極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

 グラードおじさんが素材収集に行ってしまった。今回は私――アーネットの癒しだったホイップも一緒に行ったので暫くはこの広い家に私一人で過ごさなければいけない。

「ご飯はいくつかの作り置きもあるし、私でも作れる料理はあるから心配ないけれど一人で街を歩くのは危険だから控えるようにと言われているし、正直言って暇よね」

 私はとりあえず時間を潰すためにお店の掃除を始めた。テーブルや椅子の拭き掃除から床に壁まで。でも、掃除は日頃からやっているので特に時間もかからず終わってしまった。わかっていたことだけど、いつもの顔が見えないとこんなに心細くなるものだと改めて認識させられた。

「そういえば、一人で買い物に行っては駄目だと言われたけれどギルドの書庫で調べものをするのは問題ないと言っていたわね」

 どうせ一人で留守番をしていても時間が進まないのなら、魔法に関して自分で調べた方が効率がいい。私はすぐに準備をすると家の戸締りをしてから外に出た。

「おーい。アーネットちゃん」

 家のドアに鍵を掛けていると北門の方から私を呼ぶ声が聞こえた。

「一人でお出かけかい? どこに行くんだ?」

 声の主を見るといつもお店を利用してくれる門兵のカールさんだ。

「こんにちはカールさん。ちょっとギルドの書庫に調べものをしに行こうと思っているんです」

 お店の常連さんの中でグラードおじさんが信用していいと言っていた一人だったので私は素直に行き先を話したのだ。

「そうか。なら、ギルドまで送ってやろう」

「え? お仕事は大丈夫なんですか?」

 門の出入りを管理する人がその場を離れてもよいのかと思い、私は彼に問いかけた。

「ああ。元々この門を出入りする人は少ないからな。何せ北の森に面しているから、人よりも獣の方が多く通るんじゃないか?」

「それもどうかと思いますけど……」

「まあ、俺もグラードさんから頼まれているからな。君が外出するのが見えたら声をかけてやってくれと」

「グラードおじさんが?」

「ああ、君の行き先が問題ない場所なら護衛についてやってくれとも言われている」

「でも、迷惑じゃ?」

「ははは、タダじゃないから気にするな。一度の護衛につき店の料理、一食分の無料券をくれることになっているんだ。しかも特別な食事らしい」

 グラードおじさんは私が気を使わなくていいようにカールさんと事前交渉をしていてくれたのだろう。

「ふふふ。グラードおじさんらしい頼み方ですね」

「だろ? あんな交渉をされたら絶対に引き受けるに決まってるよ。お金を貰える以上の価値があると俺は思っている」

 カールはお腹を擦りながら満面の笑みを見せる。

「じゃあ、お願いしても良いですか?」

「よし。任せておけと言いたいが、少しだけ待ってくれ。相方に話をつけてくるから」

 カールは私にそう告げると走って相方の男に話をして戻って来た。

「よし、いいぞ。ギルドにはどのくらい居るつもりだ?」

「そうですね。少なくとも三時間くらいは居るつもりです」

「その歳で勉強熱心なことだ。俺だったら本を数分も読んだら寝られる自信があるぞ」

 カールは私の歩くスピードに合わせて横に並んで歩きながら話をしてくれる。

「興味のあることならそうでもないと思うんですけど、カールさんはどんなことに興味がありますか?」

「そうだな。強いて言えば剣技に関することだな、仕事がら魔獣なんかと戦うこともあるから強くなければ怪我をすることになる。町に侵入されれば皆を危険に曝すことにもなるから強くありたいとは思っている」

「立派ですね。私も誰かの役に立てる力が欲しいです」

「アーネットちゃんはまだ子供だからな。きっと大人になる頃にはその夢も叶うと思うぞ」

「ありがとうございます。そうだといいですね」

 話をしながら歩いていると見慣れた建物が見えた。

「おっと、ギルドに着いたぞ。三時間ほどしたら様子を見に来るから勝手に帰るんじゃないぞ。いいな?」

「わかりました。迎えが来るまで書庫に居ますね」

 カールは私の返事に満足して、笑みを浮かべながら手を上げると私が中に入るまで見届けてくれたのだった。



 ――からんからん

 ギルドのドアを開けるとドア鐘が鳴る。中に入ると複数の視線が私に向くのが分かって少し表情がこわばるのを感じた。

「あら、アーネットさんじゃないの。今日は一人?」

 声の主を見ると顔見知りの受付嬢のエリザだった。

「はい。グラードおじさんは北の森に行ったので私は書庫で調べものをしようと思って来ました」

「そうなのね。書庫の場所はわかる?」

「はい。前にも行きましたから」

「じゃあ。許可書を渡すから中にいるルージュに見せてから見たい本を聞くと良いわ」

 エリザさんから許可書を受け取った私は書庫へと向かう。さて、どんな内容を調べようかな。

 ――コンコン

 私は書庫のドアをノックして部屋へと入る。中に入ると目の前にあるカウンターに座るルージュさんの姿が見えた。

「あ、ルージュさんこんにちは。魔法に関する本を見せてもらえますか?」

 ガタン!

 私が彼女に声をかけると書類に集中していたルージュが突然立ち上がり私の名前を呼んだ。

「アーネットちゃん!? 一人で来たの?」

「はい。ちょっと時間が余ったので魔法について勉強しようと思って来ました」

「えーっ! お姉さんに会いに来たんじゃないの? 魔法の勉強も良いけど、せっかく来たのだからお姉さんと一緒にお茶しない?」

 ルージュは凄いハイテンションで私をお茶に誘ってくる。なんだか少し怖い。

「い、いえ。ちょっと調べものをするために来たのですから遠慮します」

 私の返事を聞くとルージュは凄く残念そうな表情を見せるが、ここで流されるとずるずると行きそうなのではっきりと断ることにしたのだ。

「凄く残念だけどアーネットちゃんの勉強を邪魔して嫌われたくないから無理強いはしないわ。それでどんな魔法について知りたいの?」

 もっとしつこく誘って来ると思っていただけに少しだけ拍子抜けしたが、せっかく書庫に来たのだから知りたかったことについて問い合わせることにした。

「畑に水を蒔く魔法を知りたいです」

「畑に水を? 攻撃魔法とかではなくて?」

「はい。私の魔力では攻撃魔法なんてとても習得出来ないと思っています。なので、お店の裏庭にある畑の水やりが出来ればグラードおじさんの役に立てます」

「あー。なんて健気で可愛いの! アーネットちゃんうちの子にならない?」

 ルージュはそう叫ぶと私をギュッと抱きしめてきた。

「すみませんが、お断りします。と、言うか放してください。苦しいです」

「ああ! ごめんなさい。あまりの可愛さに理性が飛んでしまったわ」

 ルージュはそう言って私に謝ると書庫の棚から一冊の書籍を取り出して私に手渡してくれた。

「畑に水を撒く方法はいくつかあるけど、この魔法が一番簡単だと思うわ。適性魔法属性は水と風ね」

 ルージュはそう言って順番に説明をしてくれる。彼女の根底は真面目な性格なのだろう、一度教えるモードに入ったルージュはさっきまでの近い距離から一転して使う魔法の仕組みから組み合わせる手順までを丁寧に分かりやすく説明をしてくれたのだった。

「理論で言えばこんなところだけど、残念ながら私には魔法適性がないから見本を示すことが出来ないの。ごめんなさいね」

 最後まで説明を終えたルージュが申し訳ないと言いながら頭を下げる。

「いえ、凄く分かりやすかったです。お家に帰ったらさっそく練習してみますね」

 私がお礼を言って笑みかけるとルージュは感激のあまり顔を赤くして私に抱きついてきたのだった。

「――今日はありがとうございました。また、分からないことがあったら来させてください」

 私は教えてもらったことをきちんとメモにまとめるとルージュに再度お礼を言ってから書庫を後にした。ギルドの受付に戻るとちょうどカールさんが迎えに来てくれたようで私をお店まで護衛してくれた。

「書庫はどうだった? なにか収穫はあったか?」

「はい。試したいことが沢山ありました。明日は家で特訓をしたいと思ってます」

「そうか。ならいいが、外出するつもりなら声をかけてくれ。いつでも一緒にいってやるから」

「はい。ありがとうございます」

 こうして家まで送ってもらった私は夕食を食べて布団に潜りこみながら今日得た知識を反すうしながら眠りについたのだった。