ロンネルは、ふとあることに気づいた。
この街の中心に大きな樹がある。
その樹の前に立ち、腕を組み背をのけ反らせて見上げる。
空に届くほどの大樹は青々とした葉を茂らせている。
フォート伯の話しによると、古くからこの辺りは東西の行き来の盛んな場所で、目印となってきた。
旅人が樹の下で休み、商人がその旅人に物を売り、やがて街ができていったそうで。
——やはりここは後の『千年樹の街』か
「あのう、どうかされましたか」
フォート伯が話しかけてきた。
リアに邪険にされ、仕方なく街に見回りに行こうとしたら領主自らが案内に立ってくれた。
街の様子をいつも見て歩いているらしい。
気さくで、領民からも慕われているようにロンネルには思えた。
出会ったのが温厚な領主で良かった。
ベロック村に戻った時、リアが城に連れて行かれたと聞いた時は、幽閉されたと思った。
ルピンシアから一歩も出たことがない彼女は、己の家系に誇りを持っているがゆえにすぐに名乗ってしまう。
恐ろしい魔女一族、と世間からは恐れられているとも知らず。頭の痛いことだ。
「思ってたより小さかったので気づきませんでした」
「小さい……?」
何がでしょう、とフォート伯が周囲を見回す。
「この樹《き》……、いや街の規模です。治安も良く商人の往来も多そうだ。その割には街が小さいなと思いまして」
「ああ、おっしゃるとおりです。交易が盛んな時は宿が度々足りなくなるくらいなんですよ」
「なぜ街を広げないのですか?」
「簡単にはいかないからです。街を広げるとなるとまずは街を囲む防壁を造り直さないと」
つい先日、魔獣の襲来を受けても街にさほど被害がでなかったのはこの防壁のおかけだ。街を広げるとなると防壁も広げ、治安対策も必要となってくる、と領主は言う。
「防壁があるのは北面と東西のみ。南に広げればよいのでは?」
そうロンネルが提案すると、フォート伯は首を左右に振る。
「南には川がありますから」
「川の向こうに広げればいい」
ロンネルの真面目な意見にフォート伯がくすりと笑う。
「それでは街の真ん中に川が通ることになってしまいますよ。不便でしょう」
「いや、むしろ便利です。川は航路としても使える。東西の物流を川を使って行えますからね」
ロンネルは地図を取り出し、フォート伯の目の前に広げた。地図の一点を指差す。
「この西の山で採れる魔鉱石を川を使って街に運ぶ。街で石を加工し、ふたたび川で東の街で売る。商流があるなら北の大きな街にも売れる」
「つまり南に拓いた土地は魔鉱石の加工の拠点にすると?」
フォート伯が地図から顔をあげ、南をみやる。
「採掘者はいますが、加工職人がほとんどいません。どうやって集めるのです?」
「集めなくとも稼げるとわかれば、おのずと集まってきます。まずは川に橋を架けましょう。簡単な作業場も建てる。便利さがわかればイメージもわいてくるでしょう」
それから領主の呼びかけで道具を持ち寄り仮橋造りが始まった。
領主のあり方が周囲の雰囲気にも影響するのか、街の住人は協力的だ。人に対して好意的で、馬車に乗っていた時も、街の人々が外から馬車に向かって手を振ってきていた。
下々の者の生活など歯牙にもかけない元デンメア帝国の貴族たちとは大違いだ。
軽々と木を担ぎ運ぶロンネルの周りに、何事かと街の人々が集まってくる。
作業途中には、北東の森を根城にしつつある山賊についての相談がきた。これは力技で追い払うより仕方ない。
ロンネルを中心に体格の良い兵士を集め、山に出向いて追い払う。帰りすがら魔獣の群れもついでに追い払った。
日が沈み、ロンネルが街に戻る頃にはすっかり街の人たちの間に川の航路計画の噂が広がっていた。
川に仮橋を架けてる途中で山賊退治に出向いてしまったが、街の男たちが集まり橋の建設に手を貸してくれていたため、明日には完成しそうだ。
この街の中心に大きな樹がある。
その樹の前に立ち、腕を組み背をのけ反らせて見上げる。
空に届くほどの大樹は青々とした葉を茂らせている。
フォート伯の話しによると、古くからこの辺りは東西の行き来の盛んな場所で、目印となってきた。
旅人が樹の下で休み、商人がその旅人に物を売り、やがて街ができていったそうで。
——やはりここは後の『千年樹の街』か
「あのう、どうかされましたか」
フォート伯が話しかけてきた。
リアに邪険にされ、仕方なく街に見回りに行こうとしたら領主自らが案内に立ってくれた。
街の様子をいつも見て歩いているらしい。
気さくで、領民からも慕われているようにロンネルには思えた。
出会ったのが温厚な領主で良かった。
ベロック村に戻った時、リアが城に連れて行かれたと聞いた時は、幽閉されたと思った。
ルピンシアから一歩も出たことがない彼女は、己の家系に誇りを持っているがゆえにすぐに名乗ってしまう。
恐ろしい魔女一族、と世間からは恐れられているとも知らず。頭の痛いことだ。
「思ってたより小さかったので気づきませんでした」
「小さい……?」
何がでしょう、とフォート伯が周囲を見回す。
「この樹《き》……、いや街の規模です。治安も良く商人の往来も多そうだ。その割には街が小さいなと思いまして」
「ああ、おっしゃるとおりです。交易が盛んな時は宿が度々足りなくなるくらいなんですよ」
「なぜ街を広げないのですか?」
「簡単にはいかないからです。街を広げるとなるとまずは街を囲む防壁を造り直さないと」
つい先日、魔獣の襲来を受けても街にさほど被害がでなかったのはこの防壁のおかけだ。街を広げるとなると防壁も広げ、治安対策も必要となってくる、と領主は言う。
「防壁があるのは北面と東西のみ。南に広げればよいのでは?」
そうロンネルが提案すると、フォート伯は首を左右に振る。
「南には川がありますから」
「川の向こうに広げればいい」
ロンネルの真面目な意見にフォート伯がくすりと笑う。
「それでは街の真ん中に川が通ることになってしまいますよ。不便でしょう」
「いや、むしろ便利です。川は航路としても使える。東西の物流を川を使って行えますからね」
ロンネルは地図を取り出し、フォート伯の目の前に広げた。地図の一点を指差す。
「この西の山で採れる魔鉱石を川を使って街に運ぶ。街で石を加工し、ふたたび川で東の街で売る。商流があるなら北の大きな街にも売れる」
「つまり南に拓いた土地は魔鉱石の加工の拠点にすると?」
フォート伯が地図から顔をあげ、南をみやる。
「採掘者はいますが、加工職人がほとんどいません。どうやって集めるのです?」
「集めなくとも稼げるとわかれば、おのずと集まってきます。まずは川に橋を架けましょう。簡単な作業場も建てる。便利さがわかればイメージもわいてくるでしょう」
それから領主の呼びかけで道具を持ち寄り仮橋造りが始まった。
領主のあり方が周囲の雰囲気にも影響するのか、街の住人は協力的だ。人に対して好意的で、馬車に乗っていた時も、街の人々が外から馬車に向かって手を振ってきていた。
下々の者の生活など歯牙にもかけない元デンメア帝国の貴族たちとは大違いだ。
軽々と木を担ぎ運ぶロンネルの周りに、何事かと街の人々が集まってくる。
作業途中には、北東の森を根城にしつつある山賊についての相談がきた。これは力技で追い払うより仕方ない。
ロンネルを中心に体格の良い兵士を集め、山に出向いて追い払う。帰りすがら魔獣の群れもついでに追い払った。
日が沈み、ロンネルが街に戻る頃にはすっかり街の人たちの間に川の航路計画の噂が広がっていた。
川に仮橋を架けてる途中で山賊退治に出向いてしまったが、街の男たちが集まり橋の建設に手を貸してくれていたため、明日には完成しそうだ。



