「桐生さん……」
その姿に目が釘付けになった。
まさか、こんなところで会うなんて。
彼も休みで、どこかへ出かけていたのだろうか。
薄い水色のシャツにジーンズというラフな格好。派手ではないのに立っているだけで目を引く。
格好良い――
「望月さん?」
名前を呼ばれて、はっとする。
振り向くと、土岐くんがこちらを見ていた。
「あ、ええと……」
どうしよう。二人って知り合いだったりするのかな。
同じ会社だし、その可能性はあるよね。
なんで、こんなときに。
戸惑っている間にも、桐生さんはゆっくりこちらへ近づいてくる。
胸がきゅっと締めつけられる。
ずっと避けてきたから、どう向き合えばいいのかわからない。
目の前に立った彼は、まっすぐ私を見下ろした。
「そういうこと?」
「え?」
ぽつりと落とされた言葉の意味がわからず、首を傾げる。
桐生さんはあきれたように小さく笑い、顔をそむけて大きく息を吐いた。
「なるほどね。だから俺に冷たくしてたってわけか。
付き合ってる奴がいたんだ」
怒りをにじませた低い声。
その視線は、私ではなく、まっすぐ土岐くんへ向けられていた。
そこでようやく気づく。
……誤解されてる。
「あ、あの。ちがうの――」
「もういいよ」
遮るように言い捨てた桐生さんは、眉を寄せ、どこか悲しげな目で私を見た。
その表情が胸に突き刺さり、じくじくと痛みが広がっていく。
彼はそのまま踵を返すと、足早に去っていった。
「ま、まって!」
声を絞り出したけれど、足を止めてくれない。
その背中が遠ざかっていくのを、ただ見つめることしかできなかった。
「ど、どうしよう……」
桐生さん、勘違いしてたよね。
私が土岐くんと付き合ってるって……なにそれ。なんでそうなるの?
っていうか、どうして勝手に決めつけて、しかも怒ってるのよ。
最初は驚きすぎて頭が回らなかった。
でも、少し落ち着いて考えてみると、やっぱり変な話だ。
別に私、桐生さんと付き合ってるわけじゃない。浮気でもないのに、あんな裏切られたみたいな顔をされても。
な、なによ……そう思うのに。
胸が、苦しい。
桐生さんに誤解されたことが、嫌でたまらない。
彼の傷ついた表情が頭から離れず、何度も浮かんできては、胸に残る。
こんな気持ちになるなんて。
やだ。いまさら気づくなんて。
私……彼のこと……?
頬を熱いものが伝っていく。慌てて指先で拭い取った。
土岐くんがそっと距離を詰め、寄り添うように顔をのぞきこんでくる。
涙を見られたくなくて、私は小さく首を振って顔を背けた。
「ご、ごめんなさい。あの人、桐生さんですよね?
僕のこと、誤解したのかな」
焦った様子でフォローしてくる。
もしかして、私の気持ちに気づいてる?
そんなに態度に出てたのかな……恥ずかしい。
「い、いいの。ちがうの。あれは別に……」
「隠さなくていいですよ。君の気持ちはわかっていますから。
彼のこと、好きなんでしょう?」
その言葉に思考が止まり、私は目を見開いた。
土岐くんは、穏やかに微笑みながらゆっくり頷く。
「大丈夫。僕が誤解を解いてあげます。だから、心配しないで」
そう言って、彼は遠慮がちに私の肩へそっと触れた。
びくっと体が反応すると、すぐに手を離す。
……本当に、優しい人。
向けられる眼差しはあたたかくて、どこか包み込むようだった。
不思議とすっと軽くなる。
気づけば私は自然に微笑んでいた。それを見て、彼も表情を和らげた。
「さ、帰りましょう。送っていきます」
土岐くんはそっと手を差し出した。
「あ、ごめんなさい……嫌なら、いいんですけど」
申し訳なさそうに、手を引っ込めようとする。
その瞬間、私は反射的にその手を握っていた。
「えっ」
驚いたように目を丸くしたあと、彼は照れたような、少し困った笑顔を浮かべる。
その表情を見ていると、胸がぽっと温かくなった。
土岐くんの彼女って、きっと幸せだろうな――
……って、なに考えてるの。
彼といると調子がくるう。
でも、彼がいてくれてよかった。一人だったら、こんなふうに笑えない。
ふと顔を上げると視線が合った。
にこりと微笑まれて、心臓が跳ねる。
や、やばい。
私、なにやってんだろう。
恥ずかしさをごまかすように、前を向いた。
その姿に目が釘付けになった。
まさか、こんなところで会うなんて。
彼も休みで、どこかへ出かけていたのだろうか。
薄い水色のシャツにジーンズというラフな格好。派手ではないのに立っているだけで目を引く。
格好良い――
「望月さん?」
名前を呼ばれて、はっとする。
振り向くと、土岐くんがこちらを見ていた。
「あ、ええと……」
どうしよう。二人って知り合いだったりするのかな。
同じ会社だし、その可能性はあるよね。
なんで、こんなときに。
戸惑っている間にも、桐生さんはゆっくりこちらへ近づいてくる。
胸がきゅっと締めつけられる。
ずっと避けてきたから、どう向き合えばいいのかわからない。
目の前に立った彼は、まっすぐ私を見下ろした。
「そういうこと?」
「え?」
ぽつりと落とされた言葉の意味がわからず、首を傾げる。
桐生さんはあきれたように小さく笑い、顔をそむけて大きく息を吐いた。
「なるほどね。だから俺に冷たくしてたってわけか。
付き合ってる奴がいたんだ」
怒りをにじませた低い声。
その視線は、私ではなく、まっすぐ土岐くんへ向けられていた。
そこでようやく気づく。
……誤解されてる。
「あ、あの。ちがうの――」
「もういいよ」
遮るように言い捨てた桐生さんは、眉を寄せ、どこか悲しげな目で私を見た。
その表情が胸に突き刺さり、じくじくと痛みが広がっていく。
彼はそのまま踵を返すと、足早に去っていった。
「ま、まって!」
声を絞り出したけれど、足を止めてくれない。
その背中が遠ざかっていくのを、ただ見つめることしかできなかった。
「ど、どうしよう……」
桐生さん、勘違いしてたよね。
私が土岐くんと付き合ってるって……なにそれ。なんでそうなるの?
っていうか、どうして勝手に決めつけて、しかも怒ってるのよ。
最初は驚きすぎて頭が回らなかった。
でも、少し落ち着いて考えてみると、やっぱり変な話だ。
別に私、桐生さんと付き合ってるわけじゃない。浮気でもないのに、あんな裏切られたみたいな顔をされても。
な、なによ……そう思うのに。
胸が、苦しい。
桐生さんに誤解されたことが、嫌でたまらない。
彼の傷ついた表情が頭から離れず、何度も浮かんできては、胸に残る。
こんな気持ちになるなんて。
やだ。いまさら気づくなんて。
私……彼のこと……?
頬を熱いものが伝っていく。慌てて指先で拭い取った。
土岐くんがそっと距離を詰め、寄り添うように顔をのぞきこんでくる。
涙を見られたくなくて、私は小さく首を振って顔を背けた。
「ご、ごめんなさい。あの人、桐生さんですよね?
僕のこと、誤解したのかな」
焦った様子でフォローしてくる。
もしかして、私の気持ちに気づいてる?
そんなに態度に出てたのかな……恥ずかしい。
「い、いいの。ちがうの。あれは別に……」
「隠さなくていいですよ。君の気持ちはわかっていますから。
彼のこと、好きなんでしょう?」
その言葉に思考が止まり、私は目を見開いた。
土岐くんは、穏やかに微笑みながらゆっくり頷く。
「大丈夫。僕が誤解を解いてあげます。だから、心配しないで」
そう言って、彼は遠慮がちに私の肩へそっと触れた。
びくっと体が反応すると、すぐに手を離す。
……本当に、優しい人。
向けられる眼差しはあたたかくて、どこか包み込むようだった。
不思議とすっと軽くなる。
気づけば私は自然に微笑んでいた。それを見て、彼も表情を和らげた。
「さ、帰りましょう。送っていきます」
土岐くんはそっと手を差し出した。
「あ、ごめんなさい……嫌なら、いいんですけど」
申し訳なさそうに、手を引っ込めようとする。
その瞬間、私は反射的にその手を握っていた。
「えっ」
驚いたように目を丸くしたあと、彼は照れたような、少し困った笑顔を浮かべる。
その表情を見ていると、胸がぽっと温かくなった。
土岐くんの彼女って、きっと幸せだろうな――
……って、なに考えてるの。
彼といると調子がくるう。
でも、彼がいてくれてよかった。一人だったら、こんなふうに笑えない。
ふと顔を上げると視線が合った。
にこりと微笑まれて、心臓が跳ねる。
や、やばい。
私、なにやってんだろう。
恥ずかしさをごまかすように、前を向いた。
