「おはようございます」
野営を終えた朝、私が馬車の傍に設置したテントから出てくると焚火の始末をしているクウと目が合い挨拶をする。
「野営の不寝番ありがとうございました。おかげでゆっくりと休むことが出来ましたよ」
「そいつは良かった。俺たちも交代での見張りだったのでそれほど負担にはなっていないよ。それより、少しばかり腹が減っちまったんだが朝飯はあるかな?」
野営時は特に問題なかったようで、お腹をさすりながらクウが私にそう話す。その時、彼の後ろからカイも顔を見せてため息をついた。
「野営時の朝は飯の催促よりも報告が先だと何度も言っただろ? そんなことだから食い意地が張っていると言われるんだ」
「それは分かっているけど、腹が減るのは不可抗力だと思うよ。あ、もちろん報告はきちんとするからさ」
クウはカイの前で手を振ってゲンコツが飛んで来ないようにガードをしながらそう答える。
「おはようございます。朝の報告をお願いしますね」
ちょうど、そのタイミングでフィーも起きて来たので野営時の報告を聞くことに。正直、私は「特に問題なかった」で構わなかったのだが、ギルドの報告規定でもあるのだろうフィーに向けてカイとクウが気になった点を細かく報告していた。
「お疲れ様でした。報告内容は私がギルドに提出しておきますね」
一通りの報告を受けたフィーは自分の手帳にメモをするとそう言ってから私に朝食の準備を頼んでくる。私の鞄にはこの旅で食べる食事が全てカード化されて入っていたので今回も各自が好きなものを提供することになった。
「ふう、美味かった。こんな旅なら毎回引き受けても良いな」
一つでは足りなかったクウが二つ目の食事を食べ終わった際にそう話す。本来ならば、簡易食にスープが付けば上々な旅の食事に店で食べるものが簡単に出てくるのである。護衛の機嫌も良くなるというものだ。
「さあ、食べたらすぐに出発しますよ。この距離なら大きなトラブルさえ無ければ陽のあるうちにセイレンに辿り着けるかもしれません。野営のリスクを考えたら、多少無理をしてでも進みたいと思います」
「本気かよ。モルからセイレンまで二日で走り抜けるのはかなり強行旅だぞ。まあ、確かにここまで一日で辿り着いたから理論的には可能はずだが……」
フィーの発言にカイが驚きを隠せないが、半分諦め状態で頷く。
「分かった。しっかりと周囲確認をしてやるよ。だが、早く着いたなら酒場で一杯やってもいいな?」
「もちろん良いですよ。経費で奢りますよ」
経費で奢るのが認められるのかはともかく、今日はかなりハードな一日になりそうだということは確定したようだった。
◇◇◇
「――リアさん。止まって昼食を食べる時間が惜しいので馬車を走らせながら食べられる簡易食はありますか?」
なんと、フィーはノンストップで走り抜けるつもりのようだ。これに反応したのは隣に座るカイだった。
「おいおい。いくらなんでも休憩はとった方がいい。馬だって走りっぱなしじゃかわいそうだ」
「そうですよ。早く辿り着きたい気持ちは分かりますが、そもそも馬がつぶれたら辿り着けなくなっちゃいますよ」
私の同意にフィーは「そうでした。すみません」と言って馬車を減速させて近くの広場に停めた。
「馬に水をお願いします。少し休憩したら出発しますので、簡単に食べられるものがあればお願いしますね」
一応、休憩を取ることに同意はしたフィーだが、やはり少しでも進みたいらしくテキパキと指示を出す。それを聞いたカイとクウは『また悪い癖が始まった』とばかりに苦笑いを見せていた。
結局のところ十数分程度の小休憩で馬車は再び走り始めた。町までの距離が分からないので、それほど急がなければならないものなのかと思いながらもじっと外の景色を眺めるしか出来ない私だった。
「海と町並みが見えましたよ」
空の高い位置に見えていた太陽もかなり傾きかけていた頃、小さな丘を越えたあたりでフィーの声が聞こえる。どうやら、目的地が視認出来る居場所まで辿り着いたようだ。
「凄いな。新記録じゃないか?」
フィーの隣でそう呟くカイは半分呆れた顔になっている。
「ふっふっふー。やれば出来るのですよ」
ゴールが見えて少し余裕の出てきたフィーがドヤ顔でそう告げると同時にサーっと海風が馬車の窓から飛び込んでくる。
「あ、潮風の匂い。本当に海なんだ」
「おっ? リアさんは海を見るのは初めてかい?」
私の呟きに反応したクウがそう尋ねるが、前世のことなんて話せるはずがないので私は「はい」と答える。まあ、この世界の海を見るのは初めてだから嘘ではないはずだ。
やがて町は大きく見え、その賑わいを耳で感じられるようになる。初めてくる町はとても新鮮に映り、私の胸は大きく高鳴った。
「今日は約束どおり、酒場に直行します。ただし、あまり羽目は外さないように」
「やったぜ! ギルド公認の酒盛りだ!」
フィーの言葉にクウが両手を上げて喜ぶ姿に私も自然と笑みがこぼれた。
「私はお酒よりも食べ物の方が気になります。海の傍だから新鮮な魚料理が出ると嬉しいな」
「もちろん、この町では魚料理が有名よ。だからこそ今回リアさんがギルドからお願いされた荷物がどれほど喜ばれることか……」
フィーの言葉に私はギルドから頼まれた荷物があったことに気が付く。
「そういえば、大量の荷物を頼まれましたね。あれは何だったのですか?」
カード化した時も特に内容の確認をしなかったため、荷物の入った箱としか認識していなかった。
「基本的には食料ね。しかも、この町では手に入りにくい穀物と大量のボア肉ね」
確かに海が近いこの町では潮風による塩害があるため、穀物を育てることが難しいのだろう。また、その穀物を狙ってくるボアも居ない。
「はー。海が近いと新鮮な魚が食べられる代わりにそんな弊害もあるんですね」
前世の日本ではそういった事は輸送と保存技術で賄っていたが、この世界では流通に時間がかかることが多く、保存技術が未発達なためにこういった事案はよく起こることなのだと改めて知ることになった。
「時間も時間だし、とりあえず泊まる宿の確保をしましょう。ギルドへの報告は明日の朝にするとして今日はゆっくりと楽しむことにしましょう」
町の入口で手続きを完了させたフィーは私たちにそう告げると馬車をゆっくりと進ませる。もう、既に宿泊する宿は決めているのだろう。
「着きましたよ」
それから数分後には一軒の宿に到着していた。そこは、それなりに大きな建物の宿で多くの客で賑わっているのが見える。
「今日はここに泊まります。この宿は商業ギルド御用達の宿で食事もお奨めですが、何と言っても美肌効果のある塩温泉があるのです。これが楽しみで今回の依頼に同行することを志願したくらいですから」
「ははあ、なるほど。そういうことだったのか」
突然カイがそう言うとニマリと笑う。今のフィーさんの発言に思うところがあったのだろう。
「どういうことですか?」
「ん? 彼女がやけに早く辿り着きたいと言っていた理由はただ単に安全面からだけじゃなかったってことだよ」
カイの言葉に私は「ああ」と納得して頷く。本来ならば三日かかる旅路を二日で走破すれば一日余裕が出来る。その空いた一日は自由時間として町の観光に宛てても問題ないはずだ。
「い、いいじゃないですか。本当に野営は危険ですし、滅多に来れない町なんですから楽しみたい気持ちがあっても……」
フィーの気持ちを自分に置き換えれば確かに彼女の言っていることは間違っていない。強いて気になることと言えば、野営の予定を一日町に泊まることにした分の宿代がかかることくらいだ。
「フィーさん。気にしないでください。私もせっかく来たのですから一日くらいは町を見てみたいと思っていましたから」
「リアさん。優しい……」
フィーはそう言って私に抱きついてきた。同性とはいえ、こうしてハグをされるのはどことなく気恥ずかしいが、感謝の気持ちからなので甘んじて受け止めたのだった。
野営を終えた朝、私が馬車の傍に設置したテントから出てくると焚火の始末をしているクウと目が合い挨拶をする。
「野営の不寝番ありがとうございました。おかげでゆっくりと休むことが出来ましたよ」
「そいつは良かった。俺たちも交代での見張りだったのでそれほど負担にはなっていないよ。それより、少しばかり腹が減っちまったんだが朝飯はあるかな?」
野営時は特に問題なかったようで、お腹をさすりながらクウが私にそう話す。その時、彼の後ろからカイも顔を見せてため息をついた。
「野営時の朝は飯の催促よりも報告が先だと何度も言っただろ? そんなことだから食い意地が張っていると言われるんだ」
「それは分かっているけど、腹が減るのは不可抗力だと思うよ。あ、もちろん報告はきちんとするからさ」
クウはカイの前で手を振ってゲンコツが飛んで来ないようにガードをしながらそう答える。
「おはようございます。朝の報告をお願いしますね」
ちょうど、そのタイミングでフィーも起きて来たので野営時の報告を聞くことに。正直、私は「特に問題なかった」で構わなかったのだが、ギルドの報告規定でもあるのだろうフィーに向けてカイとクウが気になった点を細かく報告していた。
「お疲れ様でした。報告内容は私がギルドに提出しておきますね」
一通りの報告を受けたフィーは自分の手帳にメモをするとそう言ってから私に朝食の準備を頼んでくる。私の鞄にはこの旅で食べる食事が全てカード化されて入っていたので今回も各自が好きなものを提供することになった。
「ふう、美味かった。こんな旅なら毎回引き受けても良いな」
一つでは足りなかったクウが二つ目の食事を食べ終わった際にそう話す。本来ならば、簡易食にスープが付けば上々な旅の食事に店で食べるものが簡単に出てくるのである。護衛の機嫌も良くなるというものだ。
「さあ、食べたらすぐに出発しますよ。この距離なら大きなトラブルさえ無ければ陽のあるうちにセイレンに辿り着けるかもしれません。野営のリスクを考えたら、多少無理をしてでも進みたいと思います」
「本気かよ。モルからセイレンまで二日で走り抜けるのはかなり強行旅だぞ。まあ、確かにここまで一日で辿り着いたから理論的には可能はずだが……」
フィーの発言にカイが驚きを隠せないが、半分諦め状態で頷く。
「分かった。しっかりと周囲確認をしてやるよ。だが、早く着いたなら酒場で一杯やってもいいな?」
「もちろん良いですよ。経費で奢りますよ」
経費で奢るのが認められるのかはともかく、今日はかなりハードな一日になりそうだということは確定したようだった。
◇◇◇
「――リアさん。止まって昼食を食べる時間が惜しいので馬車を走らせながら食べられる簡易食はありますか?」
なんと、フィーはノンストップで走り抜けるつもりのようだ。これに反応したのは隣に座るカイだった。
「おいおい。いくらなんでも休憩はとった方がいい。馬だって走りっぱなしじゃかわいそうだ」
「そうですよ。早く辿り着きたい気持ちは分かりますが、そもそも馬がつぶれたら辿り着けなくなっちゃいますよ」
私の同意にフィーは「そうでした。すみません」と言って馬車を減速させて近くの広場に停めた。
「馬に水をお願いします。少し休憩したら出発しますので、簡単に食べられるものがあればお願いしますね」
一応、休憩を取ることに同意はしたフィーだが、やはり少しでも進みたいらしくテキパキと指示を出す。それを聞いたカイとクウは『また悪い癖が始まった』とばかりに苦笑いを見せていた。
結局のところ十数分程度の小休憩で馬車は再び走り始めた。町までの距離が分からないので、それほど急がなければならないものなのかと思いながらもじっと外の景色を眺めるしか出来ない私だった。
「海と町並みが見えましたよ」
空の高い位置に見えていた太陽もかなり傾きかけていた頃、小さな丘を越えたあたりでフィーの声が聞こえる。どうやら、目的地が視認出来る居場所まで辿り着いたようだ。
「凄いな。新記録じゃないか?」
フィーの隣でそう呟くカイは半分呆れた顔になっている。
「ふっふっふー。やれば出来るのですよ」
ゴールが見えて少し余裕の出てきたフィーがドヤ顔でそう告げると同時にサーっと海風が馬車の窓から飛び込んでくる。
「あ、潮風の匂い。本当に海なんだ」
「おっ? リアさんは海を見るのは初めてかい?」
私の呟きに反応したクウがそう尋ねるが、前世のことなんて話せるはずがないので私は「はい」と答える。まあ、この世界の海を見るのは初めてだから嘘ではないはずだ。
やがて町は大きく見え、その賑わいを耳で感じられるようになる。初めてくる町はとても新鮮に映り、私の胸は大きく高鳴った。
「今日は約束どおり、酒場に直行します。ただし、あまり羽目は外さないように」
「やったぜ! ギルド公認の酒盛りだ!」
フィーの言葉にクウが両手を上げて喜ぶ姿に私も自然と笑みがこぼれた。
「私はお酒よりも食べ物の方が気になります。海の傍だから新鮮な魚料理が出ると嬉しいな」
「もちろん、この町では魚料理が有名よ。だからこそ今回リアさんがギルドからお願いされた荷物がどれほど喜ばれることか……」
フィーの言葉に私はギルドから頼まれた荷物があったことに気が付く。
「そういえば、大量の荷物を頼まれましたね。あれは何だったのですか?」
カード化した時も特に内容の確認をしなかったため、荷物の入った箱としか認識していなかった。
「基本的には食料ね。しかも、この町では手に入りにくい穀物と大量のボア肉ね」
確かに海が近いこの町では潮風による塩害があるため、穀物を育てることが難しいのだろう。また、その穀物を狙ってくるボアも居ない。
「はー。海が近いと新鮮な魚が食べられる代わりにそんな弊害もあるんですね」
前世の日本ではそういった事は輸送と保存技術で賄っていたが、この世界では流通に時間がかかることが多く、保存技術が未発達なためにこういった事案はよく起こることなのだと改めて知ることになった。
「時間も時間だし、とりあえず泊まる宿の確保をしましょう。ギルドへの報告は明日の朝にするとして今日はゆっくりと楽しむことにしましょう」
町の入口で手続きを完了させたフィーは私たちにそう告げると馬車をゆっくりと進ませる。もう、既に宿泊する宿は決めているのだろう。
「着きましたよ」
それから数分後には一軒の宿に到着していた。そこは、それなりに大きな建物の宿で多くの客で賑わっているのが見える。
「今日はここに泊まります。この宿は商業ギルド御用達の宿で食事もお奨めですが、何と言っても美肌効果のある塩温泉があるのです。これが楽しみで今回の依頼に同行することを志願したくらいですから」
「ははあ、なるほど。そういうことだったのか」
突然カイがそう言うとニマリと笑う。今のフィーさんの発言に思うところがあったのだろう。
「どういうことですか?」
「ん? 彼女がやけに早く辿り着きたいと言っていた理由はただ単に安全面からだけじゃなかったってことだよ」
カイの言葉に私は「ああ」と納得して頷く。本来ならば三日かかる旅路を二日で走破すれば一日余裕が出来る。その空いた一日は自由時間として町の観光に宛てても問題ないはずだ。
「い、いいじゃないですか。本当に野営は危険ですし、滅多に来れない町なんですから楽しみたい気持ちがあっても……」
フィーの気持ちを自分に置き換えれば確かに彼女の言っていることは間違っていない。強いて気になることと言えば、野営の予定を一日町に泊まることにした分の宿代がかかることくらいだ。
「フィーさん。気にしないでください。私もせっかく来たのですから一日くらいは町を見てみたいと思っていましたから」
「リアさん。優しい……」
フィーはそう言って私に抱きついてきた。同性とはいえ、こうしてハグをされるのはどことなく気恥ずかしいが、感謝の気持ちからなので甘んじて受け止めたのだった。

