神童アリオンによるチート令嬢の育て方

 僕は彼女と向かい合って座り、先ずはお互いが改めて自己紹介をする。

「フローラ・カリオストですわ。ハーツ学院系列の初等部に通っていますが正直いって勉学はあまり好きではありませんの。実技に関してはサッパリで初級の魔法も発動しなくて困っています。こんな私でもハーツ学院に合格出来るのでしょうか?」

(おおう。最初から聞きにくい事を自分からぶっちゃけるとは)

「アリオン・メビウスです。アリオンと呼んでください。まず、勉学が好きではないとの事ですが全く出来ない訳ではないのですよね? おそらくですが、僕が教えればきっと勉学が楽しくなると思います。実技に関してもです」

 僕はフローラ嬢に微笑みながら断言した。

「それは本当なの? 分からない事をやらされるくらいなら皆とお茶会してたほうがよっぽどいいのだけど」

 少しふてた様子で彼女は僕をジト目で見てくる。

「では少しだけこの場で証明をしましょうか。フローラ嬢は実技の方はサッパリだと伺いましたが何故だと思いますか?」

「さあ? 適性がないからじゃないの?」

 まだ信じられないようでフローラはあまり乗り気でない生返事を返してくる。

「では、申し訳ありませんが右手を出して僕と握手をして頂けませんか?」

「握手? それが魔法とどう関係するの?」

 フローラは疑問を口にしながらも右手を差し出す。僕はその手を握り小さく魔法を唱えた。

『魔力接続コネクト』

 ――ピリッ。

「えっ!?」

 手の違和感にフローラはビクッとして慌てて握っていた手を離してじっと手を見つめた。

「お前、お嬢様に何をした!?」

 傍らで見ていた執事が怒鳴りつけてきたが、僕はそれには答えずフローラに説明を始める。

「お嬢様が魔法を使えない理由は魔力を上手く引き出す事が出来ていないだけです。なので今、少しだけそれを手助けをする魔法を使わせて貰いました」

 僕はそう説明すると彼女に分かりやすく初級魔法の唱え方を教えた。

「どうですか? 今の説明で理解出来たのでしたら次は実践してみましょう」

 彼女は小さく頷くと空に指先で魔法陣を描き呪文を唱えた。

「体に巡る魔の力よ我の周りを照らし出せ『ライト』!」

 力ある言葉に体から集められた魔力の粒子が彼女の指先から小さな光の球体となり現れ、ビー玉くらいの大きさで輝きだした。

「凄い! 初めて魔法の行使に成功したわ! あれだけ色々な先生が教えてくれても一度も成功したことが無かったのに!」

 フローラは自らが発生させた光球に興奮してはしゃぐ。

「いかがでしたかお嬢様? これが魔法を使う実技の楽しさです。これでも実技はつまらないですか?」

「ううん。凄く楽しいわ!もっと教えて頂戴!」

 フローラが催促するのを執事と侍女達は驚愕の表情で見ていた。

 その後も魔力の流れについてや魔法の原理についての説明を丁寧に行い、彼女もそれを真剣に聞いていた。

「――残念ではありますが今日は時間のようですね、明日より夕刻の鐘が鳴る頃に伺いますので宜しくお願いします」

「そうなの? とても残念だけど明日を楽しみにしていますわ」

 その後フローラは手を振って僕が帰るのを見送ってくれた。

(ふう。一時はどうなるかと思ったけど予定よりも簡単に行きそうで助かったな)

 そう思いながら満足気にしていた僕だが実際にはレベルHARDの依頼だったとは知らず呑気に宿舎に帰るのだった。

 ◇◇◇

「なんだと? フローラが乗り気になっているとは本当か?」

 執事からの定期報告に子爵は大急ぎで娘を呼び出し、アリオンについて問い正した。

「ふふん。これを見てお父さま」

 フローラはそう子爵に言うと、とても嬉しそうな表情で『ライト』の魔法を使って見せるのだった。

「お……おおっ!」

 その光景を目の当たりにして子爵は愕然とする。

「――そうか、いい家庭教師に巡り会えたようだな。しっかりと勉学に励んで学院に合格出来るように教えて貰いなさい」

「はい! 今まで何をやっても上手くいかずにお父さまには心配ばかりかけていましたがやっと胸をはって前に進める気持ちになりました。お父さまありがとう」

「やっとフローラが笑ってくれて本当に嬉しく思うよ」

 子爵はそう言いながら娘の頭を優しく撫でた。

「お父さま。今日はお仕事の時間は大丈夫なのですか? もし時間がとれるなら私と庭のお散歩でもしませんか」

「おお、もちろん大丈夫だとも」

 娘に大甘の子爵は娘からの久しぶりの誘いに顔を緩めて頷いた。

 ◇◇◇

 次の日の夕刻、アリオンは学院の授業が終わると約束どおり子爵家を訪れていた。

 門ではあの門番が不服そうな顔で通してくれた。

(なんか嫌な目線だけど、通してくれたからいいか)

 僕は内心苦笑いをしながら屋敷のドアを叩いた。

「お待ちしておりました。フローラお嬢様がお部屋でお待ちになっております」

 執事に連れられて僕は彼女の部屋のドアを叩く。

「お待ちしてましたわ。今日は何を教えてくださるのかしら?」

 部屋に入るとフローラがやる気満々で僕を迎えてくれる。

「――今日は教科書の問題からやってみましょうか。お嬢様の今の学力を知っておきたいですので」

「えー、魔法の勉強では無いのですか?」

 フローラはあからさまに嫌そうな顔をする。

「まあまあ、そう言わずに。それにこの問題を解けるようになると出来る魔法が増える可能性があるんですよ」

「えっ? それを早く言いなさいよ、それで何をすれば良いの?」

 俄然やる気になるフローラに僕は微笑みながら一枚の紙を渡す。

「ではこのテキストを解いてみてください。その間に僕は次に教える魔法の準備を済ませておきますので」

 彼女は後で待っているごほうび魔法講義の為に必死でテキストに取り組んでいった。

「――出来たわ! アリオンみてみて! これで合ってるかな?」

 終わった用紙の答え合わせを促してきたので僕はざっと確認してみた。

「ふむ。なかなかの出来ですが、こことこことここが少々おかしな解答になっているようですね。この場合はこうしておけばこうなるわけです」

「ふーん。アリオンって私よりひとつ上なだけよね? なんでそんなに物知りなの?」

「そうですね。世の中の事を知りたいと思ったら勉学を極めるのが一番効率が良かったからでしょうか」

「むー。それって答えになってるの?」

「さあ、どうでしょうか? ですがそのおかげでお嬢様の家庭教師になれたので無駄ではなかったのではないでしょう」

「そんな答えじゃ騙されないからね。でもいいわ、次は魔法を教えてくれるのでしょう? 今日は何かしらね」

 フローラの機嫌も良くなったようなので今日も害のない魔法を教える事にした。