正直、びっくりした。
私は目をまん丸にしたままじっと見つめ返す。
桐生さんの表情も視線も、いたって真面目だ。嘘を言っているようには見えない。
彼みたいなイケメンで仕事もできるエリートが彼女いないなんて。
……まあ今はたまたまって可能性もあるよね。別れたばかりとか。
「望月さんは、彼氏いるの?」
私はあっけにとられた。
なんでそんなことを聞くの? 聞いてどうするっていうのよ。
ただの興味か。それとも気になっただけ?
でも、彼も自分の状況を答えてくれたのだから、私も答えるのが礼儀だよね。
「私も、いませんけど」
「……そっか」
桐生さんは少し笑って、ほっとしたように微笑んだ。
ん?
どういうこと? 今の表情の意味は?
私みたいな女に彼氏がいたらおかしいって、
いるはずないって、思った?
まあ、いないけどさ。
勝手に悪い方へ考えてしまい胸の奥がもやっとする。
視線を落としたまま、グラスの縁を指でなぞる。なんだか、少しだけ腹が立った。
勝手に決めつける人っているよね。……私がそう受け取ってしまっただけかもしれないけど。
彼もそうなんだろうか。
ふと悲しくなって黙り込む。
空いた間を埋めるように箸を持ち上げた、そのとき。
「あの、俺ずっと――」
「席替えターイム!」
突然、佐々木さんの声が響いた。
私をこの合コンに誘った張本人で、さっきから合コンをめいっぱい楽しんでいる。顔も赤くお酒も入っているみたいで、満面の笑みを振りまいていた。
端の席で桐生さんと話していたから、周りの盛り上がりに気づかなかった。
私たち以外は妙にテンションが高くて、わいわいがやがやと騒いでいる。
「席替え、席替え〜!」
皆がいっせいに口ずさむ。
女性は座ったまま、男性陣が立ち上がって移動を始めた。
桐生さんは少し眉を寄せたが、ふうっと息を吐いて立ち上がる。そして、私の目の前から離れ――なぜか今度は私の横に座った。
え……なんで?
瞬きを繰り返しながら彼を見つめてしまう。
すぐ隣に感じる気配に鼓動がせわしなくなる。さっきまで私の隣にいた男性より、明らかに距離が近かった。
やっぱり慣れない。男性がこんなに近くにいることも、話すことにも。
……あれ?
でも、さっきまで隣にいた男性は、気にならなかったな。
いや、存在自体あまり目に入ってなかったかも。
だってその男性は私の方を気にすることもなくて。ほかの女性に夢中って感じで、私のことなんて。
「あらためて、よろしくね」
桐生さんが、にこりと爽やかに笑う。
うっ、やっぱりイケメン。
顔がじわっと熱くなる。こういうの、慣れてないっての。
私はぎこちなく笑みを返した。
すると、正面の席に腰を下ろした男性がこちらに声をかけてくる。
「君、望月さんだっけ。よろしく」
にこにこと微笑みながら、グラスを差し出してきた。
どうやら乾杯をしたいらしい。
たしか、この人は川本さん。桐生さんを誘った張本人で、業務以外では話したことがない。
「よ、よろしくお願いします」
無視するわけにもいかず、私は自分のグラスをそっと合わせた。
しばらくは、何気ない会話をしていたんだけど。
「望月さんって、よく見ると可愛いよねえ」
頬を赤く染めた川本さんが、ぐっと顔を近づけてくる。
少し酔っているようだった。
距離が近い。
はあと息を吐きかけられ、思わず顔を背ける。
……お酒臭い!
まあ今は合コン中だし。仕事終わりの社会人がお酒を飲むのは自由だ。
それはいいんだけど……酔っ払いは苦手だ。いや、正直質が悪い。
川本さんがよろっと立ち上がり、ふらふらした足取りでこちらへやって来た。
「よっと」
そのまま私のすぐ隣に腰を下ろし、肩に腕を回してくる。
触れられた瞬間、背筋がひやりとした。
「望月さんって大人しいし、優しそうだし。俺、好みなんだよねえ。
しかも可愛いって、最高じゃん! ね、俺と付き合わない?」
川本さんの顔がさらに近づく。
私は必死に体を引いて、少しでも距離を取ろうとした。
でも、肩に置かれた手に力がこもり、ぐいっと引き寄せられる。左側が密着して、ぞくっと嫌悪感が走った。
嫌。
こんなにも、気持ち悪いものなの。
カップルでいちゃいちゃしている人たちの気持ちがわからない。
というか……川本さんって、こんな人だったっけ?
「おい、川本ー、あんまり変なことしちゃだめだぞー」
「そうよ、望月さんは純情なんだからあ」
他のメンバーが、こちらを見ながらけらけらと笑っている。
だめだ。みんな酔ってる。
ど、どうしよう。
「ねえ、望月さん」
川本さんがさらに身を寄せてきた、そのとき。
「おい、そのへんにしておけ」
低い声とともに、大きな手が川本さんの顔をつかみ、ぐっと私から引き離した。
「ふげっ」
変な声を上げた川本さんを睨みつけているのは、桐生さんだった。
相手の顔を軽く押さえたまま、ふっと表情を緩める。
「大丈夫?」
「……は、はい」
私は呆然としたまま頷いた。
そのあと、桐生さんにきつく叱られた川本さんは、
少し酔いが冷めたのか、しょんぼりと謝ってきた。
「ごめんな、望月さん……」
肩を落とすその姿に、私は首を振る。
「いえ、大丈夫です。こういうことは、よくあることですし」
うん。
マンガやドラマでは、よくある展開。現実では見たことなかったけど。
「やっぱり、優しいなあ」
潤んだ目で見つめられ、嫌な予感がして慌てて口を開く。
「あ、あの」
「なあ、やっぱり俺と――」
「おい」
その言葉を遮るように、桐生さんが私たちの間に割って入った。
耳元で何かを低く囁いた瞬間、川本さんの顔色がさっと変わる。
「いや、ほんとごめん。望月さん、ごめんな」
早口な川本さんはそそくさと席を立ち、いちばん遠い場所へ移った。
え……なに?
いったい何があったの?
首をかしげていると、桐生さんが再び私の隣に腰を落ち着けた。
「さ、飲み直そう。何か食べる?」
爽やかな笑顔で、まるで何事もなかったかのように言う。
そのマイペースさに、私はただ頷くしかなかった。
私は目をまん丸にしたままじっと見つめ返す。
桐生さんの表情も視線も、いたって真面目だ。嘘を言っているようには見えない。
彼みたいなイケメンで仕事もできるエリートが彼女いないなんて。
……まあ今はたまたまって可能性もあるよね。別れたばかりとか。
「望月さんは、彼氏いるの?」
私はあっけにとられた。
なんでそんなことを聞くの? 聞いてどうするっていうのよ。
ただの興味か。それとも気になっただけ?
でも、彼も自分の状況を答えてくれたのだから、私も答えるのが礼儀だよね。
「私も、いませんけど」
「……そっか」
桐生さんは少し笑って、ほっとしたように微笑んだ。
ん?
どういうこと? 今の表情の意味は?
私みたいな女に彼氏がいたらおかしいって、
いるはずないって、思った?
まあ、いないけどさ。
勝手に悪い方へ考えてしまい胸の奥がもやっとする。
視線を落としたまま、グラスの縁を指でなぞる。なんだか、少しだけ腹が立った。
勝手に決めつける人っているよね。……私がそう受け取ってしまっただけかもしれないけど。
彼もそうなんだろうか。
ふと悲しくなって黙り込む。
空いた間を埋めるように箸を持ち上げた、そのとき。
「あの、俺ずっと――」
「席替えターイム!」
突然、佐々木さんの声が響いた。
私をこの合コンに誘った張本人で、さっきから合コンをめいっぱい楽しんでいる。顔も赤くお酒も入っているみたいで、満面の笑みを振りまいていた。
端の席で桐生さんと話していたから、周りの盛り上がりに気づかなかった。
私たち以外は妙にテンションが高くて、わいわいがやがやと騒いでいる。
「席替え、席替え〜!」
皆がいっせいに口ずさむ。
女性は座ったまま、男性陣が立ち上がって移動を始めた。
桐生さんは少し眉を寄せたが、ふうっと息を吐いて立ち上がる。そして、私の目の前から離れ――なぜか今度は私の横に座った。
え……なんで?
瞬きを繰り返しながら彼を見つめてしまう。
すぐ隣に感じる気配に鼓動がせわしなくなる。さっきまで私の隣にいた男性より、明らかに距離が近かった。
やっぱり慣れない。男性がこんなに近くにいることも、話すことにも。
……あれ?
でも、さっきまで隣にいた男性は、気にならなかったな。
いや、存在自体あまり目に入ってなかったかも。
だってその男性は私の方を気にすることもなくて。ほかの女性に夢中って感じで、私のことなんて。
「あらためて、よろしくね」
桐生さんが、にこりと爽やかに笑う。
うっ、やっぱりイケメン。
顔がじわっと熱くなる。こういうの、慣れてないっての。
私はぎこちなく笑みを返した。
すると、正面の席に腰を下ろした男性がこちらに声をかけてくる。
「君、望月さんだっけ。よろしく」
にこにこと微笑みながら、グラスを差し出してきた。
どうやら乾杯をしたいらしい。
たしか、この人は川本さん。桐生さんを誘った張本人で、業務以外では話したことがない。
「よ、よろしくお願いします」
無視するわけにもいかず、私は自分のグラスをそっと合わせた。
しばらくは、何気ない会話をしていたんだけど。
「望月さんって、よく見ると可愛いよねえ」
頬を赤く染めた川本さんが、ぐっと顔を近づけてくる。
少し酔っているようだった。
距離が近い。
はあと息を吐きかけられ、思わず顔を背ける。
……お酒臭い!
まあ今は合コン中だし。仕事終わりの社会人がお酒を飲むのは自由だ。
それはいいんだけど……酔っ払いは苦手だ。いや、正直質が悪い。
川本さんがよろっと立ち上がり、ふらふらした足取りでこちらへやって来た。
「よっと」
そのまま私のすぐ隣に腰を下ろし、肩に腕を回してくる。
触れられた瞬間、背筋がひやりとした。
「望月さんって大人しいし、優しそうだし。俺、好みなんだよねえ。
しかも可愛いって、最高じゃん! ね、俺と付き合わない?」
川本さんの顔がさらに近づく。
私は必死に体を引いて、少しでも距離を取ろうとした。
でも、肩に置かれた手に力がこもり、ぐいっと引き寄せられる。左側が密着して、ぞくっと嫌悪感が走った。
嫌。
こんなにも、気持ち悪いものなの。
カップルでいちゃいちゃしている人たちの気持ちがわからない。
というか……川本さんって、こんな人だったっけ?
「おい、川本ー、あんまり変なことしちゃだめだぞー」
「そうよ、望月さんは純情なんだからあ」
他のメンバーが、こちらを見ながらけらけらと笑っている。
だめだ。みんな酔ってる。
ど、どうしよう。
「ねえ、望月さん」
川本さんがさらに身を寄せてきた、そのとき。
「おい、そのへんにしておけ」
低い声とともに、大きな手が川本さんの顔をつかみ、ぐっと私から引き離した。
「ふげっ」
変な声を上げた川本さんを睨みつけているのは、桐生さんだった。
相手の顔を軽く押さえたまま、ふっと表情を緩める。
「大丈夫?」
「……は、はい」
私は呆然としたまま頷いた。
そのあと、桐生さんにきつく叱られた川本さんは、
少し酔いが冷めたのか、しょんぼりと謝ってきた。
「ごめんな、望月さん……」
肩を落とすその姿に、私は首を振る。
「いえ、大丈夫です。こういうことは、よくあることですし」
うん。
マンガやドラマでは、よくある展開。現実では見たことなかったけど。
「やっぱり、優しいなあ」
潤んだ目で見つめられ、嫌な予感がして慌てて口を開く。
「あ、あの」
「なあ、やっぱり俺と――」
「おい」
その言葉を遮るように、桐生さんが私たちの間に割って入った。
耳元で何かを低く囁いた瞬間、川本さんの顔色がさっと変わる。
「いや、ほんとごめん。望月さん、ごめんな」
早口な川本さんはそそくさと席を立ち、いちばん遠い場所へ移った。
え……なに?
いったい何があったの?
首をかしげていると、桐生さんが再び私の隣に腰を落ち着けた。
「さ、飲み直そう。何か食べる?」
爽やかな笑顔で、まるで何事もなかったかのように言う。
そのマイペースさに、私はただ頷くしかなかった。
