やってきたのは、駅前から少し歩いたところにある女の子に人気の小さな雑貨屋だった。
店内には可愛い雑貨が所狭しと並び、見ているだけで胸が躍る。
土岐くんの話によると、妹さんは高校生らしい。
彼に似ているとしたら、きっと綺麗で落ち着いた雰囲気の女の子なんだろうな。
そんなことを勝手に想像する。
並べられた小物をひとつずつ眺めながら、どれがいいだろうかと視線を走らせていく。
その途中で、ふと足が止まった。
香水のコーナーだ。
ガラス棚に整然と並んだ瓶は、どれもきらびやかで見ているだけで心がときめいた。
中でも目を引いたのは小さなピンク色のボトルだった。
リボンや蝶の模様があしらわれていて、とても可愛い。ラベルには「フローラル系」の文字。
「……かわいい」
思わずこぼれたそのひとことに、前を歩いていた土岐くんが反応して振り返る。
「どれですか?」
私の視線を追って、彼も棚の前へやってくる。
「これ?」
土岐くんがボトルの香りをそっと確かめた。
「わあ、いい匂い! いいですね」
にこりと笑うその表情に胸がふわっと熱くなった。
私は慌てて、小さく頷き返す。
なにドキドキしてるのよ。
そのあともいろいろ見て回ったけど、結局、
土岐くんが妹さんへのプレゼントに選んだのは、あの香水だった。
買い物を済ませた私たちは、あてもなく商店街を歩いた。
横を見れば、どこか上機嫌な土岐くんが紙袋を大事そうに抱えている。
足取りまで軽やかでまるで子どもみたい。
その様子が微笑ましくて、しばらく視線を外せずにいた。
すると、ふいに彼が振り向き、目が合う。
「どうしました?」
「えっ、ううん。なんでもないです」
慌てて視線を逸らし、とっさに話題を変えた。
「そ、そうだ。ちょっとお腹すきませんか? なにか食べましょう」
本当に小腹も空いていたし、それ以上に、この胸のざわつきを誤魔化したかった。
土岐くんを見ていると、どうにも落ち着かない。
「いいんですか? 嬉しいな」
彼はふわっと笑って、さらりと続ける。
「望月さんと一緒にごはん行けたらいいなって、思ってたんです」
――え?
いまの、どういう意味……?
考えるより先に、土岐くんが前方を指さした。
「あそこなんてどうです?」
そう言うなり、軽快な足取りで歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
彼の言葉の真意がわからないまま、私は慌てて後を追った。
そのまま彼に導かれるように、店の中へ入った。
案内されたのは窓際の席だった。
白いカーテン越しにやわらかな光が差し込み、店内は落ち着いた空気に包まれている。
「おしゃれなところだね……」
ふと口をついて出た言葉に、土岐くんが嬉しそうに笑った。
「ちょっと隠れ家的でいいでしょ。
妹と来たことがあって、雰囲気が好きなんです」
妹さんと仲がいいんだなあ。
そんなことを思いながら自然と頬が緩む。
私はメニューを手に取り、視線を落とした。
食事をしながら会社のことや家族のことをぽつぽつと話す。
特別な話題じゃないのに、会話が途切れることはなかった。
不思議だ。
彼と一緒にいると気負わずにいられて、そのままの自分で過ごせるような気がした。
人前だといつの間にか作った自分になってしまうのに。なんでだろう。
土岐くんを見ていると、ふいに目が合った。
彼が照れくさそうに微笑むと、胸がぽっとあたたかくなる。
――すごくいい。
この時間がずっと続けばいい。
彼といると、どうしてこんなにも落ち着くんだろう。
昼食を終えて店を出ると、そのまま肩を並べて歩いた。
目的はもう果たした。これで今日は終わり……のはずなのに。
ふっと、胸に小さな隙間ができる。
なんで? 土岐くんと離れるのが、こんなにも寂しいなんて。
自分の気持ちに戸惑っていると、彼がふいに立ち止まった。
「土岐くん?」
振り返ると、土岐くんは何かを思い詰めたようにうつむいている。
どうしたんだろう。
そっと距離を詰めると、彼が顔を上げた。
その表情は、今まで見たことがないほど真剣だった。
「あ、あの……」
彼が何かを言いかけた、そのとき。
「望月さん?」
突然かけられた声に、胸の奥が小さくざわめいた。
振り返ると、少し離れた場所に桐生さんが立っていて、まっすぐこちらを見ていた。
店内には可愛い雑貨が所狭しと並び、見ているだけで胸が躍る。
土岐くんの話によると、妹さんは高校生らしい。
彼に似ているとしたら、きっと綺麗で落ち着いた雰囲気の女の子なんだろうな。
そんなことを勝手に想像する。
並べられた小物をひとつずつ眺めながら、どれがいいだろうかと視線を走らせていく。
その途中で、ふと足が止まった。
香水のコーナーだ。
ガラス棚に整然と並んだ瓶は、どれもきらびやかで見ているだけで心がときめいた。
中でも目を引いたのは小さなピンク色のボトルだった。
リボンや蝶の模様があしらわれていて、とても可愛い。ラベルには「フローラル系」の文字。
「……かわいい」
思わずこぼれたそのひとことに、前を歩いていた土岐くんが反応して振り返る。
「どれですか?」
私の視線を追って、彼も棚の前へやってくる。
「これ?」
土岐くんがボトルの香りをそっと確かめた。
「わあ、いい匂い! いいですね」
にこりと笑うその表情に胸がふわっと熱くなった。
私は慌てて、小さく頷き返す。
なにドキドキしてるのよ。
そのあともいろいろ見て回ったけど、結局、
土岐くんが妹さんへのプレゼントに選んだのは、あの香水だった。
買い物を済ませた私たちは、あてもなく商店街を歩いた。
横を見れば、どこか上機嫌な土岐くんが紙袋を大事そうに抱えている。
足取りまで軽やかでまるで子どもみたい。
その様子が微笑ましくて、しばらく視線を外せずにいた。
すると、ふいに彼が振り向き、目が合う。
「どうしました?」
「えっ、ううん。なんでもないです」
慌てて視線を逸らし、とっさに話題を変えた。
「そ、そうだ。ちょっとお腹すきませんか? なにか食べましょう」
本当に小腹も空いていたし、それ以上に、この胸のざわつきを誤魔化したかった。
土岐くんを見ていると、どうにも落ち着かない。
「いいんですか? 嬉しいな」
彼はふわっと笑って、さらりと続ける。
「望月さんと一緒にごはん行けたらいいなって、思ってたんです」
――え?
いまの、どういう意味……?
考えるより先に、土岐くんが前方を指さした。
「あそこなんてどうです?」
そう言うなり、軽快な足取りで歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
彼の言葉の真意がわからないまま、私は慌てて後を追った。
そのまま彼に導かれるように、店の中へ入った。
案内されたのは窓際の席だった。
白いカーテン越しにやわらかな光が差し込み、店内は落ち着いた空気に包まれている。
「おしゃれなところだね……」
ふと口をついて出た言葉に、土岐くんが嬉しそうに笑った。
「ちょっと隠れ家的でいいでしょ。
妹と来たことがあって、雰囲気が好きなんです」
妹さんと仲がいいんだなあ。
そんなことを思いながら自然と頬が緩む。
私はメニューを手に取り、視線を落とした。
食事をしながら会社のことや家族のことをぽつぽつと話す。
特別な話題じゃないのに、会話が途切れることはなかった。
不思議だ。
彼と一緒にいると気負わずにいられて、そのままの自分で過ごせるような気がした。
人前だといつの間にか作った自分になってしまうのに。なんでだろう。
土岐くんを見ていると、ふいに目が合った。
彼が照れくさそうに微笑むと、胸がぽっとあたたかくなる。
――すごくいい。
この時間がずっと続けばいい。
彼といると、どうしてこんなにも落ち着くんだろう。
昼食を終えて店を出ると、そのまま肩を並べて歩いた。
目的はもう果たした。これで今日は終わり……のはずなのに。
ふっと、胸に小さな隙間ができる。
なんで? 土岐くんと離れるのが、こんなにも寂しいなんて。
自分の気持ちに戸惑っていると、彼がふいに立ち止まった。
「土岐くん?」
振り返ると、土岐くんは何かを思い詰めたようにうつむいている。
どうしたんだろう。
そっと距離を詰めると、彼が顔を上げた。
その表情は、今まで見たことがないほど真剣だった。
「あ、あの……」
彼が何かを言いかけた、そのとき。
「望月さん?」
突然かけられた声に、胸の奥が小さくざわめいた。
振り返ると、少し離れた場所に桐生さんが立っていて、まっすぐこちらを見ていた。
