神童アリオンによるチート令嬢の育て方

 筆記試験は滞りなく進み無事に終わると思われていたが、最後の実技試験の最中に事件は起こった。

「学院長大変です!」

 学院長室のドアが乱暴に開けられ、ひとりの教師が部屋に飛び込んできた。

「試験会場に突然正体不明の男達が試験中の貴族子息達を誘拐しようと乱入して来ました!」

「なんだと!? 警備は何をしていたんだ! 試験の監督官はどうしたんだ? 彼等は賊ごときに後れをとることはない筈だ!」

 学院長が焦りから叫ぶ。

 ――ドガン!!

 その時、訓練場の方角から大きな爆発音が鳴り響く、その音は壁が崩壊したような凄まじさだった。

「何だ、今の音は!? くそっ状況が全く把握出来ん!」

 現場をつかめない学院長は具体的な指示を出す事も出来ずに狼狽えていた。

 その状態を見た僕は落ち着いた様子で学院長に告げた。

「僕が見てきます」

「待て!」

「ヘマはしませんから任せてください」

(数人程度ならば何とかなるけどあまり多いと厳しいかもしれないな)

 僕は走りながら拘束系の魔法を準備する。もしも受験生達が人質になっていたならば攻撃系の魔法はかなり制限されるからだ。

 現場に到着した僕はそっと訓練場の中を確認してその場を支配している人物に驚愕した。

 ◇◇◇

 ――時は少しだけ遡る。

「きゃあ!」

「うわぁ!」

「助けてぇ!」

 突然十人ばかりの男達が武器を手に雪崩込み、試験会場はパニックとなった。

「やかましい! 騒ぐんじゃねぇガキども!」

「ひいっ!?」

 男達の怒鳴り声で場は一気に凍りついた。

「いいか? おとなしくしてればすぐには殺さねぇ。まあ、お前らの親から多額の身代金を頂いたらどこかの国に売り飛ばす事になるがな。ぎゃっはっは」

 リーダーらしき男が近くにいた女子の首に剣を当てて叫ぶ。

「そこの教師ども! コイツらを殺されたくなければ地面に伏せて転がってるんだな! おっと魔法なんて唱える暇はやらねぇぜ、怪しい動きがあればこの小娘の首が先に落ちるからな」

「ぐっ!」

「いったいどうすれば……」

 護衛や教師達も子供達を助けようと必死で考えるが動ける者は居なかった。

「いやぁ! 助けて!」

 緊張の限界が来ていた人質となっていた女の子が叫んだ。

「このガキが! 騒ぐんじゃねぇ! 死にてぇのか!」

 憤怒した男は女の子を斬りつけようと反射的に剣を振り上げる。

『サウンドボム・シーケンス・ビッグホーン』

 その時、何処からか美しい魔法詠唱の声が流れるように響いた。

 ボム! ボム!

「ぐわぁっ!? み、耳がぁ!」

 剣を振り上げた男の両耳の傍で爆発音が鳴った。鼓膜が破壊され剣を落として、その場でのたうち回る。

「リーダー!? お前ら何をしやがった?」

「抵抗したらコイツらの命はないと言ったはずだぞ!」

 しかし、周りをみても大人達は皆地面に伏せていた。

「今すぐにその薄汚い手を離しなさい! さもなくば貴方達の存在を焼き尽くしてあげるわよ!」

 男達がその声の方へ向くと、そこにはひとりの少女が凛とした態度で立っていた。

「なんだガキじゃねぇか!?」

 別の男が叫ぶのを冷めた目で見る少女が魔法を唱えた。

『イリュージョン・シーケンス・ファイアボール』

 力ある言葉と共に百を越える炎の玉が男達を取り巻き、空中で静かに漂っていた。

「うわぁぁぁ!? なんだこの数のファイアボールは!? こんな数の制御なんて大魔道士でも無理だ! このガキ、とんでもないバケモノだ!」

 男達は腰を抜かし、次々とその場にへたりこんでいき、その場に立っているのは少女だけとなる。

 そして、その少女こそフローラだった。

『多重ダークバインド』

「うわぁ!? なんだこの影は? 絡みついて身動きがとれねぇ!?」

 場を理解した僕は盗賊どもを拘束し、フローラのもとへ歩み寄ると笑顔で話しかける。

「素晴らしいですね。でも最後の使い方はひとつ間違えると大怪我をしますので気をつけくださいね」

「アリオン! この拘束魔法はあなただったのね。びっくりしましたわ」

 正直、彼女が盗賊達相手にここまでやるとは思ってなかったけど、顔には出さない。

「結果的にはお嬢様のおかげで怪我人もなく皆助かったのですが、無茶をし過ぎですよ。お嬢様に何かあったら僕が子爵様に殺されますからもう少しだけ自重をして頂けると嬉しいです」

「あはは。ごめんなさいね。咄嗟に体が動いてしまったの」

 彼女はイタズラがバレて叱られた子供のように振る舞うと僕の顔を見て笑った。

 受験生達は口々に叫び、手を取り合って喜んでいた。

 とはいえ、これだけの事件があったのだ。この日の実技試験は中止、無効となった。

 だが、数日後に行われた実技の再試験の会場にフローラの姿は無かった。

「フローラ・フォン・カリオスト、貴女をハーツ学院貴族籍の首席特待生にて合格とする」

 すでにカリオスト子爵家にハーツ学院からこの知らせが届いていたからだ。それを見た子爵は腰を抜かさんばかりに驚いたそうだ。ほどなく子爵から屋敷に来るように通達があった。

(合格の礼かな? 学費免除以外に追加の報酬を貰えたりして)

 だが、期待をしながら面会した子爵の表情は何故か難しそうな顔をしていた。

「あー。この度は娘の学院入学試験対応ご苦労だった。おかげで無事に合格する事ができた事、感謝している」

「ありがとうございます。ですが、全てお嬢様の努力の賜物にてございます」

 子爵の隣にいるフローラはとてもご機嫌だ。

「うむ。それは良かったのだがひとつ問題があってな」

 子爵は横に座るフローラをちらりと見てから話を進める。

「今回の試験時に起こった事件を解決したことで娘は一躍学年首席の生徒になった。それは喜ばしい事なんだが……」

 どうにも歯切れが悪い。何があったのだろうか。

 見かねたのかフローラが代弁する。

「その責任をとっていただきたいのですわ!」

 責任? なんで?

「いや、それがな。娘は学院で良縁を探して伴侶をとる予定だったのだが、そなたに教えを受けて学院新入生で首席になれたのはよい……。優秀な嫁はどこの貴族も欲しがる。だが、優秀過ぎる嫁は敬遠される。夫となる者が劣等感を持つからだ」

「はあ」

 ならば劣等感を持たないほどの優秀な夫を見つければいいのではないだろうか。

「だから、アリオンが私の夫になるしかなくなってしまったのですわ!」

「はあ!?」

 そばに立つ執事や侍女たちは満面の笑みで頷いている。

「ちょっと待ってください! 僕は平民ですよ。上級貴族のお嫁さんになるのが目的なのに、まったく逆じゃないですか!」

「ほっほっほ、それはアリオン殿が出世なさればよいだけのこと」

「アリオン様ならきっと公爵にまでなられることでしょう」

「いや、そんな!」

「よろしくお願いいたしますわ、ダーリン♡」

 頭を抱える子爵を横に、皆はすでに大喜びだ。

 僕は人生で初めて解決困難な問題に直面することになった。

ー おわり ー