1ミニッツ短編集ボックス

 世の中に向かって声を響かせる存在──昔は“選ばれた誰か”だけのものだった。
 でも今は違う。
 誰もが自分の声を拡張するための“ラウドスピーカー”を手に入れてしまった。

 その結果、街には声があふれ続けている。
 大事な声も、取るに足らない声も、同じ大きさで響き、同じように消えていく。

 友人も、その波に飲まれて消えたひとりだ。
 かつてはよく響いていた声は埋もれ、今では静かな公園で空き缶を集めて暮らしているという。

 そして──そんな「かつて響いた人たち」に話を聞き、記録に残すのが、今の俺の仕事だ。
 書き上げた記事は、まだ声の大きいラウドスピーカーたちが“話題”として使ってくれる。

「その仕事、儲かるのかい?」

 喫茶店のマスターがコーヒーを置きながら問いかけてきた。

「儲かるよ。
 誰かの声が途切れる瞬間って、一番聞かれやすいんだ。
 響く限り、ずっと響き続ける」

「……人って、人の幸せを願ってるんじゃないの?」

 マスターの言葉に、俺は苦味の強いコーヒーをひと口飲んだ。

「どうだろうね。
 “自分が持ち上げた声が、自分の前でかすれていく”のを見るのが好きな人って、案外多いんだよ。
 物語みたいにね」

「それでいいの?」

「僕もわからないよ。
 でも──」

 店内のスピーカーから流れる音楽の奥に、誰かの声の残響がかすかに混ざっている気がする。

「誰かが思い出してくれる限り、その声は確かに“あった”。
 消えかけた声を拾って残すのが、今の僕の仕事なんだ」