思うから言っとくけど」
前を歩きながら、那須くんが言った。
「お前、九月の地方大会に出すからな。E級だ」
「えっ、オレ、大会に出るの?」
「だろうと思った」
那須くんは振り返らずに続ける。
「いいか。E級ってのは、競技かるたの一番下の級だ。そこで規定の成績を収めれば、D級に昇格できる」
「う、うん」
「で、お前がD級になればな──来年のかるた甲子園、個人戦に出られるんだよ」
「かるた甲子園……って、近江神宮でやるやつ?」
「そうだ。ちなみに、団体戦の全国大会もそこでやる。来年は団体戦で全国に出ることが目標だが、同時に個人戦も目標のひとつだ。だから、まずは九月にE級で結果を出して、D級に上がる。当面のお前の目標はそこだ」
唐突に降ってわいた話に混乱するオレをよそに、那須くんが不意に「ああ、いいこと思いついた」と楽しそうな声を出した。
「どうしたの?」
「お前が九月の大会でD級に昇格できたら、ご褒美をやるよ」
そこで那須くんが、くるりと振り返る。いたずらっ子みたいな笑みを浮かべて。
「ご褒美は、そうだな。──さっきの告白の、返事だ」
「え、ええっ!?」
なんてことだ。つまりオレは、D級に昇格できない限り那須くんから告白の返事がもらえないということか。ひどい。むごすぎる。
那須くんはオレの顔を見て堪えきれないように笑うと、また前を向いて歩き始めた。
窓の外を見ると、いつの間にか雨が上がっていた。分厚い雲の切れ間から、薄い光が差し込んでいる。
廊下の先を歩く那須くんの背中は、相変わらずオレより十センチぶん高い場所にある。あの隣に並ぶには、まだまだ遠い。
でも、オレは彼の隣に並ぶんだ。
だって、そう彼と約束したんだから。

