みどりのひ、こどものひ

 家族で初キャンプ。 
 夫と息子と。
 息子は十徳ナイフをもらって、大喜び。
 やっぱり、男の子ね。
 二人とも大はしゃぎ。
 私も、ちょっと、気持ちがはしゃぐ。
 いけない、いけない。
 深呼吸、深呼吸。
 綺麗な空気。
 気持ちが落ち着く。



 緑色の夜。
 息子は眠り、二人きり。
 焚き火を囲んで、
「見たか? あいつの尊敬の眼差し。
 なんでもできるお父さんすごいって顔、
 いやー来て良かった」
 だらしのない、ニヤケ顔。
「あなた、少し飲み過ぎじゃない?
 なーに、まだまだ、宵の口。
 ボトルを空けない夜は無い」
 くだらない親父ギャグ。
 けれど笑ってしまう。
 グラスでワインが揺蕩う。
 私も少し、酔ったみたい。



 鳥のさえずりで目覚める。
 血の、匂い。
 夫が刺されていた。
 息がない、死んでいる。
 息子は?
 寝袋は空。
 テントを飛び出る。
 目の前に、血まみれの息子がいた。
 息をしている、立っている。
「良かった、良かった。無事で。
 けがはない? お父さんがね、」
「ああ、あれ?
 僕がやったんだ」
 手には、十徳ナイフ。
 開かれている、
 ナイフに、
 ハサミに、
 缶切りに、
 ドライバーに、
 ワインオープナーに、
 血がついている。
「どうして、どうして、」
「これ、便利なんだけど、
 お父さんがついてたら、
 もっと便利かなって」
 いけない、いけない。
 深呼吸、深呼吸。
 綺麗な空気。
 綺麗な空気。
 気持ちは、落ち着かない。