ジュフレールの魔女と星屑の天秤

「もう出発されてしまうのですか。寂しくなりますが、どうかお気をつけて」

 もっといて欲しいと引き止める街の人たちとは違い、私の旅の目的と失恋を知っているフォート伯だけは旅立ちをすんなりと受け入れた。

「リア・ジュフレール様。今回のご恩、一生忘れません。街を救った偉大な魔法使いとして子々孫々伝えて参ります」

 ニナが私の手を握ってくる。
 ふざけんな。何が子々孫々だ。
 カレルに愛想尽かされてふられちまえ。
 とはカレルがすぐ近くにいるから言えないけど。

「子々孫々じゃなくていいけど、絶世の美魔女だったって噂は流しといて」

 そっぽ向きやんわり手を振り(ほど)く。
 

「ではそろそろ」

 街の人から食料やら水やら色々もらって荷物が増えたロンネルが言う。

「リア様、どうかまたこの街にも来てくださいね。それから幸運のお(まじな)いを受け取ってくださいますか」

 カレルが手を差し伸べてきた。

「幸運のお(まじな)い?」

 何かをくれるのかと思い、手を出す。
 するとカレルが膝を曲げ、その手を取ったかと思うと、そのまま手の甲に——。

 唇が触れる感触。

 振られた時のショックとはまた別の衝撃。
 頭の中が真っ白になる。

「どうかリア様の旅にご幸運がありますように」

 ゆっくりと離れていくカレルが、どこぞの王子様のように優しく微笑んでいて、胸の内に温かいものが広がってゆく。
 私の顔も赤く緩んだ。


 やっぱり好きだったなあ……。


 私は頭を振り、精一杯平静を装ってにカレルにお礼を言うと、ロンネルを振り返る。

「じゃあ、行こうか。ロンネル」

 これ以上、ここにいると未練が残る。
 街の入り口で大きく手を振り、見送ってくれる街の人を後にしながら、私は振り返らず歩いた。

「この先、カレル以上の相手に出会えるのかなあ……」

「予見魔法によると五分五分ですね」

 ロンネルが星屑の天秤を見ながら言う。

「また五分五分?私ほどの美女いないってのに、その天秤、壊れてんじゃないの?」

「失礼なこといわないでください。デンメア帝国が滅びることを予見した予見魔法ですよ。だいたい、恋愛が上手くいくかどうかは本人次第ですよ」

「じゃあ何のためについてくるのよ?もうついて来なくていいよ」

「そういうわけにもいかないので。というか、リア様。次はどこに向かうかまずは行き先を決めませんか?」

「行き先?そんなの決まってるでしょ」

 大きく胸を張り断言する。

「私の運命の人に出会えるところ」






          おわり