異世界で冒険を! 昭和時代でスローライフを! オレたちの世界交換ファンタジア!

 この道を通るのは何度目だろう?

 仕事を辞めて部屋に閉じ籠り、たまにこうして貸し本屋へと向かう。

 ……オレの人生、どこで間違ったんだろうな……?

 何度も何度も考えたが、答えはまったく出てこなかった。ただ、後悔するばかりの毎日だった。

 電灯もない山道。自転車のライトだけが頼りだ。町の者はこの暗さに恐怖を感じるだろうが、今のオレにはなんとも思わなかった。どうせなら暗闇からバケモノでも出て来てオレを殺して欲しいほどだ。
 
「体力が落ちてきたな」

 昔は平気で走っていたのにな。車が欲しいものだ。資格はあるのに。

 家に着くと、両親の声がした。

 ……楽しそうだな……。

 働いていたときの金を食い潰し、両親の脛を齧り、ただ時間だけを食い潰している。情けないと思いつつ、なにも出来ない自分に腹が立つ。誰かオレを殺してくれ。

「お帰り」

 見知らぬ男がいた。いや、朝にも会ったな。両親の知り合いか? なんて思いはしたものの興味があるわけでもない。無視して部屋に戻ろうとしたら肩をつかまれた。とんでもない力で。

「純くん。オレとお話ししようか」

 振り払おうにも力が強くて振り払えなかった。なんなんだ、こいつは!?

「無理矢理にでも話を聞いてもらうから」

 なぜか体が動かなくなり、見知らぬ男に両親の前に座らされた。

「オレは相原三月《あいはらみつき》。昭和の次の元号、平成の時代に生まれた未来人だ」

 はぁ? 未来人? なにを言っているんだこの男は? 小説被れか?

「まあ、無理もない。純くんにしたら荒唐無稽な話に聞こえるだろうからな。だから論より証拠でおもしろいものを見せてやろう。明日の朝には戻って来ますんで」

 体を操られているように外へと連れ出されてしまった。

 そのまま庭に出て、上の畑に向かった。

「…………」

 なにか重厚で不気味な扉があった。こんのものここにあったか?

 男はその扉を開くと、朝になっていた。はぁ?

「お、さすがに同じ時間とはいかないか」

 なんだここは? 森の中? いや、なんだ? 誰の家だ? うちの畑ではないぞ。

「ここは、地球とは別の星。異世界だ」

 い、異世界? 異なる世界ということか……?

「信じられないだろうが、オレは十七歳のとき、友達とともにここのヤツらに召喚された」

 男が語り出した。本当に荒唐無稽な話を。

 信じられないが、視界に映るものが日本の植生とはまったく違い、牛みたいな生き物が歩いていた。

「この世界には魔法がある。これだ」

 男の指先から火が出た。て、手品か?

「手品じゃない。こんなことも出来るぞ」

 歪んだ空間から西洋の剣を取り出した。どんな手品だよ!

「純くんの存在をもらいたい。引きニート──人生に絶望しているんだろう? なら、その人生をオレに渡してくれ。そのお礼に新しい人生をあげるからさ」

 あ、新しい人生? 

「この世界は剣と魔法の世界だ。魔物や多種族が暮らしている。冒険者として生きてみないかい? 絶対に死なない力は与えてやれないが、そう簡単に死なない力は与えてやれる」

 バンと背中を叩かれると、体の自由が戻った。

「すぐには理解出来ないだろうから、ゆっくり地球とは違うことを教えてあげるよ。こっちだ」

 手首をつかまれ、なにかストーンサークルみたいなところから出され、山小屋みたいなところに案内された。

 小さい頃、猟師小屋を見たことがあるが、なにかそんな雰囲気がある内装だった。

「ここは、オレの家だ。十年住んでいたから生活感は出ているだろう?」

 確かに生活感は出ている。作り物とは思えなかった。

「お茶だ。木の実から作ったもので、精神を落ち着かせる効果があるものだ」

 カップを渡され中身を見ると、黒い液体が入っていた。

 恐る恐る飲んでみる。なにか胸がスーっとしてきた。確かに混乱していた頭が冷めてきている。味もそう悪くはないな。

「落ち着いたかい?」

「……あ、ああ……」

「改めて自己紹介。オレは相原三月。見た目はこんなだが、四十歳くらいだ。膨大な魔力により、老化するのがゆっくりになっている感じだ」

 四十歳!? 見た目、オレより五歳は若い感じだぞ!

「十七歳で召喚され、十年以上かけて仲間たちと魔王を倒し、十年以上かけて現代に帰って来た、と思ったらなぜか昭和時代。六十年も前に来てしまった。オレには異世界すぎて笑うしかないよ」

 こいつ、三月がウソを言っているのか本当のことを言っているのかはまだ、わからない。だが、冷静に見れば、なんだかオレたちの時代とは違う容貌をしている。

「……証拠は、あるのか……?」

「いいだろう。六十年後の電話だ」

 なにか四角い板? を出した。電話? これが? 

「スマートフォンと言って、六十年かけて携帯出来るようになった。いや、昭和でも電気があってよかったよ。コンセントも大事に仕舞っていた甲斐があるってものだ」

 触らせてもらうと、とても誤魔化しに作った質感ではなかった。

「では、未来の世界を見せてやろう」

 ガラス面を叩くと光出した。

 写真なのはわかった。だが、その写真には色がついていた。描いたものではない。撮したものだった……。

「……こ、これが、六十年後の世界なのか……」

 飛び抜けて文明が発展していることはなかったが、六十年後の世界なのはわかった。今と違いすぎたからだ。

「本当に未来から来たんだな」

「信じてくれた?」

 うんと頷いた。もう信じないわけにはいかないほどのを見せられたんだからな……。