その後、シングルススリー、シングルスツーと勝ち進んだ俺たちは決勝に進出。なんとストレートで相手を下し、地区予選の頂点に立つことができた。
「よくやった、お前ら」
先生が、表彰状を手に少しだけ目元を緩めて言う。
テント脇でのミーティング。みんな一様に誇らしげな笑顔を浮かべている。
「だが、これは全国優勝に続く道の通過点にすぎない。明日からまた練習頑張ろう」
「はい!」
全員で声を揃えて返事をし、今日の部活は解散となった。
加藤たちと喜びを分かち合いながら、荷物をまとめて出口へと向かう。その途中、軽い足音が近づいてきて――
「あのっ……高峰君!」
振り返ると、頬を真っ赤に染めた女子生徒達が五人、息を切らせて立っていた。
出たよ、このパターン……。
頬を引き攣らせて女子たちを見つめる。
「相変わらずモテるねぇ」
「俺ら先行くぞー!」
加藤たちが行ってしまっても、俺は動かなかった。
「ちょっと……いいかな」
先頭に立っていた女子が、上目遣いで一歩、こちらに近づいてくる。
「……えーと」
漣が、助けを求めるようにチラッと俺を見た。
俺は――
「ごめん」
漣の腕を掴み――
「俺らこれから自主練あるんだ。今度にしてくれ!」
全速力で走り出していった。
自販機の低い駆動音が響く中、鼓動がだんだんと大きくなっていく。
「先輩……自主練、するんすか?」
漣が、息を整えながら不思議そうに聞いてきた。俺は掴んでいた腕をパッと離し、バツの悪い思いで頭を掻く。
「しねぇよ。ウソに決まってんだろ……先生に怒られるわ」
「そうっすよね……」
「………………」
木漏れ日が、漣の綺麗な顔の中に揺れている。俺はじっとりと汗をかいた拳を握りしめ、吐きそうになるのを抑えながら、思い切って口を開いた。
「あのさ」
「はい?」
「まだ、俺のこと好きなの?」
漣は大きく目を見張り、それから、まっすぐに俺を見つめて答えた。
「好きです」
「………………じゃあ」
足を踏み出し、漣のユニフォームの襟をグッと掴んで引き寄せる。
「え、……」
ほんの数秒。唇と唇を合わせ、その柔らかさを味わうだけの、あっけないキスだった。
それでも……あぁ、顔が火のように熱い。
耐えきれなくなって視線を逸らす。
「好きなんて言わなければ良かったってやつ、取り消せよな」
ぶっきらぼうに言っても、漣は答えなかった。静寂が辺りを支配し、木々のざわめく音だけがただ絶え間なく流れ続けている。
「ぃ……今のって……」
掠れた声だった。
「なんで」
「……試すため」
「何を……?」
「俺の、心をだよ!」
「な、なんでっ……!?」
「我慢ができなくなったからだ!」
俺がヤケクソで怒鳴ると、漣は今にも泣きそうな顔になって、声を震わせた。
「なんで……なんで、こんな……誰かに見られちゃうかもしれないじゃないですか……っ」
「いいんだよ、そんなのは」
お前となら。
覚悟を決めて視線を合わせる。漣も、何かを確かめるように、ごつごつとした大きな手のひらを俺の両肩に置いてきて――
「先輩」
「なに」
「もう一回してください」
「……全国終わったらな」
「ええぇ~っ!?」
一気に悲壮な表情になった。
そんなにがっかりすることなのか、と少しくすぐったく思う。
「お願いしますよ!一回、一回だけ!」
「冗談だって」
「いや、冗談じゃないですよ!確かに『全国終わってから』って言いましたけど、あの時と今とじゃ状況が違うじゃないですか!それに、俺、傷ついたんですからね!めんどくせぇとか迷惑だとか散々言われて!謝らなくて良いんでキスしてくださ……え、冗談?」
「そう」
一歩、踏み出す。
「いいぞ、して」
そう言って目を瞑ると、漣は恐る恐るといった感じで身体を寄せて、もう一度、触れるだけのくちづけをしてきた。
「……ふふ」
なんだか――恥ずかしいやら、嬉しいやらで笑ってしまう。
目を開ければ、とろけるような漣の笑顔がそこにあって。
「俺、先輩好きになって良かったです」
黄金色の空の下、ぎゅうっと強く抱き締められる。
「俺も」
と耳元で囁きながら、俺はその広い背中に向かって手を伸ばしていったのだった。
「よくやった、お前ら」
先生が、表彰状を手に少しだけ目元を緩めて言う。
テント脇でのミーティング。みんな一様に誇らしげな笑顔を浮かべている。
「だが、これは全国優勝に続く道の通過点にすぎない。明日からまた練習頑張ろう」
「はい!」
全員で声を揃えて返事をし、今日の部活は解散となった。
加藤たちと喜びを分かち合いながら、荷物をまとめて出口へと向かう。その途中、軽い足音が近づいてきて――
「あのっ……高峰君!」
振り返ると、頬を真っ赤に染めた女子生徒達が五人、息を切らせて立っていた。
出たよ、このパターン……。
頬を引き攣らせて女子たちを見つめる。
「相変わらずモテるねぇ」
「俺ら先行くぞー!」
加藤たちが行ってしまっても、俺は動かなかった。
「ちょっと……いいかな」
先頭に立っていた女子が、上目遣いで一歩、こちらに近づいてくる。
「……えーと」
漣が、助けを求めるようにチラッと俺を見た。
俺は――
「ごめん」
漣の腕を掴み――
「俺らこれから自主練あるんだ。今度にしてくれ!」
全速力で走り出していった。
自販機の低い駆動音が響く中、鼓動がだんだんと大きくなっていく。
「先輩……自主練、するんすか?」
漣が、息を整えながら不思議そうに聞いてきた。俺は掴んでいた腕をパッと離し、バツの悪い思いで頭を掻く。
「しねぇよ。ウソに決まってんだろ……先生に怒られるわ」
「そうっすよね……」
「………………」
木漏れ日が、漣の綺麗な顔の中に揺れている。俺はじっとりと汗をかいた拳を握りしめ、吐きそうになるのを抑えながら、思い切って口を開いた。
「あのさ」
「はい?」
「まだ、俺のこと好きなの?」
漣は大きく目を見張り、それから、まっすぐに俺を見つめて答えた。
「好きです」
「………………じゃあ」
足を踏み出し、漣のユニフォームの襟をグッと掴んで引き寄せる。
「え、……」
ほんの数秒。唇と唇を合わせ、その柔らかさを味わうだけの、あっけないキスだった。
それでも……あぁ、顔が火のように熱い。
耐えきれなくなって視線を逸らす。
「好きなんて言わなければ良かったってやつ、取り消せよな」
ぶっきらぼうに言っても、漣は答えなかった。静寂が辺りを支配し、木々のざわめく音だけがただ絶え間なく流れ続けている。
「ぃ……今のって……」
掠れた声だった。
「なんで」
「……試すため」
「何を……?」
「俺の、心をだよ!」
「な、なんでっ……!?」
「我慢ができなくなったからだ!」
俺がヤケクソで怒鳴ると、漣は今にも泣きそうな顔になって、声を震わせた。
「なんで……なんで、こんな……誰かに見られちゃうかもしれないじゃないですか……っ」
「いいんだよ、そんなのは」
お前となら。
覚悟を決めて視線を合わせる。漣も、何かを確かめるように、ごつごつとした大きな手のひらを俺の両肩に置いてきて――
「先輩」
「なに」
「もう一回してください」
「……全国終わったらな」
「ええぇ~っ!?」
一気に悲壮な表情になった。
そんなにがっかりすることなのか、と少しくすぐったく思う。
「お願いしますよ!一回、一回だけ!」
「冗談だって」
「いや、冗談じゃないですよ!確かに『全国終わってから』って言いましたけど、あの時と今とじゃ状況が違うじゃないですか!それに、俺、傷ついたんですからね!めんどくせぇとか迷惑だとか散々言われて!謝らなくて良いんでキスしてくださ……え、冗談?」
「そう」
一歩、踏み出す。
「いいぞ、して」
そう言って目を瞑ると、漣は恐る恐るといった感じで身体を寄せて、もう一度、触れるだけのくちづけをしてきた。
「……ふふ」
なんだか――恥ずかしいやら、嬉しいやらで笑ってしまう。
目を開ければ、とろけるような漣の笑顔がそこにあって。
「俺、先輩好きになって良かったです」
黄金色の空の下、ぎゅうっと強く抱き締められる。
「俺も」
と耳元で囁きながら、俺はその広い背中に向かって手を伸ばしていったのだった。
