異世界で冒険を! 昭和時代でスローライフを! オレたちの世界交換ファンタジアライフ!

 バカどもに召喚され、魔王を倒せと言われたのも十年前。高校生だったオレもアラサーとなってしまった。
 
 青春を犠牲にして成し得たご褒美は国家反逆罪。元の世界にも帰れず、五人の仲間とともに国の外へ逃げることになってしまった。

 自由に生きると言ったヤツ。もう人間とは関わりたくないと言ったヤツ。どこかの町でひっそり暮らすと言った二人。オレたちを召喚した国に復讐すると言ったヤツ。そして、オレは元の世界に帰る方法を探すと言ったヤツ。
 
 十年も一緒にいた仲だが、別れるときはあっさりしたものだ。友情努力勝利は青春の中だけのものだけのようだった……。

 オレたちはもう子供ではないってことだ。いや、やっと大人になったってことだろう。自分の道を歩み始めたんだからな。

 まあ、生きていればまた会える。オレは元の世界に帰りたいのだ。家族がいる世界に。

 その一心で元の世界に帰れる方法を探し続けてさらに十年が過ぎ、アラフォー手前になってしまった。

 しかし、この世界では魔力があると老化の進みは遅く、長生き出来る。魔王を倒したオレらの魔力なら二、三百年は余裕だろう。大病を患わせなければ、だけど。

 魔力があろうと病気には勝てない。いや、オレには付与魔法があるのでいつまでも健康体だがな。回復魔法もそこそこ使えるし。
 
 それだけ生きられるなら諦めなければ帰れる方法を見つけれるはずだ。

 その一心、いや、執念で探し、星と時の神殿ってところで異次元を超える扉を発見した。

 だが、その扉を開くには膨大な魔力を必要とした。

 膨大な魔力を持つオレでも元の世界に繋ぐには十年以上の歳月を要してしまった。

「やっとか」

 扉は神殿から持ち出し、魔力が満ちる魔境に設置してからの十年を思い出した。

 誰も来ない魔境も今やちょっとした村が出来てしまった。

 語るも涙聞くも涙な十年だった。だが、そんなものは序章だ。今この瞬間から思い出となるのだからな。

「扉よ、開け! オレが生きた時代に還してくれ!」

 十七年生きた世界。強い思いを籠めて開いたら山の中だった。

「……どこだ……?」

 文献では思う場所に行けると書いてあったのに……。

 異世界とは違う緑の臭い。地球の、日本のかはわからないが、どうやら夏っぽかった。つくつくぼうしが鳴いているよ。

 ……ばーちゃんちを思い出すな~……。

 もう昔過ぎて記憶もあやふやだ。ばーちゃんちがどこにあったかも思い出せないよ。

 長いことぼんやりしていたら人の声が聞こえた。誰かいるのか!?

 声がしたほうに向かうと、畑に出た。あ、家もあった。かなり古そうな平屋だ。

「大丈夫ですか?」

 なんかモンペ、とか言ったか? 日本昔話に出てきそうなものだ。どこの田舎ファッションだ?

「……し、心臓が……」

 心臓? 心臓の病気か? 

「これを飲んで」

 回復魔法は病気には効かないが、ファンタジーの世界にはエクサリーみたいな万能薬がある。生活のために作った薬をばーさんに飲ませた。

 効果覿面。ばーさんの顔に赤みが戻った。

「…………」

 心臓の痛みが消えたことに茫然としていたが、我を取り戻して挨拶を交わした。

 ばーさんは、戸川喜子さんといい、そこの家の人のようだ。

「道に迷って困ってました」

 苦しい言い訳だが、喜子さんは信じてくれ、家へと入れてくれた。

 旦那さんは、山の畑に行っているそうだ。

 もう廃村になりかけており、他に十軒の家があるだけなんだとか。

「喜子さんは、町に移らないんですか?」

「あたしらはここで死ぬって決めたからね」

 異世界でも滅び行く村を見たことはある。現れては消えて行くのが村ってものだった。

「奥にいるのはお子さんですか?」

 家の奥に誰かいる気配がする。

「……息子だよ。もう二年以上、閉じ籠っているよ……」

 こんなところで引きニートがいるとは。よく出来ているものだ。テレビもなければラジオもない。電気は通っているようだが、ネットは絶対に通ってないだろう。

 しばらくして喜子さんの旦那さんが戻って来た。

 オレに驚いたが、喜子さんと同様、道に迷ったことを信じてくれた。

「汽車の時間もないだろうから泊まっていくといい」

 汽車? 電車ではなく? てか、ここはどこだ? 日本なんだよな? いや、平成な時代ではないのか?

 新聞を見せてもらったら昭和三十一年八月十七日と書いてあった。いや、これは一週間前のもののようだ。週に一回、郵便と一緒に運ばれて来るそうだ。

 平成生まれでも昭和があったことは知っている。しかし、昭和三十一年ってなに時代よ? いや、昭和時代なんだけど、オレが生きていたときより六十年も昔とか異世界より遠い昔だわ。

 ……まさか、帰って来たら昭和とか意味わからんわ……。

 ハァー。平成に帰るにはまた十年以上かかるのか。勘弁してほしいよ。

 いや待てよ。昭和三十一年とは言え、町に行けば米味噌醤油は買えるはず。魚や肉が買えるはず。異世界よりは文明の利器があるはず。十年後、昭和レトロを買って行けばちょっとした金になるんじゃないか?

「あの、ここに住ませてもらえませんか? 体力はあるので畑仕事でも買い出しでもしますんで」

 平成ではないにしても日本は日本。やっと帰って来たんだから昭和を見て回るのもいいだろうよ。

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 相原三月《あいはらみつき》

 昭和31年 1956年 8月