1ミニッツ短編集ボックス

「顔が良い、頭が良い、声が良い……“良い”の反対って、結局なんなんだろうな」

「急にどうしたんだよ」

 カリンは咥えていた飴の棒を指でつまんで、くるりと回しながら私を見る。
立ちのぼる甘い香りが、薄い光の中に溶けていった。

「最近、“生きててえらい”って言葉をよく聞くだろ?
あれを反対から考えたらどうなるのかなって」

ぽつん、と静かな部屋に飴の棒を置く音だけが響いた。

「“えらくない”じゃ弱いし、“悪い”でもピンとこないんだよなぁ」

「私は国語は得意じゃないけど、それって否定と反対を一緒にしてない?
“意味”としての反対があるってことじゃないでしょ」

「まあ、そうなんだけどさ」

 カリンは手元の端末を操作して、何かを検索し始める。
「……あった。どうやら“偉い”の反対語は“つまらない”らしいよ」

「つまらない、か。意外だなあ」

私は天井の模様を眺めながらつぶやいた。

「じゃあ、“つまらない”日でも、生きててえらいって言うのは
どういう意味なんだ?」

「そんな深い話を私に投げるなよ。こっちも準備があるんだ」

 そう言うとカリンは、壁に掛けてあった白いコートと金の手帳を手渡してきた。

「ほら、今日の“案内先”は多めだよ。新しいスタートを迎える人が何人もいる」

「また忙しくなるな」

 私たちは軽く息を合わせて、扉の向こうへ向かった。
──人の終わりに寄り添うのが、私たちの“仕事”だから。