極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

 食事と言う名の治療をした翌日、俺とアーネットは依頼の結果を確認するためにギルドを訪れた。

「――依頼の結果を聞きに来たんだが、ギルド長は居るか?」

 受付で俺はギルド長に取り次ぐように頼むとすぐに返事がきた。

「昨日と同じ部屋にお進みください。ドアをノックしてからお願いします」

 受付でそう言われた俺たちは昨日の部屋へと向かいドアをノックする。

「入っていいぞ」

 部屋の中からモルドーの声が聞こえる。俺はドアに手をかけるとゆっくりと押し開いた。

「良く来てくれた。昨日はすまなかったな」

 部屋に入るとモルドーが椅子から立ち上がって俺たちを迎えてくれる。その顔には深いクマができており、ずっと起きていたのだろうと推測できた。

「ずいぶんといい顔になっているようだが、経過はどうだ? まだ腹が減っているようなら追加の注文も出来るぞ?」

「ははは。この期に及んでまだ食事の設定が生きているとはな。まあ、見ての通りだ。無事に快方へと向かっているのは俺の目にも分かる。強いて言えば本当の食事があれば更に良かったがな」

「それはどっちの食事だ? なんなら二人ともこの場で準備してやろうか?」

「おいおい、冗談で言っただけだったが本当に準備出来るのか?」

「もちろんだ。伊達に食堂をやっているわけじゃない。いつでもどこでも飯だけはすぐに売ることができてこそだからな」

 俺はそう言って胸を張るが、隣でアーネットが鋭いツッコミをいれてくる。

「そんな無茶なことを言えるのはグラードおじさんくらいですよ。どこの世界に病人のお見舞いに来てその場で食事を作ろうなんて言う人がいますか?」

「心配しなくてもここで調理をするわけじゃない。こんなこともあろうかと昨夜のうちに作って収納しておいただけだよ」

 俺はそう言って収納袋から昨夜作った二人の食事を取り出した。

「本当ならばギルド長にはもっとしっかりとした食事をとも思ったが、娘さんと同じものを食べるのもありかと思ってな。魔獣の骨から出汁を取ったスープに穀物を入れた雑炊になる。身体に優しいし、うまいぞ」

 俺は収納袋から取り出した鍋からお椀に半分ずつ注いでモルドーに渡す。彼は両手でそれを受け取ると熱さを確かめてから身体を起こした娘のリュエルに手渡した。

「グラード殿のご好意だ。一緒に頂くとしよう」

 モルドーはそう言って娘に優しく微笑んだ。

「あ、美味しいです。濃厚なのに口当たりのいいスープは初めて飲みました。中に入っている穀物にも味が染みていて食べるたびに元気が戻ってくるような気がします」

 一口は少ないがリュエルは自らの手でスプーンを持ち、俺の料理を飲み込むとそう言って微笑んだ。

「確かに、これは初めて食べる味だ。これが本当に魔獣の骨から作られたものなのか? とても信じられん……が、全て本当のことなのだろう」

 リュエルの傍で同じ料理を口にしたモルドーが驚きの表情をしながら感想を口にする。長年研究してきた魔獣料理のひとつの成果を評価された俺も満足げな顔で口を開いた。

「これで魔獣肉には癒しの効果があると信じてもらえましたか?」

 俺の言葉にモルドーが椀から俺に視線を移して小さくうなずくと驚きの事実を語り出した。

「実はギルドの資料にも魔獣の素材は重要な資源である可能性を秘めているとの見解もあったようだ」

「なんだって? じゃあなんでギルドは魔獣肉には毒があると広めているんだ?」

「グラード殿がこの町で魔獣肉を使った食堂を始めると聞いて記録を調べ直したのだよ。その中では魔獣素材の可能性についても書かれていた。もちろん魔獣肉についてもだ」

「ならば、毒は特定の場所にあるだけで他は無毒であることも分かっていたのか?」

「いや、当時の者はそこまで詳しくは調べられなかったらしい。なにせ、脅威的な力を持った奴らだ。調べたいからと簡単に捕まえて来られるものではなかったからな」

「なるほど。少ない情報で間違いがあってはいけないので全面的に食うのは禁止としたんだな」

「記録からはそうともとれる。だが、俺の考えでは魔獣は力も強く恐ろしい存在だ。そのために食料として狩るには普通の獣に比べて危険が伴うとして無理な討伐をしないようにとの配慮だったのではないかと考えている」

「じゃあ、俺が食堂で魔獣肉を使っていると知っても止めなかったのは……」

「私がそれを知った時には既に何人もが食べた後だったし、それで体調不良を起こした者も居なかった。それどころか体調が良くなったと聞かされたら信じてみるしかないだろうが」

 モルドーはそう言って苦笑いを見せたのだった。



「――これは今回の報酬だ。娘を救ってくれて本当にありがとう」

 後日、正式に依頼の報酬をモルドーから受け取った俺は彼にひとつのお願いをした。

「ギルド長。今回の件はまだこの地区での話に留めておいてくれないか?」

「なぜだ? 今回の件を上に報告すれば君が望む魔獣素材の有用性を認めてもらえるかもしれないのだぞ?」

「話はそう簡単じゃないだろ? 古くからの常識とされた魔獣肉は毒であるとの認識は広く浸透している。俺やギルド長が今回の成果だけで声を上げてもギルド上層部や国が手のひらを返して認めるのは難しいと思う」

「うーむ。確かに君の言うとおりかもしれんな」

「それに、俺的にはもう十分に魔獣素材について理解していると思っていた。だが、まだ上層部を説得するには実績や根拠が薄いとも感じている。だから、まだ暫くはこの町の人たちと共に実績を作り上げたいと思っているんだ」

「それは、この町の人たちを実験台にしようということかね?」

「ははは。悪くとらえればそう見えるでしょうが、俺の食事を通じてこの町から病人をなくすことが最大の実績になると思っている」

「ほう。これは大風呂敷を広げたな。わかった、今回の件は私のところで止めておくことにする。ただし、人の口には戸を立てられないという。町の誰かが他の町の者に話して協力を求められたら無視をするわけにはいかないだろうな」

「その時は大いに助力してもらって構わない。俺は自ら外に売り込むつもりがないだけで助けを求める人の手を振り払うつもりはないからな」

「なら、問題ないだろう。娘が元気になったら私も一度、家族で食事に顔を出させてもらうつもりだ」

「その時は最高級の魔獣肉を出せるように準備をしておくとしよう」

「それは楽しみだ。よろしく頼むよ」

 こうしてトルバリンで起こった流行り風邪に関する騒動は終息を迎え、俺の日常である食堂ライフが戻って来た。

「グラードおじさん。魔豆鳥と新鮮野菜のスープの追加注文入りました。常連さんも続々と来店されています。一週間以上休んでいたからカールさんたちがその反動で凄く沢山注文してくれたので急いで作ってくださいね」

 食堂にアーネットの弾んだ声が響き渡る。極うま魔獣肉が焼ける匂いが店内に充満するのを鼻で感じて俺は今日もフライパンを握るのだった。