まったくどこで何をしてたかと思えば。
「何やってくれてんの、ロンネル」
腕を組みじっとりとした目でロンネルを見上げる。
「と言いますと?」
まるで何のことかわからない、とばかりにロンネルが首を傾げた。
「ちょっと目を離した隙に、なんで君が街の英雄になってるのかってこと」
街に戻るなりびっくりだ。
ロンネル様、ロンネル様、と大騒ぎ。
城の兵士たちを引き連れ、先頭を歩く様はまるで戦勝を上げた戦士の大将そのもの。
男女問わず見守る街の人たちは羨望の眼差しだし、一方で私が街に戻っても誰も気づかない。
たった一日で英雄の座が奪われた感じ。
「橋つくっただの、盗賊退治しただの。心当たりがないとは言わせないよ」
説教をしようとすぐさまロンネルを部屋に呼び出し、今に至る。
「ああ、あの橋はまだ木でつくった仮橋です。ゆくゆくは石でもっと幅の広い頑強な橋をつくる予定で……」
「そうじゃなくて、私よりお供の方が目立ってどうすんのって話し」
「目立つとまずいですか?」
「まずいとかまずくないとかじゃなくて……」
素敵な恋人に出会いたい。ついでにひいおばあちゃんのような名声も欲しい。とはさすがに口に出しては言えない。呆れられるのが目に見えている。
「私の陰が薄くなるでしょ」
「そのことについては大丈夫です。自分はリア様の旅のお供で、リア様はすごい魔法使いだということは話してありますので」
ロンネルが自信ありげに胸を張る。
リアはベッドの上に腰を下ろし、疑わしい目つきでロンネルを見上げた。
ロンネルは見た目も目立つし、行動力もあるし自信もある。無神経なところはあるけど、信頼もできる。
「だから嫌なんだよなあ」
小さくため息をつき、頭を掻く。
「何か言いましたか?それよりもカレル様とはお話しできたのですか?」
呑気なロンネルの問いに、はっと顔を上げた。
「よくぞ聞いてくれた、ロンネル。私は今日から治癒魔法しか使わないことにした」
「はあ?」
あれから彼と二人きりで話した。
丘の上にちょうど小さな湖があって、湖のほとりで二人で座り語り合った。あれはもうデートと言ってもいい。
カレルはもともとこの街から少し離れた村に生まれた。でも、カレルがまだ幼い頃に両親は病気で亡くなってしまった。
そして貧しい村では幼子は養えないということで、この街の教会に預けられた。簡単な魔法はもともと使えたから、勉強と訓練で治癒魔法を身につけて、今の治癒院で働くようになったらしい。
「それからはずっと街の治癒院で治癒魔法士として働いています。お師匠様もとても良い方で」
彼が悲しげに湖の遠くを見た。
その目が涙にうるんでいたので「そのお師匠様が亡くなって、さっきお祈りを?」と訊くと彼が慌てて顔の前で手を振る。「あ、いえ。師は健在です」
早とちりしたことに恥ずかしくて笑ってごまかす。彼も笑ってくれていい雰囲気になったと思ったら。
「亡くなったのはニナ……。私の恋人です」
頭の上に岩石でも落ちてきたのかと思ったくらい衝撃を受けた。それからどういう風に話しをしたか、よく覚えていない。
カレルが話すのを、ただ呆然と聞いていたと思う。
「そのニナとかいう女性とは、教会で知り合い、付き合うようになったけど、この前、魔獣に襲われて帰らぬ人になった……っていうのはかろうじて覚えてる」
話しを聞き終え、ロンネルが神妙な顔で頷く。
「なるほど……それは災難でしたね。ですが」
ロンネルが声をひそめる。
「リア様にとっては好機ですね」
「やっぱりそう思う?」
口の端を少しつり上げた。
恋人の話を聞いた時は確かにショックだったけど、その人はもういないわけで。
横恋慕や浮気にならないことを考えれば、悪くない状況だ。
「はい。恋人を失い喪失状態の時は心が弱くなるもの。そこへ同業種の魔法使いが現れれば、心の拠り所にしたくなるもの。形勢としてはかなり有利ではないでしょうか」
リアはベッドから立ち上がると、ロンネルに顔を近づけた。
「そう、だから私も治癒魔法士として彼の手伝いをすることにした。明日からでも治癒院の近くの宿に移動しようと思う。その方が仕事終わりに一緒に食事を、とか誘いやすいからね」
「徐々に親睦を深めるということですか」
ロンネルが腕を組み考え込む。
「でもリア様。リア様って治癒魔法、不得意ですよね。貴方の家系が得意とするのは闇の魔法。治癒魔法は真逆の魔法では?」
それはそう。ロンネルの言うとおりだ。
治癒魔法より不死人魔法で死人操る方が得意だ。
「城に運ばれてたのも、魔力を使い過ぎて寝こけたわけですよね?というか何でいつもいつも真逆の相性の人を好きになるんです?」
「うるさいな。恋に堕ちるのに理由なんてないんだよ。それより、作戦は悪くないでしょ?」
「どうでしょう。少々回りくどいようにも思えます。一気に相手の懐に飛び込んで、冷静に考える暇を与えず籠絡する方がいいのでは?」
「ロンネル、私は戦の駆け引きの相談をしているんじゃないんだ。恋愛にはもっと繊細な心の機微が……、もういいや。とにかく、そういうことだから、協力してよね」
「具体的には何をすればいいんですか?」
「何をすればじゃなくて、何もしないこと。私より目立つ行動は慎んで。銅像のように動かず、ただ遠くを見てぼーっと……」
その時、突然床が揺れ始めた。
揺れはやがて大きくなり窓がガタガタと音を立てる。
城内で悲鳴が上がり、城の塔の鐘がカンカンと激しく鳴り響いた。
「何やってくれてんの、ロンネル」
腕を組みじっとりとした目でロンネルを見上げる。
「と言いますと?」
まるで何のことかわからない、とばかりにロンネルが首を傾げた。
「ちょっと目を離した隙に、なんで君が街の英雄になってるのかってこと」
街に戻るなりびっくりだ。
ロンネル様、ロンネル様、と大騒ぎ。
城の兵士たちを引き連れ、先頭を歩く様はまるで戦勝を上げた戦士の大将そのもの。
男女問わず見守る街の人たちは羨望の眼差しだし、一方で私が街に戻っても誰も気づかない。
たった一日で英雄の座が奪われた感じ。
「橋つくっただの、盗賊退治しただの。心当たりがないとは言わせないよ」
説教をしようとすぐさまロンネルを部屋に呼び出し、今に至る。
「ああ、あの橋はまだ木でつくった仮橋です。ゆくゆくは石でもっと幅の広い頑強な橋をつくる予定で……」
「そうじゃなくて、私よりお供の方が目立ってどうすんのって話し」
「目立つとまずいですか?」
「まずいとかまずくないとかじゃなくて……」
素敵な恋人に出会いたい。ついでにひいおばあちゃんのような名声も欲しい。とはさすがに口に出しては言えない。呆れられるのが目に見えている。
「私の陰が薄くなるでしょ」
「そのことについては大丈夫です。自分はリア様の旅のお供で、リア様はすごい魔法使いだということは話してありますので」
ロンネルが自信ありげに胸を張る。
リアはベッドの上に腰を下ろし、疑わしい目つきでロンネルを見上げた。
ロンネルは見た目も目立つし、行動力もあるし自信もある。無神経なところはあるけど、信頼もできる。
「だから嫌なんだよなあ」
小さくため息をつき、頭を掻く。
「何か言いましたか?それよりもカレル様とはお話しできたのですか?」
呑気なロンネルの問いに、はっと顔を上げた。
「よくぞ聞いてくれた、ロンネル。私は今日から治癒魔法しか使わないことにした」
「はあ?」
あれから彼と二人きりで話した。
丘の上にちょうど小さな湖があって、湖のほとりで二人で座り語り合った。あれはもうデートと言ってもいい。
カレルはもともとこの街から少し離れた村に生まれた。でも、カレルがまだ幼い頃に両親は病気で亡くなってしまった。
そして貧しい村では幼子は養えないということで、この街の教会に預けられた。簡単な魔法はもともと使えたから、勉強と訓練で治癒魔法を身につけて、今の治癒院で働くようになったらしい。
「それからはずっと街の治癒院で治癒魔法士として働いています。お師匠様もとても良い方で」
彼が悲しげに湖の遠くを見た。
その目が涙にうるんでいたので「そのお師匠様が亡くなって、さっきお祈りを?」と訊くと彼が慌てて顔の前で手を振る。「あ、いえ。師は健在です」
早とちりしたことに恥ずかしくて笑ってごまかす。彼も笑ってくれていい雰囲気になったと思ったら。
「亡くなったのはニナ……。私の恋人です」
頭の上に岩石でも落ちてきたのかと思ったくらい衝撃を受けた。それからどういう風に話しをしたか、よく覚えていない。
カレルが話すのを、ただ呆然と聞いていたと思う。
「そのニナとかいう女性とは、教会で知り合い、付き合うようになったけど、この前、魔獣に襲われて帰らぬ人になった……っていうのはかろうじて覚えてる」
話しを聞き終え、ロンネルが神妙な顔で頷く。
「なるほど……それは災難でしたね。ですが」
ロンネルが声をひそめる。
「リア様にとっては好機ですね」
「やっぱりそう思う?」
口の端を少しつり上げた。
恋人の話を聞いた時は確かにショックだったけど、その人はもういないわけで。
横恋慕や浮気にならないことを考えれば、悪くない状況だ。
「はい。恋人を失い喪失状態の時は心が弱くなるもの。そこへ同業種の魔法使いが現れれば、心の拠り所にしたくなるもの。形勢としてはかなり有利ではないでしょうか」
リアはベッドから立ち上がると、ロンネルに顔を近づけた。
「そう、だから私も治癒魔法士として彼の手伝いをすることにした。明日からでも治癒院の近くの宿に移動しようと思う。その方が仕事終わりに一緒に食事を、とか誘いやすいからね」
「徐々に親睦を深めるということですか」
ロンネルが腕を組み考え込む。
「でもリア様。リア様って治癒魔法、不得意ですよね。貴方の家系が得意とするのは闇の魔法。治癒魔法は真逆の魔法では?」
それはそう。ロンネルの言うとおりだ。
治癒魔法より不死人魔法で死人操る方が得意だ。
「城に運ばれてたのも、魔力を使い過ぎて寝こけたわけですよね?というか何でいつもいつも真逆の相性の人を好きになるんです?」
「うるさいな。恋に堕ちるのに理由なんてないんだよ。それより、作戦は悪くないでしょ?」
「どうでしょう。少々回りくどいようにも思えます。一気に相手の懐に飛び込んで、冷静に考える暇を与えず籠絡する方がいいのでは?」
「ロンネル、私は戦の駆け引きの相談をしているんじゃないんだ。恋愛にはもっと繊細な心の機微が……、もういいや。とにかく、そういうことだから、協力してよね」
「具体的には何をすればいいんですか?」
「何をすればじゃなくて、何もしないこと。私より目立つ行動は慎んで。銅像のように動かず、ただ遠くを見てぼーっと……」
その時、突然床が揺れ始めた。
揺れはやがて大きくなり窓がガタガタと音を立てる。
城内で悲鳴が上がり、城の塔の鐘がカンカンと激しく鳴り響いた。



