異世界で冒険を! 昭和時代でスローライフを! オレたちの世界交換ファンタジア!

 仕事を初めて七日。働きを見てか、所長さんが配達の許可を出してくれた。

「まずは春夫と回ってくれ」

 春夫さんは、十九歳とか。農家の次男だそうだ。

「よろしくお願いします!」

「あ、はい。純さんは、元気ですね……」

「元気だけが取り柄よ!」

 呆れる春夫さんに続いて配達に出発。てか、二十年振りに自転車に乗ったよ。案外、問題なく乗れるもんなんだな。びっくりだよ。

 春夫さんの担当数は八十数軒。家が密集してないところ担当しているので多いほうなんだとか。その半分をオレに任せるそうだ。

 もっとでも構わないが、やはり新人には振れないのだろう。辞められても困るだろうしな。

 四十軒なので簡単に覚えられたが、一週間は一緒に回ることに。覚えたことを確認したら一人で回ることになった。

「純くん、疲れたかい?」

「全然ですよ! 体力があり余っているので町まで行ってみます。走れば店が開く時間でしょう」

「は、走って行くのか?」

「はい。七キロくらいですし」

 このままでは体が鈍ってしまう。走って行って走って帰るとしよう。

「それなら高湯に荷物を運んでみないか?」

 高湯? お湯? あ、温泉があったな。一応、高湯も庭坂だった。

「いいですよ」

「あっさりだな。急な坂道だから過酷だぞ。車で運ぶようにはなったが、まだまだ運べる量は少ない。馬を持つのも少なくなって困っていると相談されてたんだ」

「やりますやります。リヤカーを使えば結構な量を運べるでしょうよ。試しにやってみますか? 出来ると言っても信じられないでしょうからね」

 と言うことで、高湯にある玉湯旅館の社長さんがやって来た。

 六十くらいの男性で、なんか小さいおじさんだった。

「この人かい?」

「戸川純です。赤岩に住んでます。ここには走って来てます」

「あそこから? かなりの距離だろう。それを毎日?」

 赤岩を知っていたようで、凄く驚いていた。

「はい。近いものですよ。たまに山の中を突っ切って来てます」

「……凄いな……」 

「大したことありませんよ。今日、荷物を積んで高湯に向かってみますよ。旦那さんも乗って確かめてください」

 リヤカーは配達所の旦那さんが用意してくれ、自転車と合体させてくれた。紐で。大丈夫か、これ? 付与魔法で全体を強化しておくとしよう。

「酒屋でビールを運びたいんだが、構わんか?」

「構いませんよ。揺れるので底に座布団を敷いて、新聞紙を丸めて挟みますか」

 酒屋は販売所の近くにあり、ビールを四ケースとサイダー二ケースを積んだ。

「サイダーなんてあったんですね」

 観屋商会? 有名なんか?

「地元の商会が造っているんだよ。着いたら地下室で冷やしたものをのませてやるよ」

 この時代、コンビニどころか自販機もない。夜の七時には店は閉まってしまう。異世界を知っていなければ発狂していることだろうよ。

 玉湯旅館の社長さんを乗せて高湯へと出発進行!

 アスファルトではないので揺れが激しいが、異世界で鍛えた脚力はびくともしない。あんな坂こんな坂なんのその、だ。

 なかなか悪路ではあり、急な坂が続くが、山脈を越えるより楽なものだ。こうして道はあり、標高も高くないんだからな。

 ただ、瓶が割れない速度だったので一時間も掛かってしまったよ。

「疲れただろう?」

「なんのなんの。あと三回くらいは余裕で往復できますよ」

 事実、汗も流れてないし、息も切らしてはいない。平坦な道を五分くらい歩いたにすぎないエネルギー消費だろうよ。

「瓶じゃなきゃ、三十分も掛からなかったんですけどね。さすがにあの道では飛ばせませんでした」

「いやはやとんだバケモンだな。馬でも苦労するのに」

「ふっふっふ。馬なんかには負けませんよ」

 なんなら馬を担いでもやって来れる距離だわ。

「呆れるばかりだが、また運んでくれるならお願いするよ。最近、観光客が増えて困っていたんだよ」

「お客さんは、なにで来るんです?」

「一応、バスで来るが、雨が降ったりすると止まってしまうな。そんときは歩きだ」

 さすが昭和。平成の人間なら歩いてやって来ようとは思わないだろう。軽く登山だったわ。

「電話するから明日も頼まれてくれるか? 給金は弾むから」

「へー。電話なんてあったんですね」

 確かに電線はあったが、まだこの時代で電話を見てないわ。
 
「去年、やっと繋がったよ。電話の時代がやって来るんだろうな」
 
 六十年後は一人一台の時代になってますよ。

「帰りに湯に入るといい。三百年以上続く名湯だからな」

 へー、そうなんだ。それなら今度、とーさんやかーさんを連れて泊まりに来るか。温泉のよさがわかる年代となったからな。

「じゃあ、すまないが、こっちに運んでもらえるかい」

「はーい!」

 三段重ねにしてケースを運び、地下室で冷えた瓶のサイダーをいただいた。うめー! なにこの美味さは!? 昭和時代のサイダースゲー! コーラなんかより断然こっちのほうが好きだわ!

「動いたあとのサイダーは格別ですね!」

「牛乳も運びたいんだが、毎朝はどうしてもな」

「なら牛乳も運びますよ」

「そ、そうかい? じゃあ、頼もうかね。運搬費は弾むよ」

「ありがとうございました! 任せてください!」

 風呂上がりにはやっぱ牛乳だろう。帰りに買って行こうっと。