しんと静まり返る室内。
ど、どうしよう。緊張する。
ちゃんと気持ちを伝えられるかな。考えれば考えるほど不安が押し寄せてくる。
でもがんばらなきゃ、逃げたらまた後悔する。
そんなのはもう嫌だ。せっかく土岐くんが作ってくれたチャンスなんだから。
気合を入れて顔を上げると、桐生さんのまっすぐな視線とぶつかった。
その目に胸がどきりと跳ねる。
「あ、あの。私のことを好きって言ってくれて、とても嬉しかったです」
言ったそばから恥ずかしさがこみ上げる。
声はたどたどしく、震えも隠せない。顔が熱くなっていくのがわかった。
視線を彷徨わせながら、それでも言葉を途切れさせないように続ける。
「でも、信じられなくて……。
桐生さんみたいな、その、格好よくてモテる男性が、私を好きだなんて。
どうしても実感できなかったんです」
深呼吸をして、床に視線を落としたまま小さくつぶやく。
「だから戸惑ってしまって。逃げるような態度を取ってしまい――」
ごめんなさい、と言おうとしたそのとき。
「はぁー、よかった」
桐生さんは心から安堵したような笑みを向けた。
その意味がわからず、見つめてしまう。
「俺、嫌われたのかと思って……ずっとひやひやしてたんだ。
君に冷たくされて、逃げられて。すごく傷ついた。
さらに土岐といるところを見てしまって。
ああ、そういうことかって、本気で落ち込んだ」
苦笑いしながら頭を掻く姿があまりにも素直で拍子抜けする。
けれど次の瞬間、ふっと真剣な眼差しを向けられた。
「でも、よかった。そっか。
嫌いになったわけじゃないんだよね?」
端正な顔が近づいてきた。近い。鼓動が速まる。
「は、はい。嫌いだなんて。私も、桐生さんのことが好き……」
「ほんと!?」
勢いよく肩を掴まれ息を呑む。
心臓が悲鳴を上げそうになって、反射的に彼をそっと押し戻した。
「いや。その……わからないんです」
「わからない?」
首を傾げる桐生さんに、覚悟を決めて正直に話す。
「はい。恥ずかしい話なんですけど私、まだ恋をしたことがなくて。
これが恋なのかどうかも、わからなくて」
言ってしまったあとで、強烈な恥ずかしさに襲われる。
大人の女性が言うことじゃないよね。桐生さん、どう思ったかな。
そっと彼の表情を窺うと、きょとんとした顔で私を見つめていた。
「そう、なんだ」
わずかに落ちた声。
そのあとに訪れた沈黙が胸をざわつかせる。
やっぱり引かれたかな。こんな私じゃ桐生さんには――
「嬉しい」
「……え?」
目を瞬かせていると、桐生さんはどこか照れくさそうに笑った。
「いや、それって。俺が初恋の相手ってことになるのかな?
もしそうなら、嬉しいんだけど」
無邪気な笑みが浮かぶ。
その表情がまぶしくて、今度は私のほうがきょとんと固まってしまった。
そして桐生さんは、何でもないことのようにさらりと言った。
「実はさ。俺も、恋ってどういうものなのか、自信なくて」
え……?
「そりゃあ、何人もの女性と付き合ってきたけど。
でも……なんていうのかな。本気にはなれなかった。
ドキドキしたり、嫉妬したことも一度もなかったし、離れている間に相手のことを考えるってこともなかった。心から愛しいって思ったことも、ないな」
……なんか、すごいことを言っている気がする。
本人は自覚がないんだろうか。
淡々と語るその横顔をじっと見つめていると、桐生さんの視線がふいにこちらへ向いた。
「でも、君のことはなぜか気になる。
ふとしたときに思い出してしまうし、目で追ってしまう」
目を細め、愛おしそうに見つめられる。
どうしたらいいかわからなくて、視線があちこちに泳いだ。
「そういうところも可愛いなって思うよ。ずっと見ていたくなる」
彼は表情を少し和らげた。
「それに、初めて嫉妬した。土岐のこと。
君と彼が笑い合ってるのを見た瞬間、すごく腹が立ったんだ。胸が痛くて……」
何かを思い返すように、そっと目を閉じた。
「あんな感覚はこれまでになかった。冷静でいられないし、どうにかなりそうで。
君を取られたくないって思った。
そのとき、
ああ、これが嫉妬なんだとわかったんだ」
納得したようにひとつ頷く顔は、どこか嬉しそうだった。
「初めは大人しくて、どこか放っておけない子だなあ、くらいの印象だった。
でも君を見かけるたびに、だんだん目が離せなくなって。知れば知るほどもっと知りたくなる。
こんな気持ち、本当に初めてなんだ」
少し熱を帯びた声で言いながら、身を乗り出してくる。
その勢いに押されて、私は一歩下がった。
それでも、桐生さんの顔はすぐ近くにあって、息が詰まる。
「この前はキスしてごめん。……驚いたよね。
でも、あれは自然に動いてしまったんだ。気づいたらって感じでさ」
照れたように頬を染め、はにかむ。
……その顔は反則だよ。
「君に避けられたときは、結構きつかった。
ああ、俺、思ってた以上に君のこと好きなんだなって」
自嘲気味に笑ったあと、彼は静かに息を吐いた。
「決定打になったのは、土岐だった。
あいつに嫉妬した瞬間、もうごまかせないって思った」
熱のこもった眼差しが、真っすぐに私を射抜く。
そのままじりじりと距離を詰めてくる。
や、やばい。ほんとに、これ以上は……。
息がうまくできない。頭がくらくらする。
「もう、俺の気持ちは止められない。
望月さんが好きだ。俺のこと、どう思ってるのかな。
さっき好きって言ってくれたけど……それって、俺と付き合うってことでいいのかな?」
耳元で囁かれ背中にぞくりと震えが走る。
もう、限界だった。
ふらりと足元が揺れた。
「おっと」
倒れかけた私を彼がそっと支える。
腕や体が触れた瞬間、鼓動が一気に跳ね上がった。
「あ、あの、あのっ……!」
言葉にならない。
そんな私を見て、彼は少しいたずらっぽく笑った。
「俺のこと、好きだよね?」
自信に満ちたその笑みを前に、もう逆らえなかった。
私は小さく頷き、かすれた声で答える。
「……はい」
「嬉しいな」
にこっと笑った桐生さんが、そのまま私に口づけた。
ど、どうしよう。緊張する。
ちゃんと気持ちを伝えられるかな。考えれば考えるほど不安が押し寄せてくる。
でもがんばらなきゃ、逃げたらまた後悔する。
そんなのはもう嫌だ。せっかく土岐くんが作ってくれたチャンスなんだから。
気合を入れて顔を上げると、桐生さんのまっすぐな視線とぶつかった。
その目に胸がどきりと跳ねる。
「あ、あの。私のことを好きって言ってくれて、とても嬉しかったです」
言ったそばから恥ずかしさがこみ上げる。
声はたどたどしく、震えも隠せない。顔が熱くなっていくのがわかった。
視線を彷徨わせながら、それでも言葉を途切れさせないように続ける。
「でも、信じられなくて……。
桐生さんみたいな、その、格好よくてモテる男性が、私を好きだなんて。
どうしても実感できなかったんです」
深呼吸をして、床に視線を落としたまま小さくつぶやく。
「だから戸惑ってしまって。逃げるような態度を取ってしまい――」
ごめんなさい、と言おうとしたそのとき。
「はぁー、よかった」
桐生さんは心から安堵したような笑みを向けた。
その意味がわからず、見つめてしまう。
「俺、嫌われたのかと思って……ずっとひやひやしてたんだ。
君に冷たくされて、逃げられて。すごく傷ついた。
さらに土岐といるところを見てしまって。
ああ、そういうことかって、本気で落ち込んだ」
苦笑いしながら頭を掻く姿があまりにも素直で拍子抜けする。
けれど次の瞬間、ふっと真剣な眼差しを向けられた。
「でも、よかった。そっか。
嫌いになったわけじゃないんだよね?」
端正な顔が近づいてきた。近い。鼓動が速まる。
「は、はい。嫌いだなんて。私も、桐生さんのことが好き……」
「ほんと!?」
勢いよく肩を掴まれ息を呑む。
心臓が悲鳴を上げそうになって、反射的に彼をそっと押し戻した。
「いや。その……わからないんです」
「わからない?」
首を傾げる桐生さんに、覚悟を決めて正直に話す。
「はい。恥ずかしい話なんですけど私、まだ恋をしたことがなくて。
これが恋なのかどうかも、わからなくて」
言ってしまったあとで、強烈な恥ずかしさに襲われる。
大人の女性が言うことじゃないよね。桐生さん、どう思ったかな。
そっと彼の表情を窺うと、きょとんとした顔で私を見つめていた。
「そう、なんだ」
わずかに落ちた声。
そのあとに訪れた沈黙が胸をざわつかせる。
やっぱり引かれたかな。こんな私じゃ桐生さんには――
「嬉しい」
「……え?」
目を瞬かせていると、桐生さんはどこか照れくさそうに笑った。
「いや、それって。俺が初恋の相手ってことになるのかな?
もしそうなら、嬉しいんだけど」
無邪気な笑みが浮かぶ。
その表情がまぶしくて、今度は私のほうがきょとんと固まってしまった。
そして桐生さんは、何でもないことのようにさらりと言った。
「実はさ。俺も、恋ってどういうものなのか、自信なくて」
え……?
「そりゃあ、何人もの女性と付き合ってきたけど。
でも……なんていうのかな。本気にはなれなかった。
ドキドキしたり、嫉妬したことも一度もなかったし、離れている間に相手のことを考えるってこともなかった。心から愛しいって思ったことも、ないな」
……なんか、すごいことを言っている気がする。
本人は自覚がないんだろうか。
淡々と語るその横顔をじっと見つめていると、桐生さんの視線がふいにこちらへ向いた。
「でも、君のことはなぜか気になる。
ふとしたときに思い出してしまうし、目で追ってしまう」
目を細め、愛おしそうに見つめられる。
どうしたらいいかわからなくて、視線があちこちに泳いだ。
「そういうところも可愛いなって思うよ。ずっと見ていたくなる」
彼は表情を少し和らげた。
「それに、初めて嫉妬した。土岐のこと。
君と彼が笑い合ってるのを見た瞬間、すごく腹が立ったんだ。胸が痛くて……」
何かを思い返すように、そっと目を閉じた。
「あんな感覚はこれまでになかった。冷静でいられないし、どうにかなりそうで。
君を取られたくないって思った。
そのとき、
ああ、これが嫉妬なんだとわかったんだ」
納得したようにひとつ頷く顔は、どこか嬉しそうだった。
「初めは大人しくて、どこか放っておけない子だなあ、くらいの印象だった。
でも君を見かけるたびに、だんだん目が離せなくなって。知れば知るほどもっと知りたくなる。
こんな気持ち、本当に初めてなんだ」
少し熱を帯びた声で言いながら、身を乗り出してくる。
その勢いに押されて、私は一歩下がった。
それでも、桐生さんの顔はすぐ近くにあって、息が詰まる。
「この前はキスしてごめん。……驚いたよね。
でも、あれは自然に動いてしまったんだ。気づいたらって感じでさ」
照れたように頬を染め、はにかむ。
……その顔は反則だよ。
「君に避けられたときは、結構きつかった。
ああ、俺、思ってた以上に君のこと好きなんだなって」
自嘲気味に笑ったあと、彼は静かに息を吐いた。
「決定打になったのは、土岐だった。
あいつに嫉妬した瞬間、もうごまかせないって思った」
熱のこもった眼差しが、真っすぐに私を射抜く。
そのままじりじりと距離を詰めてくる。
や、やばい。ほんとに、これ以上は……。
息がうまくできない。頭がくらくらする。
「もう、俺の気持ちは止められない。
望月さんが好きだ。俺のこと、どう思ってるのかな。
さっき好きって言ってくれたけど……それって、俺と付き合うってことでいいのかな?」
耳元で囁かれ背中にぞくりと震えが走る。
もう、限界だった。
ふらりと足元が揺れた。
「おっと」
倒れかけた私を彼がそっと支える。
腕や体が触れた瞬間、鼓動が一気に跳ね上がった。
「あ、あの、あのっ……!」
言葉にならない。
そんな私を見て、彼は少しいたずらっぽく笑った。
「俺のこと、好きだよね?」
自信に満ちたその笑みを前に、もう逆らえなかった。
私は小さく頷き、かすれた声で答える。
「……はい」
「嬉しいな」
にこっと笑った桐生さんが、そのまま私に口づけた。
