体の中でも、普段使わない部分がグッと伸びた。目に涙が滲んで、俺は息を詰める。
「……っ、いた」
「力抜いて。息、ちゃんと吐け」
鷹宮が後ろから優しく声をかけてくれる。でも俺は我慢できそうもなくて、首を横に振った。
「も、むりぃ……っこれくらいでいいって」
「ちゃんと準備しないと、怪我するだろ」
ゆっくりと、でも確実に、鷹宮の体重が背中に乗る。
限界がきた俺は、勢いよく体を起こしてしまった。
「うわ……っ」
「ごめん鷹宮! 膝の裏が痛い!」
俺は足を曲げて、砂のついたふくらはぎから上をさすった。
今日は球技大会当日だ。
青空の下、テニスコートでは各ペアがそれぞれ準備運動をしている。
鷹宮の提案で長座体前屈をしていた俺の体は、悲鳴を上げていた。
「運動音痴はつらい」
「……音痴というか、運動『不足』なんじゃ」
「鷹宮交代! 交代するぞ!」
都合の悪い言葉は聞かなかったことにして、俺は立ち上がる。
体操服についた砂を払い、鷹宮の肩を押さえて座らせた。
「ま……やりすぎもよくないからな」
鷹宮は小さく笑うと、長い足を伸ばす。
仕方ないなぁって顔が眩しい。
これが世に言うメロいってやつだ。
「じゃあ、押すぞー」
「いいぞ」
俺は鷹宮がしてくれたみたいに背中に手をつき、静かに体重を乗せた。あっという間に膝と額がくっついて、俺は逆にドン引きだ。
「えっ怖っ! 柔らか!」
「毎日やってるからな。じゃあこのまま、ルールのおさらいでもするか」
「ん。とにかく十一点を先に取ればいいんだっけ?」
鷹宮の背中は、押せば押すほど足と上半身がくっついていく。
さらに喋る余裕があるなんてさすがだ。
「そう。サーブは相手チームと交代な。サーブ権があるチームなら、どっちの選手がサーブしてもいい特別ルール」
「テニス部は相手がテニス部の時以外は、上からサーブしちゃだめなんだよな」
「そう。下からのサーブしかできないから、速いサーブが打てない。だから俺がサーブすると不利になる」
「なりません。ぜひ鷹宮が全部サーブしてください」
俺はきっぱり言い切った。迷いは一切ない。
それなのに鷹宮は体を起こして、真剣な表情の顔を俺に向けた。
「……ほんとにそれでいいのか?」
「心の底からそうしてほしい」
「そうか」
ポーカーフェイスに淡々とした返事。いつも通りの鷹宮だ。
でも何か違和感を覚えて、俺は膝をついて目線を合わせた。
「何か引っかかるか?」
「お前、歌は楽しければなんでもいいって前に言ってただろ。テニスも同じだ」
俺が言ってたこと、覚えててくれたのか。
それだけのことが嬉しくて、俺は自然と口角が上がる。
鷹宮はしゃべりながら体を動かして、俺と向かい合った。
「特に球技大会は、勝っても負けても楽しければなんでもいいんだ」
「ありがとな」
俺は最初の練習で鷹宮に言われたことを思い出す。
「勝つ必要はない」って馬鹿にされてるのかと思ったけど、楽しんでくれって意味だったんだな。
鷹宮の優しい気持ちだけ受け取って、俺は顔の前で手のひらを合わせた。ペロリと舌を出して見せる。
「俺、サーブはお前に頼りたいなー。外すかもって思ったら緊張して、楽しむどころじゃなくなっちまう」
「……なら、いいんだけど」
「呆れてるか?」
「まさか。期待に応えて、一本も外さないようにしないとな」
唇を片端だけ上げて、余裕の笑みの鷹宮。
あー。カッコいいなぁ。
今ならファンの女子に混ざってキャーキャー言える。
思わず見惚れていると、鷹宮が立ち上がった。
グッと腕を天に伸ばしながら、目線を俺にくれる。
「なぁ雲雀野」
「なんだ?」
「球技大会が終わったら、話したいことがある」
鷹宮はなんでもないことのように言おうとしたんだと思う。
でも俺から顔を背けたから、ほんの少しの緊張が伝わってきた。
すると俺の頭の中で、山田の声が呼び起こされる。
『球技大会で目立って、川崎さんに告白する!』
いや、まさか。
鷹宮がそんな小学生みたいなこと、考えるわけないだろ。
「えっと……じゃ、今日はみんな部活ねぇし……一緒に帰ろうぜ」
「約束だぞ」
地面に置いたラケットに手を伸ばす鷹宮は、やっぱりこっちを見ない。
……そのまま見ないでいてくれ。
落ち着け、心臓。冷めろ、顔の熱。
まだ決まってない。決まってないぞ。
(もしかして……って思ってるよな俺。そういうことじゃん)
心の奥でモヤモヤとしてた気持ちが輪郭を持った。
やっと名前をつけられた気がする。
「……っ、いた」
「力抜いて。息、ちゃんと吐け」
鷹宮が後ろから優しく声をかけてくれる。でも俺は我慢できそうもなくて、首を横に振った。
「も、むりぃ……っこれくらいでいいって」
「ちゃんと準備しないと、怪我するだろ」
ゆっくりと、でも確実に、鷹宮の体重が背中に乗る。
限界がきた俺は、勢いよく体を起こしてしまった。
「うわ……っ」
「ごめん鷹宮! 膝の裏が痛い!」
俺は足を曲げて、砂のついたふくらはぎから上をさすった。
今日は球技大会当日だ。
青空の下、テニスコートでは各ペアがそれぞれ準備運動をしている。
鷹宮の提案で長座体前屈をしていた俺の体は、悲鳴を上げていた。
「運動音痴はつらい」
「……音痴というか、運動『不足』なんじゃ」
「鷹宮交代! 交代するぞ!」
都合の悪い言葉は聞かなかったことにして、俺は立ち上がる。
体操服についた砂を払い、鷹宮の肩を押さえて座らせた。
「ま……やりすぎもよくないからな」
鷹宮は小さく笑うと、長い足を伸ばす。
仕方ないなぁって顔が眩しい。
これが世に言うメロいってやつだ。
「じゃあ、押すぞー」
「いいぞ」
俺は鷹宮がしてくれたみたいに背中に手をつき、静かに体重を乗せた。あっという間に膝と額がくっついて、俺は逆にドン引きだ。
「えっ怖っ! 柔らか!」
「毎日やってるからな。じゃあこのまま、ルールのおさらいでもするか」
「ん。とにかく十一点を先に取ればいいんだっけ?」
鷹宮の背中は、押せば押すほど足と上半身がくっついていく。
さらに喋る余裕があるなんてさすがだ。
「そう。サーブは相手チームと交代な。サーブ権があるチームなら、どっちの選手がサーブしてもいい特別ルール」
「テニス部は相手がテニス部の時以外は、上からサーブしちゃだめなんだよな」
「そう。下からのサーブしかできないから、速いサーブが打てない。だから俺がサーブすると不利になる」
「なりません。ぜひ鷹宮が全部サーブしてください」
俺はきっぱり言い切った。迷いは一切ない。
それなのに鷹宮は体を起こして、真剣な表情の顔を俺に向けた。
「……ほんとにそれでいいのか?」
「心の底からそうしてほしい」
「そうか」
ポーカーフェイスに淡々とした返事。いつも通りの鷹宮だ。
でも何か違和感を覚えて、俺は膝をついて目線を合わせた。
「何か引っかかるか?」
「お前、歌は楽しければなんでもいいって前に言ってただろ。テニスも同じだ」
俺が言ってたこと、覚えててくれたのか。
それだけのことが嬉しくて、俺は自然と口角が上がる。
鷹宮はしゃべりながら体を動かして、俺と向かい合った。
「特に球技大会は、勝っても負けても楽しければなんでもいいんだ」
「ありがとな」
俺は最初の練習で鷹宮に言われたことを思い出す。
「勝つ必要はない」って馬鹿にされてるのかと思ったけど、楽しんでくれって意味だったんだな。
鷹宮の優しい気持ちだけ受け取って、俺は顔の前で手のひらを合わせた。ペロリと舌を出して見せる。
「俺、サーブはお前に頼りたいなー。外すかもって思ったら緊張して、楽しむどころじゃなくなっちまう」
「……なら、いいんだけど」
「呆れてるか?」
「まさか。期待に応えて、一本も外さないようにしないとな」
唇を片端だけ上げて、余裕の笑みの鷹宮。
あー。カッコいいなぁ。
今ならファンの女子に混ざってキャーキャー言える。
思わず見惚れていると、鷹宮が立ち上がった。
グッと腕を天に伸ばしながら、目線を俺にくれる。
「なぁ雲雀野」
「なんだ?」
「球技大会が終わったら、話したいことがある」
鷹宮はなんでもないことのように言おうとしたんだと思う。
でも俺から顔を背けたから、ほんの少しの緊張が伝わってきた。
すると俺の頭の中で、山田の声が呼び起こされる。
『球技大会で目立って、川崎さんに告白する!』
いや、まさか。
鷹宮がそんな小学生みたいなこと、考えるわけないだろ。
「えっと……じゃ、今日はみんな部活ねぇし……一緒に帰ろうぜ」
「約束だぞ」
地面に置いたラケットに手を伸ばす鷹宮は、やっぱりこっちを見ない。
……そのまま見ないでいてくれ。
落ち着け、心臓。冷めろ、顔の熱。
まだ決まってない。決まってないぞ。
(もしかして……って思ってるよな俺。そういうことじゃん)
心の奥でモヤモヤとしてた気持ちが輪郭を持った。
やっと名前をつけられた気がする。



